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第23話「合流」

前回 第22話「挑戦」


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ビジネスの話


この日亜衣は出社するとボスに呼ばれて会長室に来ていた。

「ボス、お呼びですか?」

部屋に入るとアイロンが接客用ソファーに座ってノートPCを見ていた。

「よぉ、救世主。こっちへ来て俺の事業マップをを見てくれ。」

とアイロンが隣に座るように促した。

「何ですか、その〝救世主〝って?」

と亜衣はソファーに座りながら聞いた。

「いやぁ、昨日の『プレイヤーの側から金融を制してこそ発言権が持てる。』っていう言葉に感銘を受けてな。俺は今では生きているうちに使いきれないくらいの財産があるし、何なら自分で市場を作ろうと思えば作れるポジションでもある。ブロックチェーン黎明期の今なら特にな。

※ブロックチェーン革命
https://miraisozo.mizuhobank.co.jp/money/80171.amp

でも、大衆が本当に自分ごととして俺のやることを支持してくれるかというと、どんなに明るい未来を提示したところで『それは資本主義の胴元が言うことでしょ。』と壁を造られちまうんだ。。。だから大衆を、いや人類を次の時代へ導けるのは誰もが憧れるヒーローではなくて、等身大の勇気あるプレイヤーの1人なんじゃないかって思ってな。その点でこれから君は救世主にでも何でもなれる状況さ。」

とアイロンは天才事業家であるが故の悩みを吐露した。

「私なんかが救世主だなんて。。。でも、凄い人には凄い人の悩みがあるんですね。」

と唸る亜衣。

「はははっ、凄くはないさ。俺程度のセンスの持ち主はごまんといる。学生時代なんか『よくそんなことを思いつくな。』っていう同級生なんかたくさんいたな。でも、そのアイデアを荒削りでも良いから実行に移し、形にするところにセンスとは別のものがいるのさ。」

あの世界的に有名なアイロン・マックスの特別個人レッスンだと思うと、亜衣はピンと背筋が伸びた。

「ん? どうした、急に緊張して。
・・・ちなみにKojiと仕事の話をする時もそんな感じで背筋を伸ばすのかい?」

と隣から距離を縮めながら聞くアイロン。

「渡辺社長は、どうでしょう。初めは緊張しましたけど、気さくで豪快な人なので緊張はしないですね。。。」

と亜衣が答えると、

「はははっ、あいつは俺が言うのも何だけど、天才だぜ? それに事業を形にするっていう点でも優秀で、俺はそれをあいつから学んだんだ。

今の俺の事業でもあいつが一枚噛んでるのもあってな、俺だけでは出来ない部分を担ってくれてるのさ。日本では災害シミュレーション関連の事業に絞ってるけどな。

人工知能研究の〝Open ur AI” だってあいつと共同で立ち上げたんだぜ。名前は出してないけど。」

※参考
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/OpenAI

「えっ、そうなんですか?? ・・・社長ってやっぱり凄い人だったんだ!」

人工知能開発がやりたくて入った日本の会社だが、亜衣は社長がエンジニアとして天才だとは知らなかった。

「ははは、あいつは災害シミュレーションとAI開発に人生を賭けている節があるからな。

それで〝MAI”のことも途中から預けたんだが。。。」

と意味ありげに言うアイロン。

「えっ、マイ、、、さん? 日本の方ですか?」

(そんな先輩社員、うちの会社にいたかなぁ?)と思いながら聞く亜衣。

「ん、いや、、、ゴホンッ、、、

〝マイ”っていうのは俺の娘なんだ。娘と言っても血は繋がってなくて、例の特別養護施設で出会って引き取ったんだ。」

と亜衣にも聞いておいてほしい感じで身の上話をし始めるアイロンだった。

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身の上話


「ボスの娘さんがあの養護施設に。。。?」

実際に前日見て来たあの特別な子ども達を収容している養護施設、あそこ出身ってことは娘さんも何かの症状を抱えているのか。。。と思いながら聞く亜衣。

「ちょうど20年前のことだけど、あの施設から支援の依頼があって実際に見てみようと思って足を運んでたんだ。

そしたらマイが地べたに座り込んで熱心にお絵描きをしていたんだけど、、、驚愕したよ。まだ4歳の誕生日が来てない未習学児っていうんだぜ?

〝1、2、3、5、8、13、21、34、55 〜”っていう順に数字を螺旋状に書いて塗り絵をしてやがったんだ。

そればかりか、新聞の金融チャートの切り抜きに線と数字を書き込んでたものもあって、その数字っていうのが〝0.236 0.382 0.618 1.618 2.618〜”っていう具合でな。。。」

と今でも信じられないという感じで首を振りながら話すアイロン。

「えっ、その数字、、、フィボナッチ数。。。!?」

と驚く亜衣。亜衣も数学のプロであり、あのブログで何度も目にし、もはや体で覚えている数字だった。また、亜衣自身も幼少期に素数をおハジキで仲間分けしたりはしていたが、金融チャートに小数を書き込むなんて次元が違う。

「未就学児って言っても、誰かが興味本位で覚えさせたのかとも思ったけど、職員も数の書き方を教えただけでフィボナッチ数なんて誰も知らないっていうんだ。

〝特別な子ども”が集まっている施設ってことを聞かされてなければ俺もスルーしたかもしれない。 

でもあの時俺は導かれたようにあの子の元に行って、『お嬢ちゃん、この数字はフィボナッチ数だね? どうしてチャートの上にメモしてるのかな?』って聞いたんだ。」

と胸を上下させて興奮しながら話すアイロン。

「な、何て答えたんですか??」

と亜衣が早く続きを教えてという感じで聞く。

「うん、そしたらな、『・・・フィボナッチスーって何? チャートって新聞のこと?』って聞き返すんだよ。

はははっ、その存在も知らないのに本能で書き込んでたんだぜ?それも金融チャートをチャートとして認識することもなく!」

天才は天才を知るというが、数学にも精通していて自らもいわゆるgiftedであるアイロンが「上には上がいる」という感じで目を輝かせながら話している。

「ボスがそんなに驚くなんて。でも確かに常識外れの凄さですね。もうそこまで行くと、数学の才能というよりはもはや超能りょ、、、」

と言いかけたところで何かに引っかかって止まる亜衣。

(この常人離れした感じ、、、Miky先生の時に感じたものと似ている。。。)

そう思った亜衣はアイロンがボスだということも忘れてその袖を引っ張りながら

「そのマイさん、引き取ったってことは今も親子でいらっしゃるんですよね? 今は何をされてるんですか?どこにいらっしゃるんですか? どんな感じですか?歳はいくつですか? 20年前に出会ったんですよね?その時3歳ってことですよね??」

と一気に捲し立てた。

「おいおい、落ち着けよ。俺より興奮してるじゃないか。彼女は今ニューヨークにいるよ。自動運転事業のステラモータースでドローン開発をやってる。あー、年齢は、、、君と同じ23歳だ。」

「!?」

(23歳?あのステラで開発をやってる?施設育ち? 3歳からチャート研究をやっている?)

「まさか、まさか!?」

顔に手を当てて考え込む亜衣。

「何だ、どうしたんだ? うちの娘を知ってるのか?」

と不思議そうに聞くアイロン。

「え、あ、もしかしたら、、、いやそんな凄いエピソードの人が2人いるとは思えないというか、、、

あの、ボス、私が尊敬するトレードの師匠がいて、、、それはそのマイさんかもしれません。

日本人に対してトレードを教えているというお話はされてませんでしたか?? 」

と答える亜衣。

「何?そんなことがあり得るか?? なんていう偶然だ、Oh、Jesus!

いや、最近は彼女も仕事に没頭してしているというか壁にぶち当たっているようで塞ぎ込んでしまっていてな、、、あまり話せていないんだ。メッセージの返信もないんで心配していたところだ。」

それ以降、アイロンの娘のマイさんが学校には行かずに家庭教師と勉強していたこと、中学に当たる年齢の頃には先生のほうが付いていけずに人工知能と競い合っていたこと、アイロンが日本の精神文化を学ぶように勧めたことなどを聞いた。

「Miky先生、Miky先生。。。」

亜衣はMiky先生とのつながりに何か見えない力を感じると同時に「やり取りが出来ないのは自立するための期間」と決意した気持ちが大きくなっていた。

「会うことがあるならば一人前になった時であり、そうでなければMiky先生の力になることも出来ない。」という思いで、トレードコンテストへの使命感を強めるのだった。

次回へ続く


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