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第1話「出逢い」

前回「プロローグ」


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社内カフェテリアにて

「はぁ〜・・・」

窓際のカウンター席から階下の雑踏を見下ろしながら、亜衣はため息をついていた。

「ねえ、どうしたの?さっきから見てたけど、何回もため息ついて。」

同期入社の寛子が怪訝そうな顔で隣の席に半身で座ってきた。寛子は大学時代からの縁で、今は同じ会社の営業部に所属しており、入社後もちょくちょくお茶に行く仲だった。

〝リケジョ”で飾り気のない亜衣と比べて、寛子は学生時代からミスコン出場やモデルのバイトなど陽の当たるほうの生活をしている分〝そういう事情”にも敏感だった。

「あ〜、分かった。そういうことね。なんだ、相談してくれたら力になるのに。男だ、男でしょ?そうなんでしょ?」

当たらずとも遠からずだったが、〝想い人”についてため息を漏らしていた空気を悟ったのはさすが数々の恋愛女子の相談に乗り、何組も成就させて来た百戦錬磨の寛子というべきか。

「えっ、何で分かるの?いや、別に好きな人ってわけじゃないんだけどね。勝手に憧れているだけっていうか、何ていうか、、、送ったのよ、メールを。昨日の晩寝る前に意を決して送ったんだけど、朝出勤前にチェックしても返信は来てなくて。。。 深夜に勝手にメールするなんて失礼な奴だと思われちゃったかな?」

亜衣は心を見透かされたようで焦りながらも、よくぞ聞いてくれましたともいう感じで早口で切り返した。

「何アンタ、完全に恋する乙女じゃない。大学時代は着替える手間が面倒だからって、家から白衣で登校してたアンタがねえ。

よし、お姉さんに任せなさい。その人年齢は?何してる人?まさか既婚者じゃないわよね? ねぇ、どんな人?イケメンなの?ねぇ?」

寛子は自分の胸を右手でトントンと叩きながら自分に任せておけば悪いようにはしないという顔で、事情聴取を始めようとした。

「ちょ、ちょっと待ってよ。そんなんじゃないってば。ていうか、『お姉さん』って同い年だし!

勝手に想ってるっていうか、尊敬してる人なの!だいたいまだ会ったこともなければ見たことさえないんだから。。。」

亜衣はこの数ヶ月の間、毎日毎日何度も見返したブログを通して確かな存在を感じ、読むほうが入り込み易く工夫された文面や芸術的なチャートから、「絶対に魅力的な人に違いない」という信望の念を抱いていたが、

そんなことはパッと話を聞いただけの寛子には通じなかった。

「ああ、恋活アプリね。あれは〝合理的”に出逢えるけど、気をつけた方がいいわよ。既婚者だって紛れてるし、いろんな事件だってあるんだから。」

「だから違うって!尊敬してる人だってば!」

「よく分からないけど、そんなに尊敬してるっていうんだったら、無理に繋がろうとせず〝片想い”のままいたほうが良いかもね。ハゲデブのオヤジかもよ?」

寛子は横目でニヤっとしながらイタズラっぽく言った。

「ねぇ、何でそんなこと言うの?マイキーさんはそんな人じゃないし!あっ。。。」

「マイキーさん? アンタそれ外人? やめときなさい! 悪い意味でYouは何しにニッポンへ来てるか分かんない奴も多いんだから。特にアプリは!」

「だからアプリじゃないってば!」

「あ、そろそろ仕事に戻んなきゃ。亜衣、とにかく距離感が大事よ、距離感が。また進展あったら聞かせてちょうだいね。じゃあね。」

言いたいことだけ言って慌ただしく出て行く寛子を見ながら、亜衣はボソっと言った。

「距離感かぁ。。。」

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自宅にて

いつもなら仕事帰りには最寄駅のアーケード商店街をブラブラしながら、生活用品や本を買ってから帰路に着く亜衣だったが、今日は真っ直ぐに家に帰って来た。

というのも、帰りの電車の中でスマホでチェックした例のブログのメールボックスに受信のマークが付いていたからであった。

満員電車内では無理してメールの中身までは見ずに、家に帰ってシャワーを浴びて体を清めてから(?)見ようと思い、足速に家に向かった。

家に着くと、レオナルドが構ってくれというように足元にじゃれついて来たが、亜衣は冷蔵庫のジャスミンティーをコップ一杯一気飲みしてから、すぐに浴室に向かった。

「にゃんだよぉ〜。いつもならひとしきり抱っこして喉元を撫でてくれるのに、今日は放置プレイかにゃ〜」

レオナルドは浴室のドアをガリガリと爪で擦るも反応がないので、諦めてリビングへと戻っていった。

「さてさて、あ〜、緊張する〜。」

濡れた髪をバスタオルで拭きながら、PC席に座った亜衣を、「撫でてくれにゃ〜」という目で足元からレオナルドが上目遣いで見ている。

「おいで、レオ」

亜衣が自分の膝を叩いて合図すると、レオナルドはヒョイと亜衣の膝の上の乗り、ゴロゴロと喉を鳴らしながらスリスリし始めた。

亜衣はいつものようにレオナルドに話しかけるようで、かつ、自分に言い聞かせるような口ぶりで、独り言を言い始めた。

「落ち着け〜。落ち着け〜、私。」

そう言いながらメールボックスをクリックして、例のメールを開いた。

まだ見ぬ憧れの人からの返信はどんな感じかと、目をキラキラさせながら画面を見ている亜衣を見てレオナルドは、

「そんにゃに面白いのかにゃ?画面は全然動いてないにゃん。どうしてそんなに目を輝かせてるにゃん?? 人間はよく分からないにゃん。」

という感じで亜衣の膝からピョンと飛び降り、お気に入りのカゴの方へ走っていき、例のように螺旋を描きつつ定位置の姿勢になって寝始めた。

「開くよ〜、、、えいっ!

『Ai Okamura様』だって。あ〜、本当に返信だ〜!当たり前だけど〝実在”するんだ〜。どれどれ〜。。。」


〜Re:初めまして

Ai Okamura様

Aiさん、こちらこそ初めまして。

いや、固ぇし! 不作法・無礼とか、かしこまり侍か!! 

「ワタクシメ」とかリアルで使うやつ、初めて見たし!天然か!!w

「ナンピトタリトモ」とか怖えぇし!逆にビビるし!手法なんてブログに載せとるし!むしろワイから率先して載せとるし!

質問あるならフツーに送れし‼️ドシドシ送れし‼️遠慮するなし‼️



>Original massage  

波乗りMiky様

いつもブログを拝見し、勉強させていただいております。

当方FXを勉強し始めて半年ですが、まったく上手くいかずに悩んでいたところ、波乗りMiky様のブログに出逢い、一筋の光が見えました。

以降毎日ブログを読み返しては、早く勝ち組になれるように取り組んでいますが、未だに角度の取り方について理解が追いつかず、リアルタイムのチャートでは悪戦苦闘しております。

もしよろしければ、本当によろしければ、行き詰まった時には質問をさせていただくことは可能でしょうか? もちろんヒントを与えていただいて、それをきっかけにまた自分自身で状況を打開できるように頑張る所存です。決してご迷惑はおかけしません。また、何人たりともMikyさんの手法の秘密は漏らさないと誓います。

ご多忙の折、私めのメールにお目通しいただき、誠にありがとうございます。

いきなりのDMで不作法、かつ、無礼があったら申し訳ございません。

何卒よろしくお願い申し上げます。

追伸:本当に尊敬しております。Mikyさんのように芸術的なラインをいつか私めも引けるようになるのかは分かりませんが、勝手に憧れさせていただいております。



(次回 第2話 「回想」)







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