彼が無職になりお金を大切にするようになって見えてきたこと

2019年の4月中旬、同棲している年下の彼が突然無職になった。

世間では、働き盛りと言われる二十七歳で。

九州から上京後、大学一年生の頃から大学卒業後もあわせて約八年間つとめた中華料理店を辞める決断は彼なりに容易ではなかったはずだ。

飲食店の人手不足な状況のなか、彼にかかったプレッシャーはかなり大きいもので重圧に耐えられなくなったのだ、と思う。

彼は人一倍働き者だった。そんな彼だからこそ、知らず知らずのうちに限界の限界まで働きすぎてしまったのだ。

精神状態がかなり不安定になった彼が仕事を辞めると言った時わたしは彼をあたたかく抱きしめて受け入れるしかなかった。

よく頑張ってきたね、と。

この広い東京のなか、わたし達はふたりで生きているのだ。

「なんとかなる」

そう口で言う反面、心のなかは次第に不安の海で満たされた。

お金、どうしよう・・・・・・。

今までは、家賃も生活費も折半でやってきた。
外食などをする場合も基本割り勘だが、時々彼に奢ってもらう事もあれば、こちらが奢る事もある。

わたし達は、お互い無理して背伸びしない気楽な関係だった。

これからは、どうすればいいのか。

という不安の感情が湧いてくるのも、わたし自身に問題があった。

わたしの収入が不安定だからだ。

彼が辞めた中華料理店のアルバイトと、漫画の原稿料でなんとかやっと食いつないでいる状況である。

そして、本当に仕事としてやっていきたいと願う漫画の方を本気で頑張りたいと思っていた矢先に彼が無職になってしまった。

わたしは例え夫婦になっても、収入がある方が男女関係なく家計を支えていけばいいと思うので、もしわたしに金銭的余裕があるなら、彼が主夫になりわたしがバリバリ働くのもアリだと思っている。

しかし現実はかなり厳しい。お金のことを考えれば考えるほどプレッシャーがのしかかり寝れない夜もあった。

金なし職なしの彼との二人三脚生活のスタート。

かろうじて、今より広いマンションに二人で引っ越すための費用を数十万円、彼から預かっていたため、しばらくそこから家賃の半分はもらえるという。
もちろん引っ越しはかなり後回しになったが。

それでも彼が週六で働いてきた頃と違い、随分と生活が質素になり、大きな変化もあった。

まず、彼もわたしもかなり飲んべえのお酒好きで以前は毎日お酒を飲んでいたが、現在はほぼお酒を飲まない生活にふたりとも切り替えている。

そして以前は一緒に家で食事をする際折半だった食費だが、できるだけ今はわたしが負担しようと米やパスタを大量に買って食うものだけは困らないように心がけている。

彼が飲食店で働いていた頃はほぼお店でまかないを食べて生活していたので、彼の食費はかなり浮いていた。

それが現在は毎日食費がかかるので、節約を大切にするようになった。

例えば、このスーパーより隣のスーパーの方が野菜が安い、とかそういうささやかだけど積もり積もれば大きな節約を地道にするようになった。

冷蔵庫の中の野菜や食べ物も大切にするようになった。

今日はこれだけ野菜を使って半分は明日のために、と翌日のことを考える毎日。

彼と外食をする機会が随分と減った。
外食をするなら、弁当を持ってピクニックする方が良い。金銭的に。

そうやって、一時間以上歩いてわたし達はある日の昼下がり公園へ出かけた。
シートとお弁当を持って。

お酒は、この時十日ぶりにスーパーでついつい購入したが、外食をして飲むことを考えるとかなり安上がりだ。

家から持参した冷やしうどん。
冷たいつゆは魔法瓶に入れて、食べる直前にかける。
青空の下で食べる冷やしうどんはかなり美味しい。

平和だなぁと思う。
お金のない二人だけどこうやって肩を並べて一緒にいられる幸せ。

わたしは、むしろこの状況を前向きに考えるようになっていた。

彼が無職になったからこそ、お金を大切に節約するようになった。

数日前、無性にかき氷が食べたくなった時もそうだ。

近所にかき氷を食べられる場所は沢山あるけど、かき氷機を購入して自分で作った方が安いのでは?
そう思って近くの家電量販店で買いに走ったかき氷機はなんとポイントを使うと三百円で買えた。
シロップも三種類も揃えたのにわずか千円くらいでかき氷を作る用意ができたのである。



三色のかき氷にしたり

贅沢に缶詰のフルーツ(百円くらい)をのせて練乳をかけたり。缶詰のフルーツは量が多くかき氷5食分くらいの量がある。

お店で食べると高いだろうなぁ、というかき氷が自宅で食べられるのだ。材料費を計算するとわずか数十円だろう。

夕方は彼とサウナスーツを着てウォーキングをするのが最近の日課であり、わたし達のお金がかからないデートの時間である。
ウォーキング中、まるで海外の映画に出てきそうな豪邸を眺めながら「すげえな」と彼が言って「すごいね」と言い合うのが密かな楽しみの一つだ。

「俺らの住居スペース、この豪邸の車庫より狭いよな」
彼が健気に笑うと、「ねー」と相槌を打ちわたしも笑った。
豪邸は、見ているだけで幸せな気分になる。
豪邸でなくても、民家の庭や玄関先で咲く花を見るのも楽しみの一つだ。

決して裕福とはいえないのに、何でわたしはこんなに幸せなのだろうか。

ありきたりなセリフだが、愛する人がそばにいるから幸せなのだ。

食事は野菜中心になり、酒も随分飲む回数が減った。

かなり健康的な生活をしている。

言い方が変かもしれないが、これも彼が無職になったおかげである。

彼の栄養も考えて野菜を買うようになると、自然にわたしも野菜を沢山食べるようになったのだ。

大好きで彼が仕事中こっそりとっていた宅配ピザも随分と食べていない気がする。

大好きなピザやお酒は、本当にたまにの特別なご褒美にしたらいいのではないかなぁと今は思う。

もったいない、もったいない。

わたしの最近の口ぐせである。

外で飲むお金があれば

ピザをとるお金があれば・・・

今日だけの事ではなく明日や未来のことを考えてお金を使うようになった。

貯金は少しあるが、何かあったときのために使いたくない。

貯金に頼らず、今は無職の彼と節約しながら生きている。

彼の心が元気に回復するまでしばらくこんな生活が続くが、今の質素な生活がむしろ楽しいとまで思っている。
規則正しい生活を始めて体の調子も肌ツヤもいい気がする。

そして彼が最近また働く意思を持つようになり、まずは派遣のバイトを登録した。

彼なりに少しずつ前進しているのだ。

わたしも頑張らなければ。

そう思いながら見上げた空は熱く焼けていた。



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