今日のことをどうしても書きとめておきたいのでこちらに失礼します。(昨日、他のSNSで友人限定で書いたものです)

自分で言うのも照れくさいのだけど、バイト先でわたしのファンだ、と言ってくださる常連のご夫婦がいる。ファンと言っても漫画ではなく、これまた自分で言うのも気がひけるがわたしの接客のファンというありがたいお言葉をいただいている。

わたしは週末しかほとんど入らないのだが、わたしに会いに毎週末必ず食べに来ている、といつも旦那様が豪語してくださって実際いつもご来店してくださった。

奥様は、近くの寿司屋で働いていてよくこっそりと寿司のさしいれをしてくれた。

そのご夫婦の姿をここ三ヶ月、バイト先では見かけられなくなっていた。

年末、旦那様が脳の疾患で倒れて都内の病院に寝たきりになってしまったのだ。

先日、奥様がご友人とご来店いただいた時、旦那様の入院先を聞き出して、今日彼とお見舞いに行ってきた。
お見舞いに行くこと自体、迷惑だったらどうしよう、と入院先を聞き出す前は躊躇していたが、奥様は是非わたし達が見舞いに行ったら旦那様が元気になる、と言ってくださり背中を押してもらった。

お見舞いに行くのは正直言って怖かった。脳の疾患だけにちゃんとわたし達のことを認識できるのだろうか、とか色々考えてしまった。

あの元気なYさん(旦那様)がまさか倒れて寝たきりになるなんて。

ドキドキしながら病室に入ると、寝たきり姿のYさんがいた。

「おお・・仕事の時と印象違うな」

しっかりした口調で私服姿のわたし達に口を開いた。

Yさんだ。

寝たきりになったけど、あの頃と変わらないYさんがいた。

いや、実際はかなりやせ細って点滴を打ちながら生きていた。

Yさん・・・・・!

差し入れのシュークリームとお菓子を冷蔵庫にいれた。

「ありがとうな、後で食べるよ」
優しい笑顔でYさんが言った。

事前にYさんが食欲なく点滴で栄養をとっている事は奥様から聞いていたが、シュークリームが好きとのことで、もし食べる気になってくれたら嬉しいなぁと思った。

Yさんは、ペラペラと話し出した。

あまりにも話すので、気をつかわせているのか心配になった。

Yさんは、自分が寝たきりの状態なのに、わたし達のことを心配していた。

わたし達が今後どうなるか、早く彼もバイト生活じゃなくちゃんとしろよ、とか。

まるでお父さんみたいだな、と思った。

手も口も動くが、下半身が動かない状態のYさん。

「勘弁してくれよ、助けてくれよ」

と嘆いていた。

「死ぬかと思った」

とYさんが言った通り、Yさんが倒れた時息子さんが発見したのだが、あと少し発見が遅れていたら状況はさらに深刻だったのだという。

正直、わたしは以前と同じようなジョークを言ったり笑ったりするYさんに、ほっとしていた。
なんだ、よかった、ちゃんとわたし達のことも分かってるし思ったより大丈夫やん、と。

しかし、やっぱり寝たきりで弱々しくなったYさんの姿を見ていると、なんとも言えない感情になった。

中華料理屋で働いて二年数ヶ月。

色んな方々との別れがあった。

Yさんご夫婦とはまた別の常連さんで「俺、末期癌なんだよ」と自分で豪語しながらいつもお酒を飲んでご飯もモリモリ食べていたLさんという方がいた。
Lさんはサンタクロースみたいな雰囲気で優しくて明るくて、とても末期癌には見えなかった。

絶対嘘やー、と心の中で正直思っていた。Lさんのしんどそうな表情を見たことはなかった。

ただ一度だけ、Lさんがご友人の方々と飲んでいらっしゃった時Lさんの泥酔していた姿を見たことがある。
その時、わたしはLさんにダンスしましょう、と言わんばかりのポーズで絡まれて、苦笑いしながらうまく交わしたのを覚えている。
Lさんはいつもわたしのことを褒めてくださり本当に優しい方だった。

Lさんは亡くなった。

末期癌は本当だった。

Lさんが最後にいれたボトルを抱きながら、閉店後静かに泣いた。

あの時、Lさんが泥酔してわたしに絡んできた時、交わすんじゃなかった。別に体を触られたり嫌な絡み方でもなかったのに。
Lさんのまだあの時はあったかかったであろう両手を握って、なんならハグでもすれば良かった。

わたしは店長にお願いした。

「Lさんのボトル、このままずっと棚に置いといてもらえませんか」

「いいよ」

数ヶ月後、Lさんのボトルがなぜか中身がわずかだったはずなのに、新品に近い状態になっていた。

「あれ? なんで?」

一緒にホールで働いている彼に聞くと、LさんのことをしたっていていつもLさんと一緒に飲みに来ていた方々がLさんの名前を引き継いで飲みに来ているとのことだった。

Lさんはみんなの中で生きている。

あのまま、きっとLさんのボトルが残ったままよりみんなに飲まれて嬉しかっただろうな、と勝手に思っている。
Lさんはみんなと飲むのが好きだったから。

これが、バイト先で一番悲しいお別れだが、他にも常連のあの方お亡くなりになったんだよ、とか聞いたりして悲しい事もある。

どうしても生前、その方々がそこにいてご飯を食べていた姿を思い出すと胸がしめつけられる。

当たり前のようで当たり前ではない、普通に生きること。

そして生きていても、ある日突然生活ががらりと変わる事がある。
それでもわたしはYさんが生きていてよかった、と思う。
辛い、とYさんは言うけれど。

なんだか、Lさんのことを思い出したり、色々考える一日だった。

今を大切に、大切な人が元気でいることに、ありがとう。

#エッセイ #日記 #写真

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?