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SpaceLINK参加記

9月13日、総合宇宙イベント『SpaceLINK 2023』に参加してきた。

今年のテーマは「Wonder! 身近な未知との遭遇」。テクノロジーそのものだけでなく、ビジネスや政策、果ては私たちの生活やエンターテインメントにまで関わって来ている宇宙と「つながる」というイベントだ。官公庁、民間企業、研究機関といった垣根もそこにはなかった。

ピッチ

オープニングスピーチ

小林鷹之議員による特別登壇では、「宇宙」との関わり方に関する認識を改めることができた。
簡単に言えば「宇宙開発≠宇宙旅行」ということ。宇宙に行くだけでなく、宇宙から地球を見ることでできることがある。そう、2023年の今、「宇宙」は夢物語の範疇ではない。極めて現実的な、現在進行形の技術革新の一部なのである。

例えば建築。現在地図アプリなどでよく使われているD-GPSという測位方式では50cmほどだった誤差を、RTK方式では5cmまで縮めることができている。精密な建築のために人工衛星が活躍する。

あるいは漁業。宇宙から海中の魚群の存在を画像解析で探知すれば、効率的な漁業だけでなく、養殖にも応用できる。

石油の管理にも使える。高度な画像解析は、油田の蓋の位置を測定して石油の残量を推測することもできるという。

大阪公立大学

ロケット事故の最大の原因といえば静電気。その静電気を検知するセンサーを開発されているのが大阪公立大学だ。

シリコンフォトニクスという光を閉じ込める技術を利用し、電気を使わずに静電気を検知する。「電気を使うから故障する。ならば電気を使わなければ良い」……まさにコペルニクス的転回なのではないだろうか。

株式会社SPACE NTK

NOMAのメンバーでもある葛西智子さんが代表を務める「宇宙SOH」の会社。SOHは葬と想を表しており、ご遺骨を宇宙に打ち上げる宇宙葬と、メッセージ等を打ち上げる宇宙想を提供する。

宇宙葬とだけ聞いてもピンと来ない方もいらっしゃるかもしれないが(私もそうだった)、これは宇宙に放り出すという話ではない。打ち上げられたご遺骨は衛星軌道上をしばらく回ったのち、地表に落ちて燃え尽きる。つまり空を旅したのちに流れ星になるのである。「お空で見守っている」「星になって輝いている」といった、人々の心に古くから刻まれている比喩表現を文字通り実現してしまうのだ。

私は思った。葬儀が宇宙まで手を広げたのではない。宇宙開発技術が人の弔いまで寄り添えるようになったのだと。

ブース

株式会社Dymon

YAOKIという世界最小の月面探査車を開発している会社。
498gという超軽量で、小型であるがゆえに低コスト。月面探査のみならず、被災地等の地上点検も可能とのこと。

ブースでは実際にYAOKIを操作することができた。

YAOKIの操作体験コーナー

カメラが搭載されており、YAOKIからの映像をリアルタイムで確認できる。ブースでは写真左下のラジコンなどのようなコントローラーだが、実際に月面探査の際はディスプレイのタッチパネルで操作することになるそうだ。

面白かったのが、一緒に稼働実績を作る企業を募集していたこと。YAOKIはあくまで探査車なので、何かと掛け合わせることで活用の幅を広げるのである。

スペース・バルーン株式会社

宇宙に行く方法はロケットだけではない。この会社は高度30,000mまでの飛行が可能な「気球」を提供する。成層圏までの飛行なので有人飛行でも訓練が不要で、かつ安価に実現できる。映像撮影やリモートセンシングにも十分な高度だ。

また、宇宙港「スペースポートIBARAKI」の構想もあるそうだ。

SpaceLINK参加して

民間企業、特にベンチャーが宇宙開発を牽引している印象で、それがとても希望あるものに感じられた。無論、国家が主導すべきとの思いもあるが、自由な競争の中で生まれる多彩な発想と、功利主義ゆえに講じられるコストカットのための手段など、民間ならではの目線での合理的な開発は見ていて心地よい。例えば衛星軌道に乗せなくても、成層圏までにとどめたとしても、十分活用できる技術はある。理想をあるごと実現するのは困難だが、「ここまで」と線引きをすれば早期の実現が可能なことも多いのだ。現状に合わせた取捨選択は、かえって未来を近づける。

とはいえ、現実主義だけが未来を切り開くわけでもない。先ほど宇宙は夢物語の範疇ではないと書いたが、誰かが夢を見るからこそそれを実現する手段が生まれるのである。

インターステラテクノロジズはSF作家の発想から生まれたという。次に生まれる最先端技術も、きっと誰かが描いた夢だ。

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