「ビジネス」の罠 ~後編~

つづきです。

あの日からしばらくたったある日、
藤川から電話がかかってきた。

「もしもし? 今日の夜時間ある?」

その日はアルバイトが休みであったのでフリーだった。

「大丈夫だけど。どうしたの?」

「今日の8時から○○ビルの屋上の喫茶店であるビジネスの話があるんだけど、山本とまこ様にも来てほしいんだ。」

「そんな固いものじゃないから普通にお茶すると思ってきてよ。山本が場所を知ってるから一緒においでよ。」

私は了承し、山本に連絡をとった。

その後、山本と合流し目的地へ向かった。

喫茶店につくと藤川が手をふっている。

近づいていくと他に何人かいた。

藤川の席につくと横にいたスーツの男性が私に話しかけてきた。

「こんばんは。君が今日話をきいてくれるまこ様かな?今日はよろしくね。」

と言いさらに名刺を渡してきた。

いきなりのことに訳がわからないまま名刺を受けとり藤川の方を見ると、

「凄く偉い人だけど緊張しないで。いい人だから。な、山本。」

と山本もこの男性を知っているようだった。

「とりあえず座ってよ。好きなもの頼んで。」

とスーツの男性が言った。

とりあえず私は場の雰囲気に緊張しきっていた。

メニューを見ても何を頼んだらいいのかわからないくらいに。

そんな私を見かねた藤川が

「とりあえずコーヒーでお願いします。」

と注文をきめてくれた。

「じゃあ説明するね。藤川くんと山本くんから聞いてると思うけど、僕たちは今新しいビジネスを始めようと思ってるんだ。」

何の話だ?
私はなにも聞いてないぞ。

そう言いかけたとき藤川が鋭い目で私を威圧し、その目は「今は話を黙って聞け」と語っているようだった。

スーツの男性は話を続けた。

「今ってスマートフォンが普及してるよね。それにともなってそのスマートフォンのアプリもすごい勢いでビジネスフルになってきているんだ。」

そのあとも1時間くらいにわたって説明をしてくれた。

こちらの内容も省略させていただくことにする。

別のノートで集中して書きたいと思う。

「で、藤川と山本はもうこれに参加していて君もどうかな?この話は早いだけ早いほど利益が生まれる。一番下のプランなら出資してもいいんじゃないか?」

一番下のプランとはこの案件の最も安い投資額であり、他の二つより額は桁違いで安い。

一番下と言っても75000円する。

普通ならこんな話に賛同し払わないと思うだろう。

しかし、その時の私は場の雰囲気に飲み込まれ、スーツの男性の説明する内容がすごく魅力的に思えたのだった。

このとき私が思ったことは、

前にビジネスに参加すると決めたこと。

この案件は前の案件より早く、そして高額なバックが見込める。

そしてなによりこの案件は、スーツの男性が私にしてくれたように次は私が他の誰かにこの話をして賛同を求めるという、よりビジネスっぽいこと。

そして藤川と山本もやっているという安心感。

そして私は学生が行うとは思えないようなビジネスに足を突っ込んだ。

スーツの男性と連絡先を交換した。

なぜならこれから親密な仲になるからと。

そして私たちはその場をあとにし、藤川のマンションへと戻った。

家につくと藤川が申し訳なさそうに謝ってきた。

「ごめんな。いきなりのことで。でも俺たちがまこ様にあの話をしても絶対にうまく伝わらないと思ってさ。でも結果的に一緒にすることができて嬉しいよ。」

と言ってきたが私は少し藤川に対する信頼は薄れていた。

「とりあえず今日は解散しようか。また連絡するよ。」

そして私たちは解散した。

後日スーツの男性から連絡があった。

内容はこの前の案件の説明を完璧にできるようにすることだった。

私はもらった書類を見てスーツの男性と同じように仮想で説明をしようとしてみた。

少し難しい内容であり、全然できなかった。

次会うときまでにはという風に言われていたので何度も書類に目を通した。

それから数日たった頃、家に封筒がとどいた。

藤川から紹介をうけた50000円の案件の方の書類だった。

中には会員専用のwebページのURLとIDとパスワードが書いてある紙が入っていた。

私は早速ログインしようとしてみた。

しかし何度もパスワードを入れてもerrorの文字がでてくる。

おかしい。

すぐに藤川に連絡をとってみた。

「そうなんだよ。俺もログインできないんだよ。でも心配しないで、この会社の偉い人と繋がっているから聞いておくよ。また連絡するからまこ様はもう一個の方の案件を進めといて。」

なんだ藤川もログインできないのか。

私だけではなかったようだ。

私はあまり気にすることなくその書類を引き出しにいれてしばらく待つことにした。

それから数年たった今もログインできずにいる。

いつの間にかホームページも削除されていた。

それからスーツの男性からの連絡も途絶えた。

あれだけ目を通した書類はただの無機質な紙となった。

藤川とは今もたまに連絡をとっている。

彼は頑張ってある資格をとろうとしている。

住んでいたマンションから実家にうつり工場でアルバイトをしている彼を見ると以前の輝きとは違うまた新しい輝きが見える。

山本とも連絡をとっている。

焼肉屋でアルバイトをしながらセミプロとしてパチスロをしている。

そんな彼の口癖は

安定がほしい。

である。

結局、今回の二つのビジネスの話は藤川、山本のせいではない。

彼らもまた被害者なのである。

このような話はこの世にごまんとある。

私は、私のようになってほしくないと切に願うのみである。

これにて

「ビジネス」の罠は完結です。

皆様が思うビジネスとはどんなものですか。