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宮崎駿最新作『君たちはどう生きるか』レビュー③塔の大局観

他のレビューを見ていると、大叔父というのが死後の世界を牛耳っていて、何か色々創出しているみたいな解釈が多いが、そんなわけない。

なぜなら、塔は宇宙から降って来たのである。大叔父はそれを、難工事の末梱包しただけだ。そして、最初に調査した人物として中に入っただけだ。そして、そこの長であるかのような錯覚に陥って、そこに居続けている。

塔は見知らぬ宇宙の超越的テクノロジーなのであり、支配者は別にいるのであり、大叔父が支配者であるはずがないのである。

じゃあ、誰が支配者なのか?

似たようなモチーフは『シュナの旅』にある。シュナの上空をUFOが通過し、追いかけてみると、UFOが巨大なイソギンチャクーシュワの墓所にも似たーの上空に止まり、イソギンチャクへ人間の奴隷を降り注ぐ。すると奴隷はヒドラのような化物に改造され、1日で実る麦を育てる。この超越的バイオテクノロジーは、UFOの中身の宇宙人のものである。

だから、『君たちはどう生きるか』における塔のテクノロジーも宇宙人のものであると思われる。宇宙人のテクノロジーが、どうしてヒサコ、ナツコの家の敷地に降ったのかは定かではない。現段階ではおそらく、たまたまだろう。

そのテクノロジーとは何か?

宇宙人は、地球人と違って死後の世界の存在を知っていたと思われる。それで、死後の世界と現世を行き来するテクノロジーを開発した。

あるYoutube解説によると、塔の入り口にフランス語でダンテの『神曲』と書いてあるそうである。ダンテの『神曲』はルネッサンスにおいて、暗黒のカトリック時代が終焉し、イスラム世界の知識が流入した時期に書かれた。それは、江原啓之における階層の法則が細かく設定されているもので、キリスト教的には地獄、煉獄、天国の3カテゴリーに入っているものである。『神曲』はその幽界行脚をするもので、それはイスラム神秘主義に内蔵されていたグノーシス主義の系譜、イスマーイール派などによって語り継がれてきた、すなわちスピリチュアリズムの影響下にあるものなのである。

神秘主義哲学はその後、カタリ派、アルビジョワ派、ドルイド教などと形を顕現させながら、18世紀にはスウェーデンボルグ、グスタフ・フェヒナーなどを経て、19世紀にはスピリチュアリズムになり、ブラバツキーが神智学を始めルドルフ・シュタイナーになり、ニューエイジに至る。そしてしまいには、ユング派という心理学の一学派を形成する。パンピーはこれらの名詞を羅列されても意味が分からない。

これらの示すことは、宮崎駿は神秘主義、すなわちスピリチュアリズムの世界観でこの幽界行脚を描いた、ということである。

そこで宇宙人が支配者なのは、その現世と幽界を行き来するテクノロジーそれ自体についてだけなのであり、死後の世界を支配しているのはもちろん神である。

じゃあ、その中で大叔父の占める位置は何か?

ただの思い込みである。

幽界では心象風景がそのまま環境になる。つまり、自分の夢の中にいるのである。その物質的側面をスピリチュアリズムではエーテル体と呼んでいる。エーテル体は万物の原因と考えられていたもので、漢字で表すと幽か(かすか)となる。だから幽界なのであり、そこで霊は幽体になる。

塔のテクノロジーは放射線のように現世に流出しており、ヒサコ、ナツコの敷地は現世と幽界の汽水域になっていた。だから、幽界の不思議なものが、つまり、誰かの想念が漏れ出し物質化(エクトプラズム化)していた。

それが各種の化物である。

例えばあの、アオサギが取り沙汰されることが多いが、あれは現世ではただの動物の霊であるが、幽界では誰かの想念で特殊なエーテル体をまとっており、それが物質化したものと思われる。

本作に出て来た幽界に人霊は、死霊が大叔父、ヒサコ、生霊がマヒト、ナツコ、お手伝いのおばあちゃんの5名しかいない。大叔父とヒサコには現世に肉体がないが、マヒト、ナツコ、おばあちゃんには肉体がある。なので前者は死霊、後者は生霊となる。

死後の世界では自らと親和性の高い霊魂が集い、世界を形成するが、特に幽界の現世に近い部分では、現世で縁の深かった霊がそのまま近親者となる。お互いに現世の近親者が真の近親者だと思い込んでいるからである。

そこで、現世で見知りのあるこの5人が、この5人だけの世界を形成していた。この5人は、お互いの想念が織りなすイメージの創出し合いで、世界が混沌としていた。

それで人霊よりも格下の動物霊を引き寄せて、さらにイメージを装飾していた。というのも、霊は自らより格下の霊は思い通りに動かせるが、格上の霊には従うしかないからである。格上の霊とは神である。

というわけで、本作はこの5人の人霊の想念が、入り乱れて織りなすドラマなのである。

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