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兵役に向かう男に与えた恋人との別れのシーン

「悲しみのジェット・プレーン」は、ピーター、ポール&マリー(以下P,P&M)が1969年に発表したシングルによって、ヒットした。当初は、1967年のアルバム「アルバム1700」に収録した一曲だった。とあるラジオDJが熱心にエア・プレイしたことを機にシングル・カットされると、チャートを上昇してP,P&Mに初の全米1位をもたらした。作詞作曲は、ジョン・デンバー。60年代の中頃、フォーク・グループのミッチェル・トリオの一員として活動したのち、独り立ちしてほどなく発表した作品だった。ジョンもP,P&Mも、音楽監督は共にミルトン・オークン。P,P&Mが同曲を採用するに際しては、恐らく彼が縁になったに違いない。P,P&Mにおいては、楽曲の作者、またはグループで採用することを提案した者が、曲のリード・ヴォーカルを取ることが多い。「悲しみのジェットプレーン」の場合は、リード・ヴォーカルを歌う紅一点、マリーの意向が働いていたのだろう。

とある男性と女性の別れの場面が、歌われる。いつ帰って来られるか分らないと言いながら、男性は行きたくないとつぶやく。もしも帰って来た時には、女性に結婚指輪を持ってくるとも言う。ベトナムに兵士として向かう男性が主人公かもしれないと、かねがね思っていた僕は、オレゴン州ポートランドのレコード・ショップのオーナー、エリックと会食した際に、この点を尋ねた。彼の返事はこうだった。
「確かにあの歌は、ベトナム戦争を背景にした歌だ。徴兵される者に送られてくるのは、バス・ステーションから軍事基地までの切符か、または電車の切符だ。タクシーのチケットは、送ってこない。
兵役の対象になるかどうか、それは事前に決められている。私の場合は、高校卒業の際に抽選が行われ、兵役の対象者が決められた。対象になったのかって?いや、外れた。ラッキーだった。
召集は、突然にやってくる。翌朝には、基地に向かわなければならないこともある。あの歌のシーンに、『タクシーがホーンを鳴らしながら待っている』という一節があるだろ?そのバス・ステーション、あるいは駅まで行く早朝の道すがらに、彼は女性の家に立ち寄ったんだ」。
当初、ジョンがつけた歌のタイトルは「行きたくない(I hate to go)」だった。あんまりのタイトルだと考えたミルトン・オークンが、「飛行機で旅立っていく(Leaving On A Jet Plane)」を提案した。タイトルの変更がヒットに貢献したとジョン自身も認めているものの、当初に用意したタイトル「行きたくない(I hate to go)」に、彼の真意が込められていたのだろう。

エリックはこう続けた。
「作者はジョン・デンバーだね?ジョンが、兵役に向かう男に与えた恋人との別れのシーンが、あの歌だ」。


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