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バート・バカラックとディオンヌ・ワーウィックの蜜月が終わるとき

自作自演が主流となるロックの時代にもかかわらず、歌手に作品を提供する職業作曲家として大きな成功をおさめたのが、バート・バカラックだ。黒人女性シンガー、ディオンヌ・ワーウィックと組んで、「サン・ホセへの道」、「ドント・メイク・ミー・オーヴァー 」、「ウォーク・オン・バイ」、「恋よ、さようなら 」など、これら全米チャート30位以内にランク・インした作品のほか、数多くのヒット曲をものにした。

バカラックの音楽には、それまでのアメリカン・ポップスの手法と大幅に異なっている特徴がある。一般的にはメロディの下支えや背景としての役割を与えられる和声が、バカラックにおいては、時にはメロディとぶつかりあい、また拮抗しあい、実に刺激的な役割を演じる。そのうえ転調や変拍子が、ごく当たり前のように用いられる。音楽要素のそれぞれが、歌詞を伴う情緒の助長を促すのではなく、まるでパズルのひとこまのように器楽的な魅力を発揮する。それは、ジャズの器楽演奏にも似た発想なのかもしれない。これが彼の音楽のクールさ、奇抜さの根拠だ。従来のヴォーカル音楽では用いられることのなかったこの種の技法に、柔軟に対応したのがディオンヌ・ワーウィックだった。バカラックの作品を表現するには、彼女の卓抜な才能が必要だったし、バカラックは歌手ディオンヌを得て、自身の音楽才能を全面的に開花させたとも言えるのだろう。

二人の蜜月関係も、終わりを迎える時が来る。ある時、ディオンヌから彼の作品をもう歌わないとの申し出を受けたバカラックは、「これから誰に歌ってもらえばいいんだ」と困り果てた。その時にディオンヌが持ち出した提案は、カーペンターズのリード・シンガー、カレン・カーペンターだった。ディオンヌは、さらりと「カレン・カーペンターね」と答えたという。
恐らくこの発言は、シンガーならではのディオンヌの直感によるものに違いない。バカラック作品が要求する高度な要請に答える歌唱力を、カレンは持っているはずだとディオンヌは見抜いていたのだろう。こんな映像を見る時に、ふとディオンヌのその言葉を思い出す。

歌唱の音程の正確さ、リズムの切れ味、歌詞の言葉を伝えるニュアンスのさりげなさなど、ディオンヌとはまた違う形で、カレン・カーペンターは、バカラック作品の魅力を伝えたシンガーだったと思う。


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