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ジャパン・メイドだった洋画のテーマ音楽

 イタリアで生まれ、現在は日本在住のギタリスト、クロード・チアリの当たり曲と言えば、「夜霧のしのび逢い」。1963年製作の同名ギリシャ映画が、日本公開されるに際して、日本においてのみ映画に挿入されたテーマ曲だった。原曲は、ギター・インスト・グループ、ロス・マヤスに在籍していたベルギー人のジョー・ヴァン・ウェッターが作曲した「一人ぼっちの浜辺」。という訳で、クロード・チアリの演奏は実のところカバー・ヴァージョンだったのだが、日本ではこちらが定番として親しまれ、映画のタイトルのままに「夜霧のしのび逢い」として定着してしまった。

 もっとすごい例が、1962年の映画「太陽はひとりぼっち」のケースだ。試写を見て映画をイマイチと思った日本の配給会社の担当者が、なんとか主題曲から映画に注目を集める方法はないものかと、レコード会社のスタッフに相談した。そうして生まれたのが、コレット・テンピア楽団の演奏する「太陽はひとりぼっち」だった。演奏をしたのは、すべて日本人スタジオ・ミュージシャン。編曲も同じく日本人音楽家。そもそものテーマ音楽がフィルムから消し去られ、コレット・テンピア楽団の演奏がフィルムの音楽トラックにダビングされた。そして公開。そして日本制作のレコードは、50万枚を超えるビックヒットとなった。当時の音楽誌チャートには、外国盤ヒットシングルとして掲載されている。そして映画の方も大当たりしたのだというから、なんとも面白い実話である。

 というわけで、外国映画を日本公開する際に、日本側の判断でテーマ曲を制作したり挿入したりした例は、実は決して珍しくはない。かつてレコード会社に勤務していた時代に、実はこのボクも担当したことがある。ボク自身が、制作ディレクターの張本人だった。映画のタイトルは「マッド・マックス」。シリーズの第1作で、メル・ギブソンの出世作となった1979年公開のオーストラリア映画である。日本公開版の最後に流れたテーマ曲「Rollin' Into The Night」は、当時のオリコンでトップ30に入り、シングル盤が30万枚を売り上げるヒットとなった。英語による歌詞を歌ったのは、串田アキラさんだ。あの富士サファリパークのCMや数々のアニメソング、特撮映画の主題歌を歌い、今やその世界では知らぬものがいないほどの方だ。

 串田アキラさんが「マッド・マックス」のテーマの歌唱者だということは、ご自身もラジオなどで発言されているので、今では情報が解禁されているとしていいのだろう。ただし映画公開当時は、ヒミツだった。あるとき宣伝部の部長が、テレビの歌番組であの映画の曲を歌えないか?と言ってきたことがある。テレビに出ちゃうと、日本人が歌っていることがバレバレになっちゃいますよ。ああ、そうだなと、このプロモーション案は立ち消えになったのだった。



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