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そして理解しあえる仕事仲間を作ること

 偶然に点けたテレビで1963年公開のアメリカ映画「シャレード」を見た。主演はオードリー・ヘップバーン、映画音楽はヘンリー・マンシーニが担当している。

 もちろんミステリー仕立てのストーリーも面白いし、ジヴァンシーが提供したというヘップバーンの衣装も素敵だけれど、なによりマンシーニの音楽の巧みさに驚かされた。主題曲は「シャレード」。あのメロディが、ラテン・パーカッションが躍動するヴァージョン、コーラスのヴァージョン、遊園地の回転木馬のような響きのヴァージョンなど、実に多種多彩な楽器編成やリズムのバリエーションによって変奏される。そのアイデアの豊富さ、センスの鋭さに改めて感嘆した。


 まだ20代だった1950年代、6年間に渡ってユニバーサル・スタジオに勤めていた頃を振り返り、音楽部長のジョセフ・ガーシェンソンから様々なことを学んだとして、マンシーニは次のようなことを記している。「編曲、改作、オーケストレーション、アダプテーション、早書き、少ない時間と予算との戦い、そして理解しあえる仕事仲間を作ること」。これは、実にリアルな言葉だと思う。「早書き」や「少ない時間と予算との戦い」といった声が聞こえてくるのが、興味深い。いつでも、どこでも、現場ではこの種の苦労があるのだ。「改作」や「アダプテーション」といった言葉からは、テーマ曲の変奏が意識されていたことを、知ることができる。テーマメロディの様々な変奏は、映画音楽の制作上のポイントの一つなのだろう。そして「理解しあえる仕事仲間を作ること」。これこそ、最も心に留めておくべき言葉かもしれない。仕事とは、いつの時代もそういうものなのだ。


 マンシーニは、映画のサウンド・トラックをそのままレコードに移し替えて発表することを嫌った。オリジナルのスコアに手を加え聞きやすくしたうえで、映画公開後にレコード録音用のスタジオで音楽を今一度、吹き込み直した。そしてレコードにして発表した。従ってサウンドトラック・アルバムとして発表された音源は、実を言うと文字通りではない。これが、音楽家マンシーニのこだわりだった。

 なお「シャレード」とは、英語で"謎解きゲーム"のこと。映画を見終わる頃には、このウィットの効いたタイトルの楽しさに気づくことになる。

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