見出し画像

札幌弘栄堂書店の閉店から考える今後の書店の未来

寝耳に水の閉店

札幌書弘栄堂書店のアピア店が突如閉店してしまって、今も大きな喪失感の只中にいる。アピア店が閉店するとは全くの寝耳に水であった。私が訪れたのは閉店一日前の日曜日で、閉店を告げる張り紙を見たときは心底驚いた。店員さんに伺うと、金曜日に知ったとのことで、店長も急に知らされたらしい。アピアを通ると、弘栄堂書店の跡地にシャッターが下がってしまって、その部分だけが店舗の光が存在しない、暗くて虚ろな空間になっている。

弘栄堂書店の他店舗では、白石の北郷店も8月に店舗改装に伴い閉店することが決まっている。弘栄堂書店パセオ西店も北海道新幹線の工事に伴い、9月末に閉店が決定済みだ。つまり、弘栄堂書店というブランドが消滅することになる。ただ、新聞の報道によると、弘栄堂書店は撤退とは考えておらず、どこかいい物件があれば出店したいと考えているようだ。そこが唯一の希望である。

地元のFMラジオの番組でも、弘栄堂書店閉店を採り上げており、MCがよく立ち寄っていた書店であることを語っていた。いくら電子書籍が普及しようが、ネット書店の方が隆盛を極めようが、リアル書店で棚を見ること抜きには面白い本を発見することはできない。これは自信を持って断言できる。

弘栄堂書店のすごさは、店員が実際に読んで本当に面白い本を平積みしているところにある。いわゆる一般的なベストセラーを必ずしも並べているわけではない。恐ろしくマイナーな本が平積みされていることもあり、訪れるたびに品揃えが変わるのがとても楽しみであった。

過去には、貫井徳郎『慟哭』が1000冊も売れるといった、謎のベストセラーを輩出するなど、他の書店にはない平積みのセンスを発揮しており、私もどんな本を平積みしているのかを探りに、特に購入する予定がなくてもよく足を運んだものだ。

個人的には書籍カバーのデザインがとても好きなので、札幌駅に立ち寄るときは最も優先して購入してきた。事実、このnoteでも公開してきた「#名著を読み解く」シリーズで取り上げてきた本も、弘栄堂書店で購入した本が少なくない。札幌駅で本を買うとき、三省堂や紀伊國屋まで足を運ぶよりも、弘栄堂書店の方が最も物理的に距離が近い位置にあるので、非常に重宝していた。

書店がなくなることの損失とは

ふらりと立ち寄る書店がなくなるのは、巨大な損失だ。過去には、弘栄堂書店で小学生くらいの子供がお母さんに荻原規子の文庫本をせがんで買ってもらったのを見たことがある。一冊の本が人生を大きく変えることがあると考えると、文化レベルの低下の影響は避けられない。その影響はすぐに出てくるわけではないが、何年がすると、思考力や学力の低下として現れて、政治レベルの低下を招くことになる。その損失は目には見えず、データとして統計に表れるわけではないが、計り知れないダメージとなって跳ね返ってくる可能性が高い。

跡地にどこか別の書店が出店しないだろうか?
思い切って大垣書店のような書店が空きテナントの跡を継いで、書店をオープンしてくれないだろうか?そんな野心的な書店が出現することを夢見ている者だが、夢だけで終わってしまうのだろうか?

弘栄堂書店だけではない。紀伊國屋書店のオーロラタウン店も8月末で閉店という衝撃的なニュースも飛び込んできた。札幌の文化レベル、リテラシー、市民の教養はどう担保されるのだろうか?

これからの書店のあり方

リアル書店で本を買う人が減ってきているのは確かだろう。本を売る、というビジネスモデルに限界がさしかかってきている。本を買うだけならネットで事足りる現在、客は書店で単に本を買うだけではなく、何か新しい体験ができるプラスアルファの付加価値が必要になってくる。

具体的には作者や書評家、姿勢の読書家や本に関する情報を発信しているユーチューバーといった本にまつわる様々な人を招いてのトークイベントや、読書会、あるいは研究者による出張講義や子供の学びの教室の開催のような、本を通した学びの場だ。
ビブリオバトルを定期開催するのもいいだろう。
科学の教材本を使用した実験教室を行うのもいい。
文理を問わず様々な可能性も考えられる。
体験型の学びを提供する場として、今後は書店が学びの場としての機能を有することが生き残るために必須となってくるのではないだろうか。

これはネット書店では決して行えないことだ。

ネット書店との差異化を図るためにも、書店としての新しい付加価値を生み出さなくては生き残るのは難しい時代になっているのは間違いない。
そのため、新しく書店ができる際にはイベントスペースが必須になってくる。

個人的にはせんだいメディアテークのような、ふらりと立ち寄れる体験型の学びを融合した、全く新しい機能を有した書店空間ができると大変面白いのではないかと思う。

書店の閉店ラッシュが続いても、リアル書店という空間の可能性はまだまだあるはずだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?