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『シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略』を読んで。

少し前にどこかの記事で読んだ森美術館のSNSマーケティング戦略。
マインドとSNS運用ノウハウがバランスよくまとまっていましたので、気になった点を備忘録としてまとめておきます。

①森美術館のSNSがうまくいった理由

本書にも書かれていますが、

①インパクトのある展示作品
②撮影OK(SNSアップ推奨)
③他美術館にはないオープンマインド

が成功の秘訣ではないかと思います。

海外を除く、国内の美術館業界でSNSを活用している先はあまり多くなく、さらに撮影OK・SNSへのシェアを推奨している美術館はとても印象に残ると思います。

(撮影OKなら)せっかくだから撮影しておこう

映えな写真だし、SNSにアップしよう

という心理ではないかと思います。

ただ、ここで大事なのは森美術館が撮影を大々的にOKしていることが成功要因ではなく、「インパクトのある展示作品」がベースになければならないと思います。

写真を撮りたくなる、もっというと美術館に行きたくなるコンテンツがなければ、そもそも森美術館には足を運ばないと思いますので、このベースがとても大事なのだと思います。

②美術館同士の相互送客(プール割り)

昨年、吉野家・はなまる・ガストの外食競合3社が共通割引券発行で話題になりました。

従来は「外食同士=競合」という図式であり、競合同士でクーポンを発行すること自体が非常識でしたが、現在は苦しい外食業界の中、少しでも外食マーケットを拡大しよう!という名目で、外食同士の相互送客も文化として根付きつつあります。

森美術館でもプール割りと題し、金沢21世紀美術館にある「スイミング・プール」で撮影した写真を見せると、入場料が割引になる、という取り組みです。

目的は森美術館にも展示している、同作品の「レアンドロ・エルリッヒ」の再認知を図ることらしいのですが、とても視座の高い取り組みに感じました。

本来はいかに来場客を増やし、売上をあげるか、と考えがちですが、森美術館では余所の美術館(エリアは離れていますが、競合)の利用で、割引が効くように設計したのです。

単なる入場値引きではなく、同作品・アーティストのファン、金沢21世紀美術館のファンをも取り込み、森美術館のファンにさせる粋なキャンペーンだと思います。

③基礎情報を伝えていくことが大切

SNSではキャンペーンやクーポンなど、企業側が伝えたい内容を伝えたくなるものですが、森美術館では「基礎情報」こそ意識して発信をしているそうです。

基礎情報とは、営業時間、ランチ時間、メニューなど。恐らく、普段美術館に問い合わせがくる内容をSNS上で定期的に発信しているんだろうと思います。

当たり前のように感じますが、実はこの取り組みはとても意味があると感じました。SNSアカウントをフォローするタイミングはユーザーによって様々なので、フォローしたタイミングの直近発信の内容がユーザーにとって企業のSNSイメージになると思います。

ユーザー知りたい情報はトレンドやキャンペーンもそうなのですが、「いつまで営業しているのか」「どこにあるのか」「チケットはどこで買えるのか」というもっと手前の情報こそ知りたい情報ではないかと思います。

Webサイトに行けばわかるじゃん!という意見もありますが、SNS→Webサイトの遷移はユーザーにとってストレスに感じる人もいるため、ホントはSNS内で分かるに越したことはない。よってこの取り組みはとても地味ですが、効果的な取組だと思います。

④テクニックよりはるかに大事なこと

本書の最後に森美術館SNSアカウントの目的について語っており、その目的というのが「来館してもらうこと」ただひとつだと書いてあります。

そのため、森美術館のレピュテーションをSNSによって下げてしまうわけにはいかないとしています。ただ、直接的に「来てください」「観てください」とは絶対に発信しないそうです。

コツコツと信頼を積み上げて、ユーザーの方から来てもらう道を選び、実践しています。なので、見るべきKPIはインプレッションであり、いかに情報を届けられたかどうか、を1番に注視しているそうです。

そしてもう1つ、目的の先に「志」を据えているそうです。目的は「美術館に来てもらうこと」ですが、その先の「志」までもユーザーに伝え、一緒に森美術館の世界観を作っていく仲間にしているんだと解釈しました。

志とは「文化・芸術は経済の上にあるべきもの」という先代社長の教えではないかと思います。美術・芸術作品を見て、感じて、豊かな気持ちになる、というのは損得勘定とは別の軸ではないかと感じました。

派手なSNS運用ではありませんが、背伸びしない、誠実な会社だと思います。こういった方が運用するアカウントは絶対伸びる。

自分もこういった思いを企業と共に創り、成果で還元できるように考えていきたい。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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