Cuchulain of Muirthemne II. Boy Deeds of Cuchulain : ムルセヴネのクーフリン 二章 クーフリン少年時代の功績①

グレゴリ夫人による再話、「ムルセヴネのクーフリン」の翻訳の続きです。
前回の一生は「クーフリンの誕生」でしたが二章は「クーフリン少年時代の功績」です。今回はそのうちの前半パートである撲殺天使セタンタきゅん時代の部分を訳しました(ところでエスカリボルグって結局由来なんなのでしょうね??)。具体的には、母デヒテラの元から王の元へ行くエピソードと、大変有名な鍛冶屋のクランと猛犬のエピソードです。



クーフリン少年時代の功績

 セタンタが7歳ごろのある日のことだ。セタンタは母の屋敷の人間が、コンホヴァル王のエウィン・ウァハの宮殿についておしゃべりをしているのを耳にした。彼らによると、エウィン・ウァハに住まう王侯貴族の子弟たちは、多くの時間を遊んだり、ハーリングをしたりして過ごしていたというのだ。
「僕もそこに遊びに行ってもいいでしょう」
 セタンタは母親に尋ねた。
「お前が行くには早すぎます」とデヒテラは答えた。
「お前が遠くに旅にいけるようになるまで、私がお前をあの宮殿に連れていく誰かに預けて、コンホヴァルの保護下に預けられるようになるそれまで待ちなさい」セタンタは言った。
「でも、母上さまが道を教えてくれたら僕一人でそこまで行きます」
「あなたには遠すぎます」デヒテラは言った。
「エウィン・ウァハはスリーヴ・フュァドの山の向こうなのだから」
「スリーヴ・フュァドの西?それとも東ですか?」息子は尋ねた。
 彼女がそれに答えると、彼は自分のハーリングの棒と銀のボール、それから小さな投げ矢と槍だけをもってそこを出発した。行く道を縮めるために、セタンタはこんなことをした。セタンタは、ボールを思いきり撃ちそれを遠くに飛ばすと, そのあとにハーリングの棒を、次にまた今度は例の投げや矢を飛ばした。それから彼は走り出して、投げたものが地面にたどり着くよりも前に、その手ですべて受け止めた。
 エウィン・ウァハの芝生の地までずっと、彼はそうして進んで行くと、彼はそこで、王侯貴族の子弟150人がハーリングをし、戦争における武勲を学んでいるのを見た。セタンタは彼らの間に入っていき、ボールが近くに転がってくると、両足の間にそのボールを寄せて、彼らに変わって勢いよくボールを打ちつけて、ついにはゴールの向こうまでボールを運んでいった。コンホヴァル王の子息で、子供たちのまとめ役であるフォラヴァンが、集合!と叫んだ。そして、この見知らぬ輩を追い出し、彼に鉄槌を下すよう号令を出した。
「我らの庇護なく、頼みもせずに試合に入る」フォラヴァンは言った。「そんな権利はこいつにはないんだからな。お前たちもそう感じているかもかもしれないが」彼はつづけた。
「こやつはきっと名もない一戦士の誰かの息子に違いない。我々の試合に参加するなんていうのは認められない」
 その命令でもって、少年たちはいっせいにセタンタに襲い掛かった。ハーリングの棒にボール、矢を投げつけたが、セタンタはひょいっとそれをすべて避けると、今度は彼らに向かって突撃し、そのうち何人かを地面に放り投げ始めた。ちょうどそのとき、フェルグスが宮廷から出てきた。この小さな奴はなんたる迎撃を見せるのか、とコンホヴァルがチェスをしている所にセタンタを連れて行き、何が起こったのかをコンホヴァルにすべて話した。
「このようなこと、お前がしていることは決して紳士的な勝負ではないな」コンホヴァルは言った。
「それは奴らのせいです」少年は主張した。
「僕はよそから来ました。遠くからきたのに歓迎されなかったんです」
「その時お前は知らなかったのだ」コンホヴァルが言った。
「エウィンの幼年組からの許可と保護を得ない限りは、彼らと遊ぶことは許されない」
「それは知りませんでした。知ってたら、みんなにお願いしたのに」彼は言った。
「お前の名とお前の家族は?」コンホヴァルが尋ねた。「我が名はセタンタ、スアルタヴとデヒテラの息子」彼はいった。
 少年が妹の息子だとわかると、コンホヴァルは彼を大歓迎し、幼年組に、セタンタが安全に、彼らの中に参加できるように、と告げた。
「その通りにしましょう」彼らは言った。しかし彼らが外へ遊びに出ると、セタンタは彼らを負かして放り投げはじめたので、彼らは誰もセタンタに立ち向かえなかった。
「お前は今度は彼らに何をしてほしいのだ?」コンホヴァルが問うた。
「我が民が誓いし神に誓おう」
 少年は言った。
「僕が彼らの保護下に来たのと同じように、この子たちが僕の保護下にはいるまで、僕はこの手を彼らから緩めることはしない」そうして、彼らは全員、この宣言に屈することで一致した。
 そして、彼はエウィン・ウァハの王の家にとどまり、アルスターの長たる男たちがみなで彼を育て上げたのだった。

 アルスターには、クランという名の偉大な鍛冶師がいた。あるとき、クランはコンホヴァルとその民のための宴を開いた。コンホヴァルはその宴にむかう途中、幼年組の軍隊が試合を興じている芝生のそばを通りかかった。王がしばし、彼らを観察していると、デヒテラの息子が他の子供たち皆からゴールを奪っていく様子がうかがえた。
「あの小さな私の輩(ともがら)は、いつかはアルスターに仕えることになるだろう」コンホヴァルは言った。「今あの子を私のところへ呼んで来い」彼は命じた。「私と共に鍛冶師の饗応に行かせるように」
「僕は今は一緒にいけません」部下たちがセタンタをコンホヴァルのところに呼んでくると、セタンタはそう言った。
「だって、まだこの子たちは遊びきってない」
「私がお前のことを待っていたら、日が過ぎてしまうだろう」王は言った。「王が僕を待つ必要はない。僕が、戦車のあとを追いかけていきます」とセタンタは答えた。
 それで、コンホヴァルはそのまま鍛冶屋の家へと向かった。王の前に用意された歓迎の場には、青々とした藺草がしきつめられれており、詩が詠まれ、歌が唄われ、戒律が朗読されていた。豪華な食事が運び込まれ、参加者たちも浮かれた気分になり始めた。それから、クランが王に尋ねた。
「今夜、陛下の民の中で、配下よりも後に来るものは、他におられますでしょうか?」
「おらぬな」
コンホヴァルは言った。彼は、幼い少年に彼の後をついてくるよう言ったことを忘れていた。
「だが、なぜそんなことを聞くのだ?」王は言った。「私は大きな、猛犬を飼っておりましてね」鍛冶屋は言った。
「私があの子を鎖から放せば、彼のいるところには誰も入れないのですよ。あの子は私以外の言うこと聞きません。あの子の強さと言ったら百人力でございます」
「その子を放つがよい」王は言った。「彼がこの場を見張れる間はな」
 クランがその犬を解き放つと、彼は辺りをすべて見て回り、それから彼が元居た場所にもどって屋敷を見張りだすと、皆がおびえた。彼はあまりにも獰猛で、残酷で、そして凶暴だった。
 そのころ、首都エウィンの少年たちはというと、彼らは遊びをおえて、それぞれ父親の家か、あるいは自分の保護者たる人間の元へと帰っていった。しかし、セタンタは、いくつかある戦車の跡を追って、早く行こうとハーリングのボールとスティックで以前やったのと同じように遊びながら道を進んだ。セタンタが、鍛冶屋の屋敷の前の芝生にたどり着くと、その猛犬はセタンタがやってきたのを聞きつけて、アルスター中に聞こえるような恐ろしい咆哮を上げた。そして、まるで止まる気も彼を切り裂く気も毛頭なく、彼を一口にで丸のみにするつもりであるかのような勢いで、セタンタにとびかかった。小さな少年にはスティックとボール以外の武器などなかったが、猛犬が近づいてくるのが少年の目に入ると、思い切り力を込めてボールを打った。そのあまりの勢いで、ボールは犬の喉から下って体を通っていった。セタンタは、その後ろ足を二本掴むと岩に彼を叩きつけ、ついには彼の中に残る命はなくなった。
 宴を楽しんでいた人々が猛犬の叫び声を聞きつけると、コンホヴァルが動き出して言った。
「この音はこの旅において我々に運び込まれた幸運ではない。というのは、間違いなく我が妹の息子が私のあとからやってきて、番犬によって死んでしまったからだ」
 それで、男たちがみな、扉を通るのをまたず、可能な限り壁や垣根を飛び越えて外へ飛び出した。少年がいるところに最初についたのはフェルグスだったが、彼はセタンタを抱き上げると肩のせて、彼を無事にコンホヴァルの元まで連れてきて、その場はみな大いに喜んだ。
 しかし、クラン、彼らとともにでたこの鍛冶屋は、彼の偉大な猛犬が骨が折れ、死して伏しているのを見て、大きな悲しみが彼の心におりた。彼が来てセタンタに言った。
「ここではあなたをあまり歓迎できません」
「この小さな輩に何の不満があると?」コンホヴァルが言った。
「彼をここに運んできたのも、私に、貴方様のためのこの宴を用意させたものも、幸運であはりませんでした、王よ」彼は言った。
「なぜならば、これにより、私の番犬は逝き、私の財産は無駄に費やされることになり、私の生きるすべが路頭に迷ってしまうであろうからです。そして、ああ小さな坊や」彼は言った。
「あなたが私から奪ったそれは、我が家族の良き一員だったのです。彼が私の品々を、私の人びとを、私の家畜を、私の持つすべての守護者だったのです」
「そのことで決して悲しまないでおくれよ」少年は言った。
「僕は、僕自身が僕がしてしまったことにについて、貴方に償おう」
「どうするつもりだ?」コンホヴァルは言った。
「こうします。もしも、アイルランドに同じ血統の子犬がいるならば、殺された犬と同じくらい良き猛犬になるその時まで、僕が彼を育てあげ、彼を訓練させましょう。そして、その時までは、クラン」彼は言った。
「僕自身が、お前の番犬となり、お前の品々を、お前の牛を、お前の家を守護しよう」
「お前のその申し出には公平性がある」コンホヴァルが言った。
「私自身、それより良い裁定を下すことはできぬだろう」ドルイドのカスバドが言った。「そしてこれより」彼はつづけた。
「お前の名はクーフリン、クランの猛犬となる」
「僕は、僕自身の名前、スアルタブの息子セタンタの方が満足しています」「そんなことを言うでない」カスバドは言った。
「なぜなら、世界中のすべての者たちがいつの日か、クーフリンというその名を口に乗せるのだからな」
「もしそうなら、その名を続けることに満足です」
 少年は言った。
 かくして、彼はクーフリンの名を得たのだった。

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