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私は、彼にはなれない。

なんとなくいつもと違う道を通った。

ふと、見慣れない空間が気になって
視線を向ける。

そこにあったのは、

フリースクールの文字と懐かしい名前。


********

初めて出会ったのは何年前だっただろう。
まだ私が起業家を目指していた頃。

紹介された1つの個人塾。
塾長兼経営者は、年下の青年。

学生の頃に起業し、
そこからの紆余曲折。そして夢。

彼から、色んな話を聞いて素直にすごいと思った。


「私も、こうならなきゃ」


それから
しばらくの間は頻繁に連絡を取ったり、
SNSもチェックしたりしていたのだけど、

私から距離をとった。
SNSも全く見なくなった。

理由は「私は、彼にはなれない」と気付いたから。


本当は初めて会ったときから
薄々気が付いていた。

彼は本当にすごい人だと思う。
けど、私はとは真逆の人間。

どう逆なのかは上手く伝えられないけれど
私にはできないことが、当然のようにできてしまう。

だから、彼を知れば知るほど辛くなった。

彼にできることができない自分を責めて、
そんな自分を守るために彼の粗を探している自分が
嫌で嫌でたまらなくなったから。

だから、私は彼から、彼の塾から、離れた。


********


正直、少し忘れかけていた。


けど、今日。見つけてしまった。
移転・増床・フリースクールの併設。

私が距離をとっていた間にも、
彼は着実に前に進んでいき、夢を形にしている証が
そこには、あった。


とっさに、目を逸らした。

あの頃と同じなんとも
言えない感情が私を支配していく。

「なんで・・・」

私にできないことを
彼はできてしまうんだろう。


素直に彼の成功を祝福できない。


そんな自分が嫌だ。
あの頃と、同じ感覚。

足早にその場を去る。
信号が赤になる。

深呼吸をして、うるさい心臓を落ち着かせながら
春の日差しを全身で浴びる。


「私は、私」


あの頃の私は彼に
「なりたかった」わけじゃない。
「ならなきゃ」と思った。


『やっぱり、私は彼にはなれない』


ううん。なる必要なんてなかったんだ。

今の私の目標は、誰かになることじゃない。
自分がなりたいと思う自分に、

「私」を見失わずに、生きていくこと。


私たちは、同じ道を歩いているようで、
本当はそれぞれ別の道を歩いている。

見た目はただの道だから、
ついついそれが自分の道なのか
それもと誰かの道なのか

わからなくなることもあるけれど、

どんなに遠回りだったとしても
それがどんな道だったとしても、

自分の道をしっかりと歩いていけばいい。
私は「私」の道を歩いていく。

「私は、彼にはなれない」


信号が青に変わった。

それでいいんだ。
そうつぶやくと、一斉に歩き始める人たちと同じ道を
けど、1人1人確かに違う道を

私は、また歩き出した。

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