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祝 Curiosity 着陸 10 周年!!

 前回の記事で NASA と ESA の火星サンプルリターン計画の変更点について紹介しました。この変更には,Perseverance の先輩にあたる NASA の火星ローバー Curiosity の実績が大きく影響しています。

 その Curiosity は今からちょうど(時刻も!) 10 年前,日本時間で 2012年 8月6日 14時32分 に火星着陸を果たしました。以下の NASA の記事をもとに,Curiosity の功績を振り返り,着陸 10 周年をお祝いしましょう!

Curiosity 着陸 10 周年記念ポスター (Credit: NASA/JPL-Caltech)

Curiosity について

 Curiosity は米航空宇宙局 (National Aeronautics and Space Administration, NASA) の Mars Science Laboratory (MSL) ミッションの一環として 2011年 11月26日に打ち上げられた火星ローバーです。日本時間で 2012年 8月6日に着陸して以来,火星の Gale Crater の探査を行っており,今なお活躍しています。

 Curiosity の大きな科学目標は "火星に生命の痕跡を探すこと"。それまでの探査から,現在の火星が我々の暮らす地球のように生き物に溢れる環境ではないことはわかっていました。しかし,かつてはそうではなかったかもしれません。Curiosity はそんな「火星には微生物のような小さな生命体が生きるのに適した環境条件があったのか?」という問いに答えるため,現在,あるいは過去に生命が存在しうる環境があった(ある)こと,あわよくば生命活動の痕跡や生命そのものの発見を目指し,火星へと旅立ちました。
 Curiosity は "Mars Science Laboratory"(火星の科学研究室) の名前の通り,その場観測に特化した探査機で,搭載している約 80 kg の科学ペイロードを活用して観測を行います。ロボットアームによるサンプリング機構を持っており,採取したサンプルを分析機器にかけることもできます。

Curiosity が撮影した自撮り (Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)
2012年 10月31日に撮影されたもの。ボディはまだ綺麗で,白く輝いている。

 10 年前の着陸以来,Curiosity は Gale Crater を探査し,その中の Mount Sharp を登り,道のり 29 km,標高差にして 625 m の走行を果たしてきました。41 ものサンプルを分析し,50 万枚近くの画像を撮影し,300 GB 以上のデータを地球に送ってきてくれました。Curiosity の走行履歴はこちらから見られます。
 今年 4 月にはさらに 3 年間のミッション延長が発表されました(参照)。

Curiosity が撮影した自撮り (Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)
2021年 11月20日に撮影されたもの。火星の赤い砂を浴び,長年の努力の跡が伺える。

科学的成果

 Curiosity の 10 年間は多くの観測で忙しいものでした。例えば火星の空を観測し,夜光雲(太陽が出ていないときに太陽光によって雲が光る現象,参照)や日食(地球では月による日食だが,火星では火星の衛星であるフォボスやダイモスによる食が見られる,参照)などを見てきました。また,放射線量の観測から,将来の火星有人探査における被曝量の見積もりに貢献してきました(参照)。

Curiosity が撮影した真珠母雲 (Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

 しかしなんといっても Curiosity の最大の発見は,Gale Crater には少なくとも数千万年前から液体の水や生命維持に必要な化学成分や栄養素が存在していたということでした。Gale Crater はかつて湖を成していましたが,その大きさは時期によって上下していたようです(参照)。

 かつての火星では劇的な気候変動が起きていたことが明らかになりました。「火星には微生物のような小さな生命体が生きるのに適した環境条件があったのか?」という問いに答えを見つけた Curiosity は,今度は「そのような条件が,この気候変動の中でも持続しているのか?」という問いに答えるため,新たな観測地に向けて旅をしています。
 この次なるターゲットは水が干上がる際に形成されたと考えられている地形で,硫酸塩を含む鉱物が残っていると見られています。この地域で今後数年間の探査が行われる予定で,その中には洪水の際に形成された可能性のある Gediz Vallis channel や,かつて地下水が Mount Sharp の高さまで到達したことを示す cemented fractures と呼ばれる構造(参照)などが含まれます。

Curiosity が撮影した Mount Sharp (Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)
2015年 9月9日に撮影されたもの。Curiosity は執筆時現在,まさにこの画像の中の場所にいる。

長寿の秘訣

 どのようにして Curiosity は 10 年もの長旅と探査を続けられているのでしょうか。もちろん,Jet Propulsion Laboratory (JPL) の何百人もの技術者たちが働き努力しているのです。
 車輪のひび割れを全て記録したり,プログラムをアップロードする前に全てのコードを事前にテストしたり,地上にある無数の岩石サンプルにドリルで穴をあけたりと,Curiosity が安全に同じ動作をできることを彼らは事前に確認しています。

 遠く離れた火星にあるローバーを修理できる人などいないため,すでに搭載されているものを賢く使う必要があります。
 例えば Curiosity のドリルによるサンプル採取システムは,火星着陸以来何度も "再発明" されています。かつて新たな掘削方法を導入するために 1 年以上ドリルを使わない期間もありました(参照)。最近ではロボットアームのブレーキ機能が故障しましたが,予備の部品を使って再び動作するようになっただけでなく,技術者たちは故障しにくいようにより優しくドリルを運用する方法を学びました。

Curiosity のロボットアームとドリルが開けた穴 (Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

 また技術者たちは,タイヤの損傷を最小限に抑えるため,例えば最近見つかった "gator-back" 地形のようなタイヤにとって危険な場所に気をつけています。加えて,タイヤの損傷を減らすための走行アルゴリズムの開発も行ってきました(参照)。

Curiosity が撮影した "gator-back" 地形 (Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)

 Curiosity には太陽電池ではなく長寿命の原子力電池が使われていますが,原子力電池の燃料であるプルトニウムが徐々に崩壊していくため,ゆっくりと出力も減衰しています。そのため,着陸後最初の年に 1 日でできたことが,現在では 1 日ではできません。技術者たちは Curiosity が 1 日に消費する電力を計算し続けており,探査機が利用できるエネルギーを最大限生かすために,どの動作が並行して行えるかを考えています。

 このような綿密な計画と工夫により,Curiosity がまだ何年も探査を続けられることを技術者たちは期待しています。

コメント

 大気が薄く放射線が降り注ぎ,地球よりも温度変化が大きく,過酷な環境である火星(火星に限らず惑星探査は常に過酷な環境との戦いですが……)。そんな火星で 10 年もの探査を続けているというのは素晴らしいことです。宇宙機はよく「非修理系」などと言われますが,これは地上のシステムと違って打ち上げたら二度と人の手によって修理することが不可能だからです。様々なトラブルに見舞われつつも,記事にあるような技術者たちの努力によって長い間成果を残し続けている姿に感動させられます。
 ちなみに,かの Voyager 1,Voyager 2 は今年で 45 周年です。まだ動いてるんですよ!本当にすごいです。

 冒頭にも述べましたが,Curiosity が長期間探査を続けられているというこの成果が大きく火星サンプルリターン計画 (MSR) のコンセプト変更に貢献していることは間違いありません。Curiosity の設計が Perseverance に生かされただけでなく,Curiosity の功績は今後の惑星探査史に残るものとなるでしょう。
 Curiosity,そしてそれに続く Perseverance,さらに MSR の各ミッションのこれからの活躍がますます楽しみです!

 あと,上に貼ったポスターめっちゃかっこよくないですか?大きく印刷して家に飾りたい〜

【2022/8/13 追記】
 ポスター印刷して壁に飾りました!!かっこいい!!!
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