言語芸術としての小説

小説を読む楽しさは、もちろん話の内容にあると思う。
ハラハラする展開で続きが気になり、一気に読みたくなる。そう思わせてくれる小説に出会えたことはとても幸せなことだ。
しかし、最近になって私は、小説に内容を追う以外の楽しみがあることがやっと分かってきた。
小説というのは、「言語芸術」なのである。

一気に話を追うのもいいけれど、小説の魅力はそれだけではない。
もっと、ゆっくりと。一つ一つの表現を噛みしめるように読めば、世界の新しい見方に出会えることがある。小説にちりばめられた謎に出会えることがある。新しい伏線に気づく。比喩の面白さに想像力をフルに動員させられる。同じ女性のことを「彼女」といったり「直子」と言ったりする、その使い分けを探ってみたり。じっくり読まなければそのような小さな違いは、見落とされてしまうだろう。

小説家は、言葉を使って虚構の世界を構成する。きっと、何かの意図をもって、全ての部分はつながっている。

そのようにして小説を読むこと。それはまるで、地図も持たずに宝物を探すようである。見つかった宝物の数が多ければ多いほど、深い読みになる。



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