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好きだった人にいっそ嫌いと言ってもらいたい

今更わかったこと。今更わかったところで、わからなかったに等しいのに。

中学時代の同級生と数年ぶりに集った。
集ったメンバーの中には、高校の頃に付き合っていた彼もいた。
成人式にも少し会ったのだけど、その時はちゃんと話せず、この時にやっと久しぶりに昔みたいに話せた。

私の中にはずっと解けない謎があって、何で彼と別れてしまったのか、両片思いで結構長いあいだ思いあい続けてきたのに、何で付き合ってからあっさり終わってしまったのか、何で私は素敵な彼を嫌になってフッてしまったのか、そして何で彼はあっさりと私を手放したのか、二人は本当に両思いだったのか。私には、彼と私のあいだの全てがわからなかった。

もしやそんなに好きじゃなかったのかも、と思って、待ち合わせ場所に向かった。なのに、会った瞬間から全然かっこよくって、ものの言い方や気の回し方とか仕草とか、好きだったところがひとつひとつ思い起こされて、みんなでお好み焼きをつついている中、もやもやしていた。

ちょっと酔いが回って、みんなで近くの公園に行って、追加の缶ビールをコンビニで調達し、なまぬるい風にあたりぼーっとしながら、今までとこれからのたわいもないことについて話した。

酔っていて記憶があやふやだけれど、結構真面目にいろんなことを話していたと思う。仕事のこととか、夢や目標とか。けれど、彼はいつも、自分のことは一切話さずに、人の話をニコニコきいているだけだった。あんたはどうなの、ってきいても、まあぼちぼちやな、みたいな返事しかしなかった。

そういえば昔からそうだった。秘密ばかりで、自己主張がほとんどない人だった。ほんとに何も考えてないだけなのかすらもわからなかった。
付き合う前も、付き合っている時も、彼は私の話ばかりきいてくれた。
それは優しいし立派だけど、けど。
私は彼のことを結局知らないままで、なにが好きで嫌いで、とか、こんなことがしたいとか、大きいことも小さいこともちゃんと本音で話したことがなかった。

別れた日も、私は「なあ、別れたいって思っててな、」という書きかけのメールを一行だけ送った。「わかった。別れよか。ちゃんと健康には気いつけや」と返事だけが届いた。私にはその優しさが死ぬほどつまんなかった。

大事にしてくれてるという証拠にも、無関心であるという証拠にもとれたのだ、彼のひとつひとつの言葉には。


公園で他のみんながはしゃぐのを横目に二人きりで話した。びっくりするほど昔と変わらないトーンとペースで、どうでもいい話をしてくれた。この思いのほかのすべてを包み隠さず話しても、顔色ひとつ変えることなく全部受け止めてくれた。
でも、会話のすきまに埋まっている肝心なことは、全部そっと包まれてそのへんのゴミ箱に捨てられてしまった。

もう私のことどうでもいいならいっそのことはっきり、嫌いだと言ってほしかった。一言も口をきかないどころか、今日の飲み会にも来て欲しくなかった。

私にとって曖昧にうつる彼を昔も今もかなり嫌いと思うのと同時に、再び、そして惹かれる私もいることを知った。それに気付いたところで、どうもできないし、どうにかしたいとも思わなかった。
あんたは結局どう思ってるん、と尋ねられるほど私は酔いきれなかった。

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