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常連客のジレンマ

経営学の用語に「イノベーションのジレンマ」というものがある。

イノベーションのジレンマとは、業界トップになった企業が顧客の意見に耳を傾け、さらに高品質の製品サービスを提供することがイノベーションに立ち後れ、失敗を招くという考え方。ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセンが提唱した。(グロービス経営大学院HPより)

成功体験が強烈すぎるがあまり、既存のビジネスや顧客に集中してしまい、新規ビジネスや顧客への対応が遅れ、後発の企業にその市場を奪われてしまう現象をさす。

例えば、デジタルカメラが登場した当初は、画質などで銀塩写真に比べて画像の質は低く、フィルムカメラのメーカーは、この技術に関心も注意も払わなかった。しかし現在では、フィルムカメラはデジタルカメラに主役の座を追われている。(同上)

同様の事態は個人経営の居酒屋でも起こりうるだろう。ただし現状の飲食業界はテクノロジーによる急激な変化は起こりにくく、緩やかな変化をしている印象がある。

在庫リスクはあるものの、客単価は低く、市場動向を見て対応をしていけば「気づいた時には手遅れ」という事態は避けられる。


代わりに別のリスクが付きまとっている。それが「常連客のジレンマ」である。

個人経営の居酒屋にとって、常連客の存在はありがたい。毎月ある程度一定の金額を使ってくれ、場合によっては別の人を連れてきてくれたり、宴会などで大人数の売り上げを運んできてくれる。


ちなみに常連客を作るのが上手い店には共通点がある。

「余白・秘密・仮想敵・共通点・クローズドな空間」
この5点を作るのが上手い。

これはSHOWROOM代表の前田祐二さんが著書『人生の勝算』の中で「ファンのつくり方」として述べられていたことだが、居酒屋にも当てはまる。

店員なのに勝手に飲み始めて酔いだしたり(余白)、売り上げ事情やメニューの秘密を話したり(秘密)、こないだ現れたウザい客の話をしてくれたり(仮想敵)、お酒をお客さんに振舞いだしたり(共通点)、閉店後でもお店で飲ませてくれたり(クローズドな空間)。こういうことをやっているお店には、間違いなく常連客がついてくる。


しかし常連客に依存してしまうと、変化を起こすことが難しくなる。常連客が居続けるが故に、新しいお客さんへの対応が遅れ、結果としてお店が衰退してしまうジレンマを抱えているのだ。

常連客がつかない店は簡単につぶれてしまうが、常連客ばかりの店もゆるやかに衰退していく。

実感値でいうと、常に店内の半分が常連、もう半分が新規というお店は長続きしている印象がある。(行列ができるほどの超人気店であれば別。ただし長い目でみたら当てはまると思う。)


ずっと同じ場所で商売をしている以上、お店側がお客さんを選ぶことは(あまり)出来ない。

だからこそ、飲みに行っている側が「常連客のジレンマ」を理解し、適度な距離感を保つことで、そのお店は長続きすると思う。

「常連客のジレンマ」を解決出来るのは常連客自身。ということが、もしかしたら一番のジレンマかもしれない。



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