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映画界の新しい地図になる|映画【クソ野郎と美しき世界】

元SMAPである稲垣、香取、草彅が出ている映画「クソ野郎と美しき世界」を見た。

オムニバス形式の映画で、それぞれのお話を園子温、山内ケンジ、太田光、児玉裕一という豪華監督陣が撮っており、脇を固めるのは浅野忠信、満島真之介、古舘寛治、尾野真千子など、なかなか素敵な映画。(敬称略)

正直、映画自体はそんなに面白くなかった(ゴメンナサイ)。劣化版世にも奇妙な物語で、昨今流行りのミュージカル調の映画というのが、映画自体の感想。

ただこの映画は、映画の外側、現実世界の文脈を読み取ることで楽しめるのだと思った。

劇中でも、吾郎ちゃん、香取、といった本名で登場しているし(草彅剛だけは名前を呼ばれてなかった?聞き逃してたかも)、SMAP解散騒動や72時間ホンネテレビを知らないと、最後のオムニバス「新しい詩」でこの人たちは何を歌っているのかわからない。新しい詩の面白さは、彼らが現実世界でやってきたこと、これからやろうとしていることを開放して歌として表現しているところにある。

この映画をご覧になった方のレビューで「SMAPファンは楽しめるけど、そうじゃないとつまらん」みたいな意見もあったが、むしろそれは狙ってやっているのではないかと思う。エンドクレジットに「NAKAMA(新しい地図のファンたち)」と書かれているのはそういう理由ではないか。

その他にも、SNSで積極的に拡散と新しい地図ではハッシュタグを収集したり、観客動員数をタイムリーに公開したりして、映画を見ることだけで完結する映画体験とはしていない。

もしかしたら、映画自体にはあまり価値がなくて、映画を見ることが新しい地図が行っているお祭り騒ぎに参加するためのイベントチケットに過ぎないのかもしれない。

これは昨今の出版業界で大ヒット本を連発している箕輪厚介氏がよく語られている「本をコミュニティ参加へのチケット」化することに似ている。作り手だけで良い作品を作って売るのではなくて、買い手も巻き込んで作品を自分の物語化して買ってもらう。この映画にはそんな意図がある気がした。


映画は現実と切り離された非日常的なものであり、観客として非日常に没入出来ることが楽しみだった。だから出演している離婚歴があるのに良き夫を演じていたり、普段良い人が極道を演じる俳優がいても、何ら違和感なく楽しめた。面白い映画はそれ自体が話題になり、映画館の動員数を伸ばすことができた。

しかし今後、配信サービスが今より良質になり、Amazonのようなプレイヤーが現れて本が売れなくなった出版業界のように、映画館で映画を見ることが減っていったら。動員数を伸ばすのは「クソ野郎と美しき世界」のように観客を巻き込んで、自分の物語化した作品だけかもしれない。

映画の楽しさは、鑑賞から体験に移行する。そんな新しい地図を見せてくれる素敵な映画だと思う。

今後はこういった映画が増えるかもしれない。


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