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SHORT STORY

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リトル・ドラゴン⑦

リトル・ドラゴン⑦

「魔法だって?」

そう言って少し目を丸くしたマルコに顔を近づけて、僕は耳打ちをした。
「いつか君も言ってたろ。音楽は魔法そのものだって。」

ほんのちょっと間を開けて、
「そりゃそうだけど」とマルコがこたえた。

「だから、僕と君で一緒に魔法をかけてやろうぜ。それにぴったりの曲があるんだ。」
ニコっと笑顔でそう言って、僕はギターを触りながら、そのチューニングを確かめた。

「ぴったりの曲ってなん

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風邪をひいたサンタクロース

風邪をひいたサンタクロース

「風邪をひいたサンタクロース」

どうして誰もこの事に気がつかなかったのだろう。

とっても寒い12月の真夜中。知らない国の深い深い雪山を黒い4両編成の汽車でゆっくりと進みながら、僕はまた、一人でそんな事を考えていた。

去年のクリスマスの前の日、僕はお母さんにこんな風に言ってみたんだ。

「ねぇ、クリスマスプレゼントは要らないから、サンタクロースさんに会いたい。ってあのカードに書いからど

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リトル・ドラゴン①

リトル・ドラゴン①

「リトル・ドラゴン」

1.「2167年のGOD ONLY KNOWS」

そこはまだ名前も無い暗い海の底のようだった。

僕はもう何時間も、たった一人でこの真っ黒な宇宙空間を飛んでいた。いくら人見知りの僕だって、こんなに小さな宇宙船に乗っているとさすがに寂しさにおそわれる。だけど、そんな時はビーチボーイズのgod only knowsという歌を口ずさむ事にしていた。

**I m

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リトル・ドラゴン②

リトル・ドラゴン②

2.火星とジーンズのポケット

「この世界をカタチ作っているのは全て周波数なんだよ。別の言い方をすれば、存在する全ての物を周波数で表現できるってことだ。そうだろう?」
マルコは前を歩きながら言った。
「うん、まあ分かるよ。確かに色や重さや距離や、ありとあらゆるものが周波数で表せるよね。」

「そう。で、ここからが重要なんだけど。君たち地球人が認識している周波数以外にもいくつか他の周波数が

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リトル・ドラゴン③

リトル・ドラゴン③

3.「27km」

火星は地球の4分の1程の表面積で、とても希薄な大気に包まれた星だった。巨大な岩石によって形成され、表面は赤い酸化鉄の砂で覆われていた。

船外作業用のスペーススーツを着ている限り、気温を感じる事は出来なかったが、太陽からより遠い分、地球と比べて70度近く低いはずだった。

また、その軽い重力の為に、普通に歩く事は困難で、人が火星で作業する際は、ぴょんぴょんと跳ねるよ

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リトル・ドラゴン④

リトル・ドラゴン④

4.「犬は吠えるが キャラバンは進む」

洞窟の中を歩いていくと少しずつ重力が加わってくるのを感じた。地球にいる時は何とも思わなかったそれが、今は重苦しくこの全身にのしかかった。それに加えて、あたりの視界はとても悪く、時計すら持っていない為に、僕たちがどのくらい進んでいるのかを推し量る事は不可能だった。良くない事が起こる時は往々にしてそうであるように、奇跡的なまでにいくつかの状況が重なり合い、

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リトル・ドラゴン⑤

リトル・ドラゴン⑤

5.「ほら、そこ」

洞窟の外に出ると、そこには平らな岩肌が続いていた。

辺り全体を白く薄い霧のようなものに包まれ、空は相変わらずの灰色だった。今すぐに雨が降り出してきてもおかしくないように思えた。

僕は少しの間、止まったままのマルコの背中を見つめた。彼が今何を思っているのかを、計り知ることはできなかったけれど、あのコウモリ達が「一人残らず性格が最悪」であったことは確かだった。

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リトル・ドラゴン⑥

リトル・ドラゴン⑥

⑹「時の過ぎゆくまま」

「今」という時をしっかりと定義する事は意外と難しい。未来と過去の中間地点。まるでサラサラと指の間から流れ落ちる砂のように、捉えようとした瞬間から過去という大きな波に飲み込まれてしまう。

考えれば考えるほど、僕は今どこにいるのか、まるでわからなくなってきていた。

そして、この状況はやはり滑稽でちょっと笑える。

マルコが、目の前の小屋のドアをノックするのを見

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The soundtracks

The soundtracks

こんにちは。
フジイ サダモリです。

今日は少し寒いですが、
明日はまた暖かくなるとか。
でも明後日はまた寒くなるとか。

体調を崩さない方が難しそうですが、
体温調整をしっかりして
乗り切っていきましょう。

さて、先程
「リトル・ドラゴン」という物語の
第6話をアップしました。
クライマックスに近づきつつあるので、
お時間のある時に読んでみてくださいね。

今日はこの「リト

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