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リトル・ドラゴン⑦

「魔法だって?」

そう言って少し目を丸くしたマルコに顔を近づけて、僕は耳打ちをした。
「いつか君も言ってたろ。音楽は魔法そのものだって。」

ほんのちょっと間を開けて、
「そりゃそうだけど」とマルコがこたえた。

「だから、僕と君で一緒に魔法をかけてやろうぜ。それにぴったりの曲があるんだ。」
ニコっと笑顔でそう言って、僕はギターを触りながら、そのチューニングを確かめた。

「ぴったりの曲ってなんだよ?」

「いくらビートルズ嫌いでも、サージェントペパーズぐらいは分かるだろ?」

「そりゃあ知ってる。1967年に奴らが出した、派手なだけで退屈なアルバムだ。」
思っていた通り、マルコはふてくされたような言い方をした。

「それなら完璧だ。」

マルコはまだ減らず口を叩こうとしていたが、僕はGのコードを鳴らしてお構いなしに歌いはじめた。

What would you think if I sang out of tune
Would you stand up and walk out on me?

調子っぱずれに僕が歌ったらきみはどう思うかなぁ。
席を離れてどこかに行ってしまうのかな?

ここまで歌ったところでチラリとマルコの顔を見ると、いかにも「マジかよ」といった表情をしていたが、何の曲かはしっかりと理解していることも分かった。

Lend me your ears and I'll sing you a song
And I'll try not to sing out of key

君に歌いたいから耳を貸してくれよ
音を外さないように気をつけるからさ

Oh I get by with a little help from my friends
Mm I get high with a little help from my friends
Mm gonna try with a little help from my friends

友達に助けてもらってなんとかやるさ
友達に助けてもらって盛り上がろう
友達に助けてもらって頑張ってみるさ

ワンコーラス歌ったところで、僕は一度マルコに目配せをした。

マルコはしっかりと頷いて返した。

What do I do when my love is away?
(Does it worry you to be alone?)
How do I feel by the end of the day?
(Are you sad because you're on your own?)
No I get by with a little help from my friends

失恋した時はどうしたらいいかな?
(寂しくなるのが怖いのかい?)
一日の終わりにどんな気分になるかな?
(ひとりぼっちは悲しいのかい?)
いや、友達に助けてもらってなんとかやるさ

マルコはとっても綺麗な声をしていて、バッチリなコーラスをつけてくれた。まったく。これがファーストテイクとは思えないくらい、僕たちのコンビネーションは最高にハマっていた。

ヘンリーはいつのまにかすっかり泣くのをやめて、僕らの歌に聞き入っている。

(Do you need anybody?)
I just need someone to love
(Could it be anybody?)
I want somebody to love

Oh I get by with a little help from my friends
Mm gonna try with a little help from my friends

曲が終わった。

「やるじゃないか、マルコ!」
あまりにも嬉しくて、僕は思わず彼の肩を叩いていた。

するとマルコは
「まぁ、悪くない曲だな。」
と言って照れ臭そうに下を向いて笑った。

「そんなわけで、今度は皆んなで歌おうよ。」
さらっとした勢いで僕はヘンリーに言った。

「絶対に嫌だ。」
激しく首を振ってヘンリーがそう言った。

「どうして?」
ぼくが聞くと、
「そういうくだらない曲は歌えない。そんな気分じゃないんだ、ぼくは。」
とだけ言って、また背中をむけてしまった。

「うーん。」
「うまく行きそうだったんだけどなぁ」
ぼくとマルコは首を振って顔を見合わせた。

すると不意に、
「こないだ、父さんが死んだんだ。」
とヘンリーが言った。

「えっ、なんだって?」
マルコが驚きの声をあげた。

「もう2週間も前の話だよ。君たちにはわからないだろうけど、この星も最近は異常気象なんだ。気温がどんどんさがってる。ぼくたちライオンには寒すぎるんだ。」

「ヘンリー、ごめん。それは知らなかったよ。」
いかにも申し訳なさそうに、首をうなだれてマルコが言った。

「いや、仕方ないんだ。誰にも言ってないし。」

「ふーん。」
精一杯気持ちを込めずにぼくは言った。

「ふ、ふーんってなんだよ。こっちは寂しくて寂しくて毎日苦しんでるっていうのに」
案の定、少し怒ってヘンリーが振り返った。

「ぼくだってとっくに両親なんかいない。妹ならいるけど、宇宙で迷子になっちゃったからもう会えないかもしれない。」
あんまり言いたくはなかったけど、本当のことをぼくは言った。

ヘンリーは言葉を詰まらせたのか、何も答えなかった。

「そんなこと言ったら、ぼくもお父さんはもとからいないし、お母さんも出ていったきり帰ってこないや。」
思い出したようにマルコがそう言った。

少しの間、誰も何も言わなかった。

だけど、それぞれにきっと同じことを考えていたと思う。

「同じだね。」

「うん。おんなじだ。」

ぼくとマルコがいうと、ヘンリーも声をころして笑い始めた。

「まったく。どうしようもないよな。」

「そんなことはないさ。これで十分幸せだよ。」

「ぼくはね、君に会った時から思っていたんだ。」

「何を?」

「ぼく達はとってもよく似てる。」

「似てるって?君とぼくがかい?」

「君はいつかなり得たぼくの姿だし、ぼくもいつかなり得た君の姿だ。」

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