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人類史上最大の盗難事件の当事者として学んだこと

そのニュースを見た当初は「えっ、そんなことが起きたのか、大変だなぁ」と他人事だった。
どこか自分の遠いところで起きた事件と思っていた。
殺人事件のニュースをテレビで見ても、自分とは関係ない世界で起きたかのような、あの感覚だ。
ところが、そのニュースと自分との距離が徐々に近づき始めているのを感じていた。
「それって現実に自分の身にも降りかかっているんじゃないのか?」
それを否定したがる自分がいた。
しかし、いつまでもごまかしはきかない。
やがて、気づいてしまった。
「俺は、そのニュースの当事者の1人じゃないか!!」

平和ボケな毎日を送っている自分にとって、戦争が起きたわけでもないのに、世界が崩れ落ちるかのような感覚を味わった瞬間だった。
その瞬間を今でも忘れることができない。

2018年1月26日に仮想通貨の1つであるNEMが、運営会社のサーバーから何者かによってハッキングで盗まれる事件が起きた。
当時の時価総額で約580億円もの巨額で、後に「人類史上最大の盗難事件」と呼ばれることとなる。
自分も、その当事者の1人だった。
当時の「仮想通貨バブル」に浮かれ、全財産の何割かをそのNEMにつぎ込んでしまっていた。

身から出たサビとはいえ、自分が汗水たらして貯めた財産の何割かを、一瞬にして失う虚脱感を想像できるだろうか?
人は「投資は自己責任だろ?」と言うだろうし、自分もそう思ってなけなしのお金をつぎ込んだ。しかし、あまりにも失おうとするものが大きすぎた。
自己責任という言葉の重みに何とか耐えようとする自分がいた。

ところが、その事件の2日後に、運営会社がその当時のレートの日本円で補償する方針が発表された。
それで一時的にホッとしたのもつかの間、苦悩はさらに続くこととなった。

肝心の補償の方法やスケジュールが全く提示されていなかったのだ。
それから、運営会社はしばらく沈黙を続けることとなった。

そのため、Twitter等のSNSでは、
「その運営会社に補償できるほどの資力がないんじゃないか?」
「時間稼ぎをして、破産申請の準備をしているのではないか?」
という根拠のない情報が飛び交い、何が本当で何がウソなのかわからず、かえって一時的に不安が増すこととなった。
しかし、「情報の根拠が定かでないものは信じない」と自ら言い聞かせスルーしてきた。

結果として、その事件の約1ヶ月半後に補償の方針が発表され、その数日後に実際に補償されることとなった。
結局、運営会社の破産等の情報はデマだったのだ。
こういう時には、玉石混交の情報が入り乱れるのは避けらない。
東日本大震災の直後に、様々なデマの情報がSNS上で飛び交っていたのを想像してもらえればわかるだろう。

それに対していかに情報を選んで、自分なりに判断していくことが大事かということを、改めて身をもって学んだ。
要は単純なことで、「公式発表」や「根拠が明確なもの」をベースに判断し、それ以外の情報はきっぱり捨てればいいのだ。

ただ、その盗難事件の当事者としての体験をしたことで、今後の人生においてとても大切な学びが得られた。
それはきっとお金を増やすことよりも、大切なことかもしれない。

それは、自分って意外に強いんだなぁと思えたことだ。
最初はかなり動揺したものの、しばらく時間が経つと意外と冷静になり、ポジティブであろうとする自分がいた。
もちろん不安もあったが、「これは、なるようにしかならない。命までとられるわけじゃないから、大丈夫だ」と、自らを励まそうとする自分がいた。

普段はどちらかというとネガティブ思考に陥りがちで、こういった状況に弱いと思っていた。
事実、盗難事件が起きた直後の夜は一睡もできなかった。
しかし、その次の日には頭を切り替えて、冷静に判断して、自らを励ます「内なる自分」が現れようとは思いもしなかった。
こういう苦悩の時だからこそ、出会えた自分といってもいいかもしれない。
自分の内面の底力を感じた瞬間でもあった。

今回の事件で、神様が自分に与えた学びは、これだけではない。

それは「お金は大事だけど、失ったとしても、大したことない」と思えたことだ。
財産を失ったとしても、自分という人間の本質は変わっておらず、またやり直せるものだと自信をもって言える。
これは、「失うかもしれない」恐怖と向き合ったからこそ、得られた実感だ。

今は、例の老後資金2000万円が必要だ、どうだこうだという議論があるが、いざという時に必要なのはお金だけじゃないんだよ、マジで。

もしかしたら、これは神様が自分に与えたギフトじゃないかと思った。
だから、今は素直に言える。
「人類史上最大の盗難事件の当事者になったおかげで、もっと強くたくましくなりました」と。

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