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小説「潜れ!!モグリール治療院~第17話 1年は365日で1日に飯は3回だ~」

なんでなのか知らないけど、昔から人間は水辺の近くに住むと決まっているんだって。川の近くとか、海沿いとか、湖のほとりとか。
そこに小屋を建てて畑を作って、さらに厨房や工房を増築して、平和で安定した暮らしを営んでいくのが普通なんだけど……。

「なんだ、てめぇ、狼、こらぁっ! 地上げ屋か、てめぇこらぁ、やっちまうぞ! おおぅ!?」

人間の調査がほとんど進んでいない、蒸し暑くて歩くだけで体力を奪われ続ける沼地をようやく抜けたら、人間たちから亜人の国と呼ばれている、亜人種たちが結集して作った巨大な都市の、周りをぐるりと囲む城壁に辿り着いたのが今朝のこと。
その壁沿いを当てもなく歩き続けていたところで、たまたま通りがかっただけの、なんて書いてるかわからないけど、血のような赤い塗料で壁中に殴り書きされたボロ小屋と、そのすぐ傍に建てられた先端から有刺鉄線を周囲に展開して金属板や壊れた家具を設置させた悪趣味な鉄塔を眺めていたら、おおよそ平和とは程遠そうな風貌のジジイが滅茶苦茶にキレ散らかしてきたのだ。
ジジイはキレ散らかしながら近づいてきて、ずかずかと畑のど真ん中を踏み荒らし、何本か抜けた歯を剥き出しにして威嚇してくる。

動物は年老いてもかわいらしさや美しさが変わらないのが素晴らしいけど、人間は年老いるだけならまだしも年老いた上に醜悪になるのが多いから嫌いだ。
もっと犬とか見習ったほうがいい。犬とか見習って、かわいいジジイやババアになるべきだと思う。

だけど残念ながら目の前のジジイは醜悪だし、ジジイの足元に転がっているのは普通の野菜ではない。
青々とした葉っぱと茎の下に、人間の顔のような窪みと手足のように分かれた根、色は土色で奇妙なことに口らしき部分がパクパクと動いている。
「てめぇもマンドラゴラの餌食にしてやろうか、ああぁん!?」
ちょっと不気味な野菜はマンドラゴラというらしく、ついでにジジイはしょうがないジジイだ。
私は上半身に捻りを加えて、だらりと下げていた右腕を斜め上に持ち上げて、キレ散らかしたジジイの顎先あたりに拳を運ぶ。十分な余力を以って下から上へと運ばれた拳は、当然その勢いのままにジジイの咽笛に衝突して、そのまま天へと登る勢いで頭上まで伸びた。
喉笛を突かれたジジイは、言葉以上に散らかった真っ白い頭髪を振り乱しながら地面に転がって、ドタバタと手足を振り乱して悶絶している。
当然呼吸も乱れてるし、乱れてばっかりだな、このジジイは。

「私の名前はてめぇじゃない、ヤミーちゃんだ!」

そう、私の名前はヤミー。てめぇではないし、当然狼でもない。狼の毛皮を被った狂戦士、ウルフヘズナルだけど。

「うわー! 駄目だべ、じいさん殴ったら!」
「じいさん、しっかりしろ! まだあの世に行くには早えぞ!」
「だーめだ、完全に意識飛んでるだよ! とりあえず傷薬使うだよ!」

なんか小鬼と猪頭と岩男がやってきた。
口と態度と風貌の悪いジジイにも心配してくれる友達がいるんだなあ、なんて感心してしまう。よくこんなの相手にするな、って方に。


「このじいさんは元々は、人間の勇者に聖剣さ渡すために、この土地にひとりで残り続けたんだべ」
そう話すのは小鬼と呼ばれる小柄で凶悪で邪悪めいた顔をしたゴブリン種族の頭目、ゴブリンキングのドナルド。
いい年して無職だし、歯もガタガタで3本しか残ってないし、髪も剥げ散らかしてるけど、来月40人目の子どもが生まれるらしい。多分この世界で最もいらない情報だ。

「でも10年くらい前だっけか? 人間の勇者一向に、そんなボロい剣いらねえ、って拒否られたんだ」
そう語るのは猪のような頭と大柄な体躯のオーク種族の頭目、オークキングのフェルディナント。
普段はドブ川で拾った女物の下着を顔に被って村中を裸で走り回る露出狂だけど、嵐の日には誰よりも先に川の様子を見に行ってくれる心強い男だそうだ。そんな奴が下着を顔に被るんじゃない。

「それで勇者が土下座するまで、わしはここから動かん、って激怒して、もうずーっと長いこと居座り続けてるだよ」
そう付け加えたのは岩のように大きく鈍重なトロール種族の頭目、トロルキングのラジリーノフ。
他人のごはんを勝手に一口ずつ食べて、おまけにその一口がダチョウの卵くらいでかいけど、将来は王であるドラゴンの側近になるんだって、毎日のように拳よりもでかいイボ痔をピカピカに磨いてるんだとか。イボ痔を磨いたら側近になれるって何? どういう仕組みなの?

「で、最近は人間の勢力も増してきたから、この辺に迎撃用の砦を建てようって話になったんだども、じいさん、頑なにわしはどかんのじゃ、どかんのじゃあ、って一向にどかねえんだべ」
「だから前に偉い人がやってきてドカーンって小屋を吹き飛ばしたんだけど、余計に頑なになっちまって、こんな見張り鉄塔だけじゃなく、マンドラゴラ畑まで作っちまって」
「でも、寝はいいじいさんだよ。薬草を煎じてイボ痔の塗り薬だって作ってくれただよ」
どうやら周囲からの人望は厚いようで、特に各種族の頭目連中から慕われているからか、無理矢理退かしたり捕まえたりはされずに済んでいるみたい。それどころか食べ物を持ってきて貰えたり、定期的に料理や掃除をして貰ったり、近所の集落からゴブリンやオークの子どもを集めて健康体操なる軽めの運動を一緒にしたり、かなりジジイが楽に暮らせるような扱いを受けている。
もしかして、このジジイ、今の暮らしを捨てたくないから我が儘を言ってるだけなんじゃない?

「ん? 人間の勇者が来たって、そいつらは壁の向こうに入れたの? あとお前らの王ってドラゴンなの?」

他の情報が濃厚過ぎてうっかり聞き逃すところだったけど、どうやら勇者と名乗る人間の冒険者一向は、すでに10年も前に亜人の国に辿り着いていて、亜人の国の王はドラゴンであるらしい。ドラゴン、亜人じゃないじゃん。

「そうだべ。君たちは亜人の国って呼んでるけど、おらたちの国オルム・ドラカの王様はドラゴンだべ」
「俺たちオークや、ゴブリンもトロールもみんなドラゴン種族が王様やってることに不満はねえけど、人間だけがそこに文句を言ってるんだ。だからオルム・ドラカは人間と対立してるんだ」
「人間は馬鹿だからよ、自分たちが一番偉いと思ってるだよ。だから勇者なんか送り込んできて、王様を倒そうなんて馬鹿なことやっちまっただ」
そして人間の勇者一向は王に敗れ、それに協力したドワーフの戦士は他種族の怒りを買ってしまい、ドワーフ全体が追い込まれることになった。
その直前、余談のおまけの付録のついでくらいの話になるけど、ジジイは50年も待ち続けて、ようやく出会えた勇者に聖剣を渡そうとして、そんな古くてボロい剣いらないって断られて激怒したというわけ。

「わしは人間だが、人間共の味方なんぞ二度としねえぞ! 一生ここでみんなにちやほやされながら生きんだよ! なにが使命だ、なにが勇者だ、ボケこらぁ! 50年だぞ、50年! 知ってるか、1年は365日で、1日に飯は3回だ! 5万回飯食ってる間、ずーっとこんな辺鄙なとこで待ち続けたんだぞ! 馬鹿にしやがって、くそがよぉ!」
ジジイは起きた途端に怒りを撒き散らしながら、ずかずかと畑に降り立って、植えてあるマンドラゴラの近くでドタバタと足を踏み鳴らす。

「このマンドラゴラは引っこ抜いたらとんでもねえ叫び声を上げて、抜いた奴をぶっ殺しちまうんだ! くそったれ勇者も、くその仲間も、引っ越せって邪魔しようとする奴らも、みんなマンドラゴラで根絶やしにしてやんだよ! わかったか、こらぁ!」
ジジイの怒りは収まりそうにない。なんせ50年だ、50年もこんな場所に住まわされて、その結末がいらないだと怒るのも当然の話だ。
せめて怒りだけでも少しは和らげてあげようと思う。だって、見てて哀れ過ぎるもん。
それに私は自分で言うのもなんだけど、結構なおじいちゃんっ子だったから、年寄りには優しいのだ。

「ねえ、じいさん。もしかしたら私も勇者かもしれないし、少なくとも同じくらい強いと思うから、聖剣見せてもらってもいい?」

勇者はひとりとは限らない。私を勇者ってことにして聖剣を貰ってあげたら、ジジイも少しは浮かばれるはず。
まだ死んでないし、あと30年は生きそうなくらい元気だけど。

ジジイは睨むような訝しむような目つきで私を上から下までじっくり観察して、ボリボリと剥げ散らかした髪を掻きながら、めんどくさそうに小屋の傍らで洗濯物や紐で吊るした芋を干している物干し竿を手に取った。
まさかとは思うけど、ひょっとして聖剣をそんな風に扱ってるなんてことないよね?
「ほら、こいつだ! 見てみろ、馬鹿野郎この野郎! 聖剣様がこの様だ、くそがよぉ!」
なんてことあった。聖剣は今や鞘に入ったまま物干し竿と化していて、日々ジジイのパンツとかシャツとか、芋とか肉とかぶら提げるという、聖剣らしからぬ扱いを受けていたのだ。

「抜いてみろ、くっそボロいからよぉ! 勇者御一行様が言うんだからよぉ、間違いねえんじゃねえかなぁ!」

確かにボロい。鞘は経年劣化で歪んで抜けにくくなってるし、刀身もあちこち錆びて、おまけに元々の仕上がりが悪いのか柄もぐらついていて、武器として使い物にならない状態。おまけに刃は血曇りが残っていて、脂を雑に拭った跡もある。
「普段包丁代わりにしてるからなぁ、あと爪切りとか髪切ったりとか色々使ってらぁ!」
使ってらぁ、じゃないの。自暴自棄を癇癪で乗り切ろうとするんじゃないよ。

「いいんだよ、どうせそんなもん誰も有り難がりゃしねえんだからよぉ! そんなもんより、これ見ろ、これこれぇ!」

ジジイが木の鞘に入った分厚くて太い一振りの剣を取り出し、私の眼前に突きつけてくる。ちなみに柄は金属の串のようなものを突き刺しただけで、全体的にほんのりと薬臭い。
「こいつはなぁ、マンドラゴラを叩いて伸ばして鞘に捻じ込んでやった特製の剣でよぉ、抜いた瞬間にマンドラゴラが叫んで、周りの奴らをぶっ殺してくれるんだぜぇ!」
「あー、そうなんだー……」
もう呆れて物も言えないけど、ジジイの積年の恨みは変な武器を作るまでに拗れているのだ。
なんせ50年だ。
私だったらいつ来るかわからない勇者を待てと頼まれても、絶対に待たないし聖剣もその辺で使い潰すけど。

「こいつで勇者共がまた来た時によぉ、みなごろしにしてやるぜぇって寸法よ!」
まあ、頑張って。勇者一向が今どこで何やってるか知らないけど、用事もないのに二度と来ることないと思うけど。


~ ~ ~ ~ ~ ~


マンドラゴラ畑に肥料を撒いてるジジイを眺めながら、畑の傍のベンチに腰かけていると、歯が3本しかないゴブリンが林檎を水で洗って渡してくれた。下着を被ったオークは皿とフォークを持ってきてくれるし、トロールは果実酒を杯に注いでくれる。
こいつら、見た目はかなり酷いけど意外と良い奴らだな。

正直そんなに甘くも美味しくもない出来のいまいちな林檎を齧っていると、沼地の方向から一台の薄汚れた馬車が、数頭の水牛に引っ張られながら近づいてくる。水牛の傍らには、見覚えのある嘴みたいな仮面と泥だっていくらでも弾いてくれそうな外套と、ボサボサの黒い癖っ毛の男。

「あー、あそこだあそこ。あの小屋に変なじいさんがいて、その先に……あれ? ヤミーちゃん、なんでこんなとこにいるんだ?」
「ほんとだ。ヤミーちゃん、生きてたんだ? てっきり魚の餌になったのかと思ってたよ」
「ところでヤミーちゃん、なんでゴブリンとオークとトロールに囲まれてるの? 大丈夫?」

馬車の一向は癖っ気の男がモグリールという性格に悪い闇医者。嘴の仮面が私の仲間その1のクアック・サルバー、ダークエルフで詐欺師で書類偽造の達人。あとひとりが同じく仲間のヤーブロッコ、どぶさらいで素材集めと落とし物拾いの名人。
3人とは海岸線を進んでいる時に逸れちゃったけど、目的地は一緒だから沼地を戻らずにあえて越えて、オルム・ドラカの入り口まで強引に進んだのだ。
じいちゃんも言っていた。迷子になった時にお互いに探し合うと余計に時間がかかる、だから目的地まで真っ直ぐに進んで、先に着いた方が待ってたらいいのだ、と。
そしてじいちゃんの教え通り、私は無事に仲間たちと合流出来たのだ。正直来るか来ないかでいえば半々かなって思ってたけど、3人とも戦闘向きじゃないし、あんまり強くないし。

「えらいぞ、お前たち! よく私に追いついた!」

「えらくなどないわ! わしは覚えとるぞ、そこの鳥の巣頭と嘴の雌エルフ!」
再会に水を差すように、ジジイが肥料を柄杓で掬って撒き散らしながら叫んでいる。モグリールとクアック・サルバーは、素早くヤーブロッコの背後に回って、飛んでくる糞と生ごみを発酵させたものから身を隠す。
「ちょっと、なんで僕を盾にしてるんすか!」
「いや、お前、糞の臭いくらい平気だろ?」
「慣れてるけど平気なわけないでしょ!」
それはそうだ。ヤーブロッコは後ろの鳥の巣を殴ってもいいと思う。

「お前がわしに言った台詞、一言一句覚えとるぞ!」

『へー、こんなナマクラ渡すために50年もこんなとこで待っててくれたのか。すごいな、きっと故郷の幼馴染や友人なんかは今頃孫に囲まれて賑やかに暮らしてるんだろうけど、そんな幸せを放り出してでも、こんなしょぼい剣渡すために待ち続けたのか。じいさん、頭大丈夫か? 虫下しでも飲んどくか?』

「……ってなぁ! 受け取らなかった勇者もむかつくが、貴様が一番腹立つんじゃ、ボケェ!」

よくもまあ、そんな傷口に粗塩を塗りこむようなことを言えるものだ。ジジイが恨むのも無理はない。
モグリールに非難めいた目線の向けると、当の本人は初耳ですって顔をしながら首を傾げている。その姿が、また余計に怒りの炎に油を注ぐのだ。
「そんなこと言ったか?」
「言ったよ。ついでに荷物が重くなるから絶対要らねえ、ともね」
これはクアック・サルバー。どうやらふたりはかつて勇者と同行していて、ジジイとも面識があるみたい。

クアック・サルバーは以前、最高にモフモフした小柄で人間の言葉を喋る動物の集団、ロカ族というオルム・ドラカの住人たちに用心棒として雇われていたし、モグリールは一介の冒険者にしては色々なことに詳しかった。
なんていうか立ち位置が不透明だなとは薄々感じてたけど、ふたりがかつてオルム・ドラカに入国して、王であるドラゴンとも面識があるんだったら、ふたりの微妙にうさんくさい立ち位置も納得できる。

「ねえ、クアック・サルバー。ドワーフの話はなんとなく知ってるけど、勇者や他の人はどうなったの?」
「私の仲間は勇者とモグリール、ドワーフの戦士、人間の女神官の4人だったんだけど、生き残ったのは私とモグリールのふたりだけだよ。厳密には勇者は生きてはいるけど、生きていると言えるかわからない状態かな。でも戦士と女神官はかっちり死んでるよ」
そう言い切るクアック・サルバーの表情は仮面に隠れてわからないけど、嘴には悲哀とか哀愁みたいなものが宿っている。
一方でジジイは糞を直接わしづかみにして、モグリールに直接殴りかかりに走り始めた。なんていうか酷い姿だ、人間はなんて醜い生き物なんだろう。いや、私も種類でいうと人間なんだけど。

「私たちは平凡で大したことない、本来ならばこんな場所まで来れるようなパーティーじゃなかった。ドワーフも戦士としては普通、神官も回復魔法が片手で使える程度、はっきり言って取るに足らない平凡な連中だったよ。ただその中で、彼だけが突出していた」
モグリールの鳥の巣みたいな頭に糞が乗っけられる。あんな感じの鳥の巣をどこかで見たなあ、なんてついつい思っちゃう。

「彼、勇者は肩書の通りに勇者だった。人間の中では段違いに強くて、おまけに人格にも優れていた。みんなの愛する出来のいい弟ってところかな、本当にいい子だったよ」
モグリールが反撃で繰り出した蹴りが、ジジイを咄嗟に庇ったイボ痔の大きいトロルの尻を直撃して、大量の膿と血を噴水のように噴き出させる。股の下で世界一汚い水溜りが出来て、近づいた羽虫がボトリボトリと息絶えながら次々と墜落していく。

「私たちは身の丈に合わないくらい迷宮の奥深くまで踏み込み、亜人たちの王、ドラゴンと遭遇したんだ。あれがどういうものかは、ヤミーちゃんが自分の目で確かめたらいい。私たちは知っての通り惨敗……モグリールは弟分と友人と恋人を同時に失った。しばらくは見てられなかったね、といっても冒険者の町スルークハウゼンに戻って、しばらくは顔も合わさなかったけどね」
モグリールが背後からゴブリンに蹴られながらも、オークの被っている下着に糞を擦り付けて、盛大にむせ返らせて吐瀉物を吐き出させる。名前も知らない勇者と神官と戦士、モグリールは今はかなり元気だよ。相応の年を重ねて中年特有の加齢臭がしてるし、今はもっと酷い臭いに包まれてるけど。

「で、私はエルフそのものが敵対してないことを良しとして、ロカ族の用心棒をしたりとオルム・ドラカ側にも着くし、人間の冒険者にも情報を渡す中途半端な立ち位置に居座ることとなった。復讐なんてする気もないからね。ヤミーちゃん、君の友達や知り合いがもし大津波とか雪崩とか火砕流に巻き込まれても、仇を取ろうなんて思わないでしょ。あれはそういう生き物だからね」
目の前ではなにがどうなったのかわからないけど、ジジイとゴブリンとオークとトロールが、マンドラゴラ畑に逆さに突き刺さって、糞まみれの下半身をみっともなく晒して並んでいる。マンドラゴラの剣? よくわからないけど、折れてトロールの尻に突き刺さってる。
そんな地獄みたいな邪悪な農作物のすぐ横では、頭の上に大量の蠅を集らせているモグリールが苦虫を食べ過ぎたような顔をしながら、膝立ちの姿勢で両手を頭上に掲げている。

どうやら積年の恨みの込められた、世界一汚らしい勝負はモグリールの勝利で終わったらしい。

あ、散々汚物をぶつけられたヤーブロッコの飛び蹴りが、油断しきってるモグリールの後頭部に炸裂した。
勝者、ヤーブロッコ。おめでとう、ちっとも嬉しそうじゃないけど。


「さてと、馬鹿な男共は放っておいて私たちも行こうか」
クアック・サルバーが嘴を鈍く光らせて、壁の向こうを指すように首を向けた。


(続く)


<今回の新規加入冒険者>

モグリール
性別:男 年齢:35歳 職業:輸送隊

【クラス解説】
▷荷車や馬車で収集物や食糧品を運ぶ運搬業。倫理観さえ捨てれば運べないものは無い。

【クラススキル】
☆働け!馬車馬の如く
➡指揮と指示で馬車の性能を上げる、恨まれるのは仕方ない

【主要スキル】
・照明弾/煙幕弾/麻酔弾
➡馬車に仕込んだ銃器で色んな弾を放つ
・応急処置/応急蘇生
➡移動時の回復技能、基礎的なものでも必要不可欠
・義足作成
➡簡易的な義手や義足を作る技能

【装備】
☆コネストーガ(馬車、固定)
⇨幅広の車輪を持つ大型の幌馬車、伏兵や武器も搭載できる
・道具箱(補助装備・箱)
⇨戦闘用の道具箱、回転式拳銃/炸裂弾/爆導鎖を内蔵している
・薬箱(補助装備・箱)
⇨治療用の道具箱、回復薬/解毒薬/蘇生薬を内蔵している


<今回のゲスト冒険者>

ジジイ(本名不明)
性別:男 年齢:85歳 職業:占有屋

【クラス解説】
▷建物や土地を不法に占拠して、売買や開発の邪魔をする無法者の一種。

【クラススキル】
☆動かざること石の如し
➡特定の場所に居座り続けることで防御力と占有力を高める、10年も居座れば立派な人間要塞

【取得スキル】
・バラック小屋
➡勝手に小屋を建てて土地の所有権を主張する、生活拠点にもなる障害物
・鉄塔
➡勝手に鉄塔を立てて土地の所有権を主張する、見張り台にもなる障害物
・バリケード
➡バラックや鉄塔の防御力を強化する

【装備】
・聖剣(武器・剣)
⇨50年以上前に神から授かった聖なる剣、洗濯物を干したりするのに便利
・魔剣マンドラ棒(武器・剣)
⇨マンドラゴラを叩いて伸ばして鞘に納めた木剣、抜いた瞬間に絶叫して周りの者の命を奪う


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というわけでモグリール第17話です。
ようやく仲間と合流したよ回&過去エピソード披露の回です。なんでこんな感じになった……!?
まあ、真面目に書き連ねると説明臭くなっちゃうので。

あと歯のないゴブリンや下着を被るオークやイボ痔のでっかいトロールと聖剣のじいさんは、前に書いた短編「勇者に聖剣を渡すために魔王の城のすぐ目の前で50年孤立無援で待ち続けたら歴史に名を残す伝説の老人になりました」からのゲスト登場です。
設定こそ丸っと同じな別人ですけど。じいさんはより短気になりましたね。

同時に4人も書いてられるかってところもあるので、そのうちヤミーちゃんがまた逸れそうな気もしますが、次の話も全然考えてないので未定です。毎回思い付きでやってます。おす。