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死者に花束を、生者には銀の杭を

「この世で最も偉大なものは神、あるいは人類の頭脳であるのは疑うべき点は無いが、ではこの世で最も恐ろしいものは何か、と問われたら、君ならなんと答えるかね?」


そう問いかけられたら、人間はなんと答えるだろうか。
銃、確かに恐ろしい。でも拳銃よりも猟銃、猟銃よりも機関銃、機関銃よりもクラスター爆弾と威力、殺傷力、攻撃範囲、上を挙げればきりがないし、では究極的には核兵器ということになるが、人間が一瞬で死んでしまうという点では拳銃と同程度といえなくもない。
であるならば、そういった恐ろしいものを用いる軍人、強盗、マフィア、独裁者、そういった使用者こそが恐ろしいといえるが、これも全てにおいて先程の解釈が成り立ってしまうので、答えがひとつに絞れない。
そして目の前の男は、そんな安直な答えを望んではいない。彼は知的で理性的で、ごくたまにユーモアを口にするような、インテリジェンスの側に立つ人間だ。
求めているのは理路整然としたインテリジェンスだ。もしくは彼を満足させるユーモアだ。
「そうですね……」
この言葉に意味はない、単に答えを選ぶまでの時間稼ぎの、要するに繋ぎだ。こういって一拍置くことは存外役に立つ、例えば、例えるまでもなく今まさにこういう時とかに。

「蜘蛛ですね、あくまで私ならという前提条件付きですけど」

蜘蛛は確かに恐ろしい。まず見た目がキツイ、この世で最も醜悪な姿をしていると思う。第2第3の理由もあるけれど、この一点だけで恐ろしいものと定義するには十分だ。

答えを聞いた男はこの答えがユーモア寄りのものだと察して、大袈裟に喜劇俳優のような両手の肘から先をくるりと回転させて上に立たせる仕草をしてみせる。
どうやら正解とまではいかずとも、教授を多少満足、それこそ暇潰しの会話の無意味な時間潰し程度には満足させたようだ。だとすれば有り難い。生徒としての仕事は果たしたことになる。
「おお、確かにあれは恐ろしい。人間の本能に迫るグロテスクな外見をしているからね。しかし実に平凡な答えだ、15点。街頭アンケートなら及第点だがね」
平凡だったか。それはそうだろう、私が咄嗟に出した程度の答えだ。私は決して優秀な学生ではない、学力という点では上には両手の指で数えられないほどの学生が在籍しているし、思考力という点でも三角錐の下底の辺りをうろうろしている、というのが自分の自身への評価だ。
「私ならこう答えるだろうね」
男は伊達で掛けている単眼鏡のテンプルを指で摘まみ、くいっと動かしながら、本気なのか立場的なことを考慮してなのか、まあそうだろうなという答えを投げてみせた。

「吸血鬼、と」

ショウファー・フィリップソン教授。
吸血鬼学の専門家で大学教授、私たちのゼミの担当教授でもある。吸血鬼というのは、いわゆる吸血鬼だ。100人が100人、吸血鬼と聞けば伝承や物語で刷り込まれたイメージを思い浮かべる、あの吸血鬼だ。
人間の血を啜り、太陽の光を嫌う、あの吸血鬼だ。
私たちの通う大学のある町ブルートスタッドは、吸血鬼伝承の根強く残る町だ。町の名前でもある血の町に相応しいといえば相応しいし、名物である血と一緒にひき肉を腸詰にしたソーセージのことを考えると少しどうにかするべきといえる。
そんな血の町では雪の積もる時期になると盛大に真っ赤な葡萄酒を振る舞って吸血鬼への祈りを捧げ、一方で各戸建ての玄関には必ずニンニクを吊るすという祈りとは対照的な習慣も残っている。
フィリップソン教授もこの町の住人であり、彼らと同じように吸血鬼を信仰する者であり、同時に吸血鬼を正しく理解して解明して明確に伝えるための学問の徒でもある。
その教授が最も恐ろしいものとして吸血鬼を挙げるのは、予想している中でも一番最初に出てくる、当たり前すぎて平凡ともいえる正解の示し方だ。

私がふうんと無意識に嘆息したのに気づいたのか、フィリップソン教授はこほんと咳払いして、
「さっきのは嘘だよ、エミリア君。最も恐ろしいのは、せっかく夕食を作ったのに僕の帰りが遅いからという理由でスープを冷ましてしまった時の妻だよ」
などとお道化てみせた。教授なりのユーモアであり、今日はそろそろ帰るという合図だ。
「であるならば、急いで帰り支度をしないといけませんね。これは提案ですが、まず最初にパンツを履いてみてはいかがでしょう?」
「君の言うとおりだ、エミリア君。このまま外に出てしまったら、僕の行き着く先は自宅ではなく拘置所だ」
フィリップソン教授はつい半刻前まで、紳士らしからぬ暴れ方をしていた下半身を綿の下履きで隠し、枕元に転がる避妊具を包んだ紙屑を塵箱に放り込んだ。
そう、先程の学問とユーモアの境界にあるような質疑応答は、いわゆるピロートークだったのだ。
こんな色気のない情事の後の会話など、この教授でなければ、そして気の利いた言葉のひとつも出さない男を許す私でなければ成立しないだろうと自負している。自慢にもならない自負だが。


そんな縋るにも頼りない自負は、数日後には打ち砕かれることになるわけだが。


そう、フィリップソン教授が死んだのである。

第1発見者は彼の妻で、すっかり冷めきった夫婦関係を表すかのように、彼女は友人宅で夜更けまで愚痴を溢し、酒に酔った勢いで明け方に友人夫婦を連れて帰宅した。おそらく不甲斐無い亭主に向けて、嫌味のひとことでも投げつけてやろうと考えていたのだろう。その際に万が一の時の護衛、もしくは健全な夫婦の見本として連れていたのが友人夫婦。そういう馬鹿げた愚挙に付き合う夫婦が健全かどうかはさておき、彼らの存在がアリバイの証明となり、実にスムーズに通報から事情聴取、そして葬儀までを終えることが出来たのだった。
むしろ彼らが居なければ成立しなかっただろう。なんせ見つかった遺体は、窓も扉も鍵の掛かった密室状態だったにもかかわらず、まるでマフィアに処刑されたかのように喉笛を横一文字に、それも骨を寸断する勢いで深々と斬られていたのだ。
いくら冷めたスープのような関係とはいえ、一度は情を抱いた相手がそんな惨たらしい姿を晒していては、仮に死体に慣れていたとしても正気ではいられない。事実彼女は気が狂ったように取り乱し、今も病院のベッドの上で寝込んでいる。

私はというと、人伝に教授の死を知って、その直後に食堂で流れていたテレビのニュースで詳細を知ったという経緯であったため、彼女よりは多少心の余裕があったというか、現実味が無さ過ぎて冷静になったというか。
実際は喉元にナイフを突きつけられたような冷たい不快感を抱いたものの、それが却って自分を落ち着かせようと頭が動いてくれたので、静かにドリンクを飲み干して、未だに涙の一滴も流さずに済んでいる。
薄情といえば薄情だが、何度か同衾したくらいの、それも後ろ暗い関係性だ。どうして彼が、などと泣き叫んだりしない程度には弁えている。いや、弁えているのならば最初からそんな関係には陥らないのだが。

幸いなのは教授が今時珍しく、携帯電話もメールも使わない類の人種であったことだ。おかげで私たちの不健全な関係は、おそらく誰にも知られておらず、それを証明する証拠らしい証拠も残っていない。
どころか、大学からは勉強熱心なゼミ生として認識されていて、こうして彼の研究室に立ち入って、資料を閲覧することを許されているのだから、勉強は真面目にしておくものだ。
さすがに大学は少々不用心すぎやしないか、とも思わなくもないが、密室での発見で凶器も彼自身が握っていたためか、あっさりと自殺と断定されて、速やかに葬儀も終えたのだ。部屋の主はすでに土の下で眠っているし、彼の研究を引き継ぐ正式な後継者もいない。せめて興味を以って学んでいた学生に解放しよう、というのはむしろ大学の配慮かもしれない。
配慮に反して、研究室を訪ねたのは私ひとりだが。
「まあ、気味が悪いだろうし……」
そう、数日前に亡くなった男の研究室でのんびり資料を閲覧しよう、などと考える者は普通に居ないのだ。私はどうやら普通というカテゴリーからは外れているようだ。
光栄だ、おかげでこうして静かに教授との、格別そう多くもない思い出を反芻することが出来る。

【吸血鬼の繁殖活動は他のどの生物とも決定的に異なる。彼らは別種の生物の血液を吸うことで、自らの生命を閉じ込めておく器とでもいうべき肉体の予備を用意するのだ。その対象は血を吸える程度の大きさと、噛んでも死なない程度の頑丈さと、自分がしたのと同様に誰かに噛みついて血を啜ることを可能とする機能さえあれば、人間であっても獣であっても構わないという。僕はまだお目にかかったことはないが、中には鮫を予備とした吸血鬼もいるそうだ。俄かには信じがたい話だと思うかもしれないが、僕は実際に吸血鬼と会って、言葉を交わしたことがある。僕の持つ吸血鬼に関する知識は、実のところ彼女、偉大なる吸血鬼の女王から教えてもらったものに過ぎないのだ。研究者としては反則をしたというか、運動競技者がステロイドに手を染めた時のような後ろめたさを感じてはいるが、世間一般に語られる吸血鬼とのあまりの剥離から直接教えを乞うてしまったのだ。彼らは人間が思っているよりもずっとしたたかで、それでいて世界中の隅々にまで、細く薄い毛細血管のように命を拡げている。この世で最も偉大な存在を神であるとするならば、最も厄介な存在を選ぶのであれば吸血鬼と断言する】

「まるで夢物語か小説の執筆者のメモだ……」

教授の机の引き出しの中に残されていた手書きのノートに記されていた、おおよそ正気とも事実とも思えない記述に視線を落とし、しかし彼は冗談は言うけれど嘘を吐かない男であったことを思い出す。いや、嘘を吐かないというのも私に対してであって、妻や周りの人間に生徒と枕を交わしていた等と正直に話していたわけでもあるまい。
けれど、わざわざ自分の研究室の、誰が読むでもないノートに嘘を書くとも思えない。教授が趣味で娯楽小説を嗜んでいたのであれば話は別だが、彼は読書家ではあったが、むしろ小説には疎かったと記憶している。読んでもせいぜい学問のために、各地の著名な吸血鬼小説に目を通す程度で。

【エミリア・ガーベンティン君、もし僕が不在となった時に、研究室を訪ねてくるほどに勉強熱心な学生がいるとしたら君くらいだろう。君にひとつ頼みがある。先に交換条件として、この研究室にある資料は好きに持って帰ってもらって構わない。これはそう悪くない条件だとの自負がある】

反射的にノートに挟まっていた便箋を握り潰す。
まさか自分の名前が記してあるとは思ってもみなかったのと、記したのがいつなのかは知らないが、先日までの関係性を考えるとあまりにも不用心だからだ。無神経とも言っていい。
「……驚かすなよ、教授」
くしゃくしゃに丸まった便箋を広げ直して、なるべく丁寧に表面を伸ばして、居心地悪く天井へと向けていた目線を文字の続きへと戻した。

【僕の死体はおそらく土葬にされているはずだ。この町にはとある理由から火葬の習慣がないから、おそらく高確率でそうなっているだろう。火葬しようとしても教会からも葬儀屋からも止められるだろう、誰もが知っての通り、このブルートスタッドでは死体を焼くことは暗黙の了解で禁止されているからだ。そこでだ、君には僕の死体を燃やしてもらいたい。死ぬ時には、仮に殺されるとしても後から血を吸われぬように工夫するつもりだが、確実にこなせるとは限らない。そして僕の死体を燃やした後、ブルトシュタイン城を訪ねて、僕が亡くなったことを伝えて欲しい。夜の0時以降なら入り易いはずだ。頼んだよ。ショウファー・フィリップソン】

これは面倒なことになった、直感でそう思った。
教授が殺された可能性もあるということだ。可能性でいうと半々だろうか、それとも自殺の方がまだ可能性は高いのか。自殺もさせられたと考えたら、殺されたと考える方が自然なのかもしれない。
そしてブルトシュタイン城、あの町はずれに佇む時間の流れに取り残されたような城は、私が知る限りは町が管理する廃墟で、観光名所にでもすればいいのに未だに立ち入りを禁止されていて、当然誰もいないはずだが、そこにいるらしい何者かはおそらく教授の死に関わっている可能性が高い。
可能性の話ばかりだが、少なくとも喜ばしいことが起きてくれる可能性は無さそうだ。
人生はいつだってそういうものなのかもしれないが、せめて城にファンタジーゲームみたいに金塊の入った宝箱でも置いていて欲しいものだ。

「……仕方ない、行くしかないか」

そこまでの義理があるかは自分でもわからない。
でも行くしかないように思うし、この遺言を受け取ってしまった時点で行かざるをえないような気もする。私はいつだって選択肢を間違えている気もするが、かといってそうじゃない選択肢を選んだとしても今より良い人生を送っていたとも思えない程度には、目の前の選択肢に重きを置いてない。置いてないというか、どっちを選んでも最良の結果など辿り着けるはずもない、そういう風に捉えている。
あの時、自分から教授の研究室を訪ねなければ、と思わなくもないし、でも結局はどこかでそういう風になっていたとも思う。教授でなくても、結局は別の誰かと後ろめたい関係になっていて、家族との修羅場みたいなものがない時点で今の選択肢の方が平和なのかもしれない。

「行くだけ、行くだけだから」

いつだって先の見えない毎日を送っているが、今回の先の見えなさはまた別の種類の怖じ気が漂っている。
殺されることはないだろうけど、少なくとも痛いのや怖いのは嫌だな、そう思うのだ。


✝ ✝ ✝ ✝ ✝ ✝ ✝ ✝ ✝ ✝ ✝ ✝


ブルトシュタイン城。
かつてブルートスタッドを治めていた辺境伯、エッカルト・ゴドフリーが建てたとされ、この町の吸血鬼伝承では討ち取った吸血鬼から流れ出た血が町中の川と大地を赤く染めたことから、血の町の城、ブルトシュタイン城と呼ばれるようになったのだとか。
それも本当であっても何世紀も前の話で、辺境伯の死後は町の有力者が住み着いて管理していたが、それも100年以上前に放棄され、現在も取り壊すでも改装するでも名所にするでもなく、ただ薄気味悪く町はずれの高台の上に佇んでいる。
一応は歴史的建造物でもあるので、当然の如く、立ち入りは禁止されていて、日中は警官の巡回ルートに入っているし、夏でも上着なしではいられないほど冷え込むこの町で、わざわざ夜中に凍える思いをして訪れる物好きなど滅多にいない。
むしろ住人たちの吸血鬼への信心深さもあって、決して踏み込んではならない禁足地のような扱いで、もしかしたらそれが観光資源にすらならない最大の理由なのかもしれない。

深夜、日付が変わる頃、積もった雪を踏みしめるごわごわとした音を静かに鳴らしながら、私は教授のお願いの通りに城に向かっていた。もちろん教授の死体は燃やしていない。いくらなんでも墓を暴いて遺体を運び出して燃やす、などという墓荒らしのような真似は出来ないし、そんなことをする度胸がある者は勉強などせずに銀行強盗かテロリストにでもなっているだろう。
私みたいな小心者の小市民の学生に出来ることなど、せいぜい夜中の城に近づいてみるくらいのものだ。
吐く息が白々しい程に白い。月明かりに照らされた銀色の大地の上で、白く煙のように零れては流れていく。火葬場のある町であれば、教授はきっと今頃、こんな白い煙となって煙突から吐き出されていたのだろうか。
だとしたら冷たい雪の下で眠るのは少し可哀想だ、なんて思わずにいられない。自分が死ぬ時は温かい炎の中で葬られたい、そんなことを考えてしまう冷気と空気が、こんな夜にはある。

「おや、こんな時間に珍しいね? お客さんかい?」

不意に聞えてきた声は背後から、まるで耳元のすぐ傍で囁くような細く小さな声だった。
しかし慌てて振り返った私の視界に映ったのは、白い雪の向こう、途方もなく遠いようにも錯覚してしまうような距離に浮かぶランタンの灯だった。目を凝らしてぼんやりとした橙色の灯を見ると、こんな季節こんな時間なのに薄い長袖シャツとスラックスにジレを羽織っただけの、シックなアンティーク喫茶の店員を思わせるような恰好の30そこいらの男と、その隣に小柄な、まだ年端のいかない子どもを連想させるような少女が、どこかの国の民族衣装のような上下をひらひらとさせながら佇んでいる。
と思った刹那、目を離したわけでも閉じたわけでもなく無意識に瞬きをしたその刹那、少女の姿は初めから居なかったかのように雪の上から泡のように消えて、私の背後に回り込んで、ぽんと肩を叩いてきたのだ。それも振り向いた顔の頬に、人差し指が埋まるという他愛のない悪戯まで添えて。
「お客さんかい?」
「はい、客です……」
「ふぅん」
この少女は何なのだろう。誰、ではない。何、だ。
指先が冷たく、まるで体温を感じない。すぐ傍にいるはずなのに、そこにいる気配がまるでない。一瞬でも目を背けたら、そのまま見失ってしまいそうな不在性だけが浮かんでいるような、そういう人間がいる感じを一切伝えてこない異様さがあるのだ。

「ライエル、こちらのお嬢さんはすっかり冷えてるようだ。中に入れてあげよう」
ライエルというのはジレの男の名前だろうか。呼ばれた途端に静かに頭を垂れた姿が、視界の端に映り込む。
「よろしいので?」
覇気のある、けれど抑揚のない不気味さを含む相反した声だ。声の低さと掠れ具合から、実年齢は外見よりずっと上なのかもしれない。
「構わんでしょ。全身に糞でも擦り付けてあったらお断りだけどね」
少女は見た目こそ可憐さと儚げさを併せ持っているが、どうやら口汚さも持ち合わせているらしい。
「前に来た浮浪者は汚れ過ぎて犬の便所みたいな臭いをさせていたけど、君はどうやら風呂に入る習慣があるようだ。いいことだよ、人間、臭くなるのはあっという間だ。あえて激臭まとって鼻の弱い軟弱者を寄せ付けない作戦だ、私の股座なめたかったら醗酵ニシンを克服してから来やがれ、という主張を持っているなら別だけどね」
頼むから1回口を閉じて黙って欲しい。こっちはまだ感覚が追いついていないのだ、そんな久しぶりに会った悪友のような馴れ馴れしさで来られても困る。

「ようこそ、ブルトシュタイン城へ。私が城主のデュゼール・ブルトシュタインだ」

少女は右腕を斜め上から腰の辺りに向けて、水を掬うような埃を払うような仕草で振り下ろして、左手でスカートの中程を摘まんで少し持ち上げてみせた。
まるで歓迎の動作を真似たかのように。


「へー、君はフィリップソン君の生徒なのか」
城内の一室、応接室のようなソファとテーブルが置かれた部屋に招かれた私は、暖炉の炎が部屋を暖めるまでの間に簡潔な説明を済ませた。あくまで教授との関係は伏せて、勉強熱心な学生がたまたま誰に宛てたわけでもない便箋を見つけた、ということにして。
「道理で奴のニオイがすると思ったよ」
城主を自称する少女が、にやりと意味深な笑みを浮かべながら、鼻を鳴らすようにひくひくと動かす。
これは良い意味での匂いなのか、悪い意味での臭いなのか。服も下着も定期的に洗濯しているが、最近は慌ただしく時間が過ぎたせいか、コートとスカートは教授と最後に会った日のものをそのまま着て来てしまった。もっというとベッドのシーツも布団カバーも洗ってはおらず、異常に嗅覚が優れていたらそういう行為の付属品みたいなにおいも嗅ぎ取れるのだろうか。
「奴、50過ぎだったっけ?」
「え、なにが?」
「年齢だよ、年齢」
フィリップソン教授の年齢は確か52だ、嘘が無ければ。著者紹介でもそうだったので、公に対しての年齢詐称でもしてなければ。
「お盛んだねえ」
城主は左の親指と人差し指で輪っかを作りながら、そこに右手の人差し指をすかすかと行ったり来たりさせている。要するに下品を絵に描いたような所作だ。あえて説明するまでもなく、動作の意味は性行為を表している。

「主様、下品ですよ」
こほんと歯切れの良い咳払いと共に、暖められた部屋にニンニクの香りが充満する。
クラシカルなメイド服を着込んだ眼帯の、もう片方の目付きが異常に悪い若い女の手には、ゆらゆらと湯気立つ大盛りのペペロンチーノ。服装は城主の趣味なのか、そそくさとメイドの足元に駆け寄って、スカートの裾を脛が半分覗く高さまで摘まみ上げたりしている。
「グレンデール、品性というのは語り手に依存するものだよ。そんなわけだから、私が発する言葉は全て上品、極上といえなくはないかい?」
「確かにあなたはいつでも最高ですけど。ところで主様も食べますか? ペペロンチーノ」
「どうせならみんなで食べよう。アランドーラも呼んできて」
「私なら既に控えておりますよ、お嬢様」
燕尾服姿の口髭の男が、蝙蝠のように天井に逆様にぶら下がっている。
アンティーク喫茶店員といい、メイド服といい、燕尾服といい、城主の趣味なのか揃いも揃って個性的だ。教授の遺した記述からすると、彼女は吸血鬼研究者か吸血鬼そのものだと思われるが、もし吸血鬼だとしたらニンニクを好んで食すのだろうか。
だとしたら家屋の玄関にニンニクを飾る風習は、完全に逆効果であると言わざるをえない。

「さて、お嬢さん、遠慮せずに食べたまえ。毒なんか入ってないから」
フォークで麺が巻かれるたびにニンニクの香りが立ち込める。一体どれだけの量のニンニクを入れてあるのか、ラーメン屋も真っ青な強烈な香りだ。
「人間たちは吸血鬼がニンニクを嫌うと勘違いしているけど、私に言わせるとニンニクとジンジャーは入れたら入れただけ旨い。胡椒も振ったら振っただけ旨い。塩と砂糖はさすがに適量が正義だけどね」
「あの、あなたは吸血鬼なの……なんですか?」
咄嗟に言い直したのは、敬語を使わなかった瞬間の城主以外の瞳が狩人のような敵対心に満ちていたからだ。どうやら城主というのは自称でも、令嬢のお遊びでもなく、真実としてそのようだ。そして彼女、おそらく他の従者たちも吸血鬼であることも。
「ほひもん、きゅふへふひだ!」
「お嬢様、一旦飲み込んでからにしましょう」
燕尾服の口髭男がジンジャーの香るスープをマグカップに注いで、城主にそっと手渡す。城主はすかさず勢いよくスープごと喉の手前に溜まった麺を流し込み、再びペペロンチーノをフォークで巻き取って口の中に運んでいく。
「ぼふぁっほひてふぁいへ、ひみもふぁべふぁはへ」
「城主の先程のお言葉だが、もちろん吸血鬼だ。今のお言葉は、ぼさっとしてないで君も食べたまえ、とおっしゃっている」
城主の言葉を翻訳するのはジレを羽織った男で、どうやら食べ終わるのを待つよりも訳した方が早いと判断したらしい。なんていうか、当初想像していたよりも、言葉を選ばずに表現するとしたら、ずっと愉快な連中だ。

皿の上のペペロンチーノが無くなった頃、城主は銀製の装飾で彩られたグラスに注いだ葡萄酒の、赤い血のような水面をゆらゆらと揺らしながら、フィリップソン教授と自分たちの関係を語り始めた。
「奴は私の比較的新しめの友人でね、奴が大学生の頃からだから、たかだか30年くらいの間柄だよ」
「あなた、見た目10代前半くらいですけど……」
「吸血鬼は年を取らない。生命の循環とか食物連鎖とか、そういった理からは外れてしまったからね」
吸血鬼に老いは無い、と以前教授から教わったことがある。その時は極端に年を取るのが遅い、もしくは犬や猫のように毛並みと体力以外に老いを感じさせる要素が少ないのかと勝手に結論付けていたけれど、どうやらそういうことではなく、もっと単純に老いという概念が存在していないらしい。
更には何世紀も今の姿のまま過ごしているそうで、従者たちはその間に出逢って気に入ったものを選んだという。
「それって……吸血鬼は作れる……?」
「鋭いね。その通り、吸血鬼は作れる。厳密には他の生き物を吸血鬼に変える、だけどね」
城主が口角を上げてにやりと笑う。僅かに開いた唇の隙間から鋭い牙のような犬歯が覗いた。

【吸血鬼の繁殖方法に関する補足。彼らは別種の生物の血液を吸うことで、自らの生命を閉じ込めておく器とでもいうべき肉体の予備を用意すると記したが、血を吸われた生き物は非常事態の予備の肉体となるだけでなく、第2世代の吸血鬼であれば次世代の吸血鬼へと変質させることが出来る。始祖と呼ばれるごくわずかな第1世代の吸血鬼の王たち、彼らが膨大な時間と大量の血液を介して世界各地に散った第2世代の吸血鬼たち、そしてあくまで器としての役割しか果たせず、劣化吸血鬼とも呼ぶべき血を啜る伝染病のようなものしか作り出すことの出来ない第3世代以降の吸血鬼たち。始祖と第2世代は限りない長命の命を有するが、第3世代以降は老いもすれば自然と命が尽きる、人間や他の動物と同じように。それでも比較的長い寿命を持つことに違いはないが。なお世代を重ねるごとに器を作る能力は衰えていき、死んでいない人間であること、純潔であること、といった条件が付与されていく。現在、僕の知る限り、最も世代を重ねた吸血鬼は第10世代である】

教授の研究室から拝借したノートに改めて目を通す。
馬鹿げた妄想のような記述も、それが事実であるならば途端に恐ろしいものへと変質する。この文章が現実であるならば、一体この世界にどれだけの吸血鬼が存在しているのだろう。
「伝染病のようなもの、とは酷い言い草だね。否定はしないけど」
城主が横からノートを覗き込みながらくすりと笑う。
「まったくですな。私共は運がよかった、お嬢様に血を吸っていただけたのだから」
「確かに。主様じゃなかったら人間の世界にどっぷり漬かったまま、だらだらと長く生きる羽目になったでしょうね」
「同感です。城主のおかげで、あの研究家が定義するところの第2世代になれたわけですから」
従者たちが城主を囲みながら、その低く小さい頭をわしゃわしゃと撫で回す。まるで猫でも撫でているような、そんな愛情と敬意を蜜漬けの果実に含まれる砂糖のようにたっぷりと含ませた手つきで。
「感謝しなよ、お前たち。まあ、中には前の城主のように、感謝どころか深く醜く恨んでいる輩もいるけれどもね」
城主の目線が部屋の窓の外へと一瞬だけ移り、またすぐにノートへと戻る。
「奴も言っていたよ。えーと、確か、そうそう、こんな具合にね」
城主は背筋を伸ばして立ち上がり、まるで単眼鏡を掛けているかのように右手でテンプルを摘まむ仕草をしてみせた。

「僕は吸血鬼にはならないよ。僕は吸血鬼を面白いと思うが、それは僕が人間だからだ。君も人間を少しくらいは面白いと思っているようだが、人間になってみたらきっと興ざめしてしまうだろう。この世で人間ほどつまらないものはないからね……だったかな?」
「教授の言いそうな台詞ですね」
「まったく残念な男だよ。第3世代くらいにならしてやろうと思ったのに」
要するに従者たちよりはずっと立場も執心も愛着も下、けれど寿命であっさり死なせるには少々惜しい、そのくらいのものということだ。道端で稀に遭遇する野良猫に長生きして欲しい、それと同じくらいの。
「ところでお嬢さん、奴は死後に燃やしてくれ、と言ってなかったかい? それともすでに火葬は済んだのかな?」
「いや、実は……」
私は火葬にしていない旨、火葬をしようにもブルートスタッドでは火葬が暗黙の了解で禁じられていること、火葬場が無いこと、墓荒らしになる度胸は持っていないことを伝えた。
「ヨハネめ、まったくあいつはいつまで経っても生き意地汚いな。君も知ってるだろう、ブルートスタッドの市長で教会の司祭、ヨハネ・パウロ・グレゴリオマティス」
私もこの町で何年も暮らしている学生だ、当然市長の顔と名前くらいは知っている。敬虔な吸血鬼の信仰者で、死体を土葬する習慣も吸血鬼に死者を捧げて蘇らせた眉唾な伝承に由来するものだ、と教会関係者の葬儀の席で語っていた。

「薄々勘づいているかもしれないけど、あいつも吸血鬼だ。私に血を吸われた、いわゆる第2世代のね」

ヨハネ・パウロ・グレゴリオマティス15世。
かつて野盗としてこの土地にあった村を襲い、騎士団の追討から逃れるために教会の司祭を殺害して成り代わり、まんまと保護された果てに、おそらく世界で初めて吸血鬼に血を吸われた男。彼の血を吸った始祖曰く、語るには朝と夜が数回は浮き沈みを繰り返さねばならない長い長い物語があり、喉が渇いて仕方ないので経緯も流れも想像に任せるのだと。

「あいつは刑場帰りだからね。心因症でも患ってるのか、生者でも死者でも噛みついて予備の器にしておかないと気が済まない。いつまでも人間らしさを忘れないから、そのまま司祭をやらせてみたけど、どうしようもない臆病者だな、あいつは」
そう言い放って始祖と従者たちは笑い、各々が隣の物置部屋に立て掛けてあった円匙や鶴嘴を手にしたのだ。
「じゃあ、ちょっと墓荒らしにでもなってみようかね。光栄なことだから安心しなさい、なんせ吸血鬼様に墓を暴いてもらえるんだから」


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ブルートスタッドの人口は現在およそ10万人、その中になんと3万人もの吸血鬼の器がいるという。
その中には太陽の光を嫌い、銀とニンニクの臭いを嫌うような、出来損ないの劣化物も少なからず存在するため、住民たちは風習として玄関にニンニクを吊るして襲撃から身を守る。
そして野垂れ死ぬ際には万が一にも血を吸われないように、自らの喉笛を掻っ切るという続きがあるが、一般的にこちらは血生臭すぎて伝わっていない。

「ということは、教授はやっぱり自殺だったんでしょうか?」
「さあね、自ら首を斬ったのであれば自殺だろうけど、そうせざるをえない状況を作り出されたのなら他殺だろうし、自殺に見せかけた他殺なんて場合もあるかな。なんせ吸血鬼は色々と暗躍するのに便利な生き物だ、例えば」
隣で雪を踏み鳴らしていた少女が真っ黒い猫へと姿を変えて、ひょいっと私の肩に跳び乗り、
「第3、4世代くらいまでならこういうことも出来る。猫、蝙蝠、梟、蛇、影に潜むことも壁を擦り抜けることだって造作もない。吸血鬼にアリバイなんて有って無いようなものだよ」
「重たっ!」
説明を終えるとすぐに少女の姿に戻ったので、一瞬にして肩が外れてしまいそうな、儚げな存在感が嘘のような氷の塊にも似た重みが圧し掛かる。
「びっくりさせついでに教えておくと、奴の妻、あれも吸血鬼だ。世代はだいぶ後の方だし、出来はいまいちだけどね」
驚き過ぎて肩から重みが消えた。単に吸血鬼が下りたから、ということなんだろうけど、それにしても教授の妻が吸血鬼だったとはどういうことなのか。教授は知っていたのか、それとも知らなかったのか、薄々察してはいたけど確証が持てなかったのか。
答えは明白だ。彼は死体を燃やしてくれと頼んだ、ということはだ、彼の死体を噛む者の心当たりがあるということだ。

「死にたての死体なら、私や従者であれば噛んですぐに吸血鬼に出来るけど、出来損ないなら一週間ほど仮死状態が続いてようやく蘇る。当然出来損ないが血を吸うのだから出来は劣悪だ、知世はおろか食欲と吸血欲くらいしか残らず、おまけに生前の負傷は治ることなく、むしろ時期によっては腐ってそのまま」
もしかしたら教授はそこまで見越していたのだろうか。自分に墓荒らしをする度胸などなく、当然ひとりで教授の死体に立ち会う勇気もなく、この吸血鬼たちに頼ってしまうことまでを。
「さて、お嬢さん、あそこに見えるのが教会墓地だよ。奴が自前の墓を構えていたら、そっちに埋葬されただろうけど、吸血鬼研究なんて特殊嗜好な分野はそこまで儲からない。埋葬されるのであれば十中八九ここだろうね」
参る者もなく雪に埋もれた墓地は、ただただ途方もなく広く、雪の中から僅かに突き出た十字はまるで、雪の上を這うように伸びる蔦のようで、ここに踏み入る気分を絶妙に削いでくれる。
「しかし私は忙しい、ひとつひとつ雪を掘って名前を確認するなんて面倒だ。そこでだ」
少女が懐から紐のついた鈴を取り出して、左右に振り子のように動かして甲高くも細い音を響かせる。

「デュゼール様、こんな夜分に何の御用でしょう……」
「久しぶりだね、ヨハネ君。10年ぶりくらいかな?」
新聞でもテレビでもよく見る顔だ。ブルートスタッド市長にして教会の司祭のひとり、ヨハネ・パウロ・グレゴリオマティス15世。不健康そうに肥えてはいるが、吸血鬼ということを考えれば、これが本当の姿かは定かではない。もしかすると世を忍ぶ仮の姿的なものなのかもしれない。
「ショウファー・フィリップソンの墓の場所を知りたい。とっとと案内しろ、この肥満体」
「わかりましたよ、わかりましたから蹴らないでください」
太っているのは事実そうらしい。牛のような尻を蹴られながら、慌てて教会から墓地の名簿を持ち出して、きょろきょろと左右を見渡しながら鼻息荒く位置を確かめている。


十数分後、私たちは重たい雪を掘り進み、冷たい石の上を更に凍えさせる塵のような雪を拭き払い、教授の名前をようやく発見した。

『ショウファー・フィリップソン、ここに眠る』

石にその名を刻み、眠ることを指し示す言葉。思わず下にいる彼のために、胸元で十字を切って祈る。
なにを? 冥福? これから燃やそうというのに?
安らかに? だからこれから燃やそうというのに?
来世の幸せ? そんな不確定な定かでないものを?
自分でも何に対してかわからない祈りを捧げて、そういえば葬式や祈りは死者の為ではなく遺された者の為にあるのだ、という説を思い出す。
彼が自分といて幸福だったとは思わない。そう思うのは自惚れだと戒める程度には弁えている。
では自分が幸せだったのかと問われると、やはりそうとも思えない。そう断言できる程度には後ろ暗さを秘めている。

「よし、ちゃっちゃと燃やすか」
「えぇ? 燃やすんですか?」
「お前な、その貧乏くさい根性、どこかで直した方がいいよ。死体なんていつまでも置いてても仕方ないでしょうが」
目を瞑って祈る私の横で、市長は少女に再び尻を蹴られながら、墓石を動かして埋められていた棺の蓋を開ける。そこにどぽどぽと油を流し込み、燐寸を擦って、薄めに見ても無残な遺体に火の粉を落とす。
油は火と合わさって炎となり、炎は空気を吸って勢いを増し、周りの雪は熱を帯びて水気を帯びて氷へと変わる。
「さようなら、フィリップソン君。話して退屈しない程度には楽しかったよ、人間辞めなかったのが残念だけど」
「さようなら、教授。私も楽しかったです、涙が出ない程度には退屈でしたけど」
「おやー、ちんちん咥え込んでおいて、そんなこと言うのかい? 若い娘ってのはおっかないね」
下品な吸血鬼め、と横目でじろりと睨みながら両手を絡ませて祈る。

何に? 強いていうならば、そう、彼の人生を支えた吸血鬼にだ。


✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛ ✛


「……で、わざわざお別れを言いに来たわけかい? 教授が教授なら、生徒も生徒だね」

吸血鬼は呆れたような表情を浮かべながら、まあいいやと呟き、ごそごそと服のあちこちを探って、1本の銀製の骨董品を投げて寄越した。それは人を襲うには頼りなく、身を守るには素手よりかは幾らか心強い程度の長さの、キャンプにでも使うような1本のピックだった。
「もうすでに知ってるだろうけど吸血鬼は世界中にいる。世の中にはそういう連中のコミュニティーも割とそこかしこにあって、もしかしたらそれが役に立つ、かもしれない。なんせ吸血鬼で私より偉い者はいないからね、全世界どこまで使える通行証みたいなものだ」
「ありがとう、ございます……」
「いいっていいって。えーと、誰だったっけ? そうそう、フィリップソン君だ。奴が教鞭から離れた時の退職祝い、そういうのにでもしてやろうと思ってた物だから」
吸血鬼はあまり過去に執着しないらしい。人よりも遥かに長い時間を生きるのだから、いちいち小さな感傷に浸るわけにもいかないのだろうか。
だとしたら教授が吸血鬼にならない道を選んだのも納得がいく。そっちの道を選んだ者を否定するまでには至らない程度の納得だけど。


【私たち人間は、ちっぽけで惨めで小さな傷のような感傷を、石のように積み重ねて生きて、そして死ぬのだ。エミリア・ガーベンティン】


(終わり、もしかしたら続くかも)


吸血鬼の小説です。
この吸血鬼、構想自体は随分前からあったのですが、いわゆる世間一般の吸血鬼とはだいぶシステムの異なる吸血鬼をイメージしているせいか、ドラゴンと同様になかなか登場させづらい生物だったりします。
でも出してみました。あえて戦闘も格闘もないジャンルで。

どうでしょう?

とりあえず艶っぽい小説にしようとしたら大変下品で俗っぽい感じになったのは、まあ偏に私がデュゼールみたいなのが好きだからです。
枠からはみ出した存在は、一周回って俗物に落ち着く、というのが持論です。その辺はこれ(竜と六畳間)とか、あれ(竜と葡萄酒と世界の終わり)とか、それ(ふしぎな神様とチョコレートトッピングましましワッフル)で書いてる通りですけど。