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小説「彼女は狼の腹を撫でる~第20話・少女と聖剣とでかい岩~」

かつて1000年以上も昔、この大陸には勇者と呼ばれる存在がいた。
その勇者は魔王を倒した後、自らの強すぎる力を封印するために、その手に握られた聖剣を岩へと突き刺し、誰とも交わることなくその生涯を終えたという。
その剣は誰にも引き抜かれることなく、今もなお岩の中で主の帰りを待っている。

真偽は定かではない、風の吹き荒ぶ砂丘の上に記されたような物語の中の話だ――



この世界には巨人が住んでいた、というのは旅人の中でも有名な話だ。
大陸5大都市のひとつで東南部に築かれた【宗教都市タイタラス】は、雲を大きく貫くような、地面に突き立てられた長さ十数キロに渡る巨大な斧と盾を象徴としており、都市そのものも太古の巨人の骨格と語り継がれている、全長十数キロ以上の巨大な躯が横たわったような数百メートルの高さの崖の上に築かれている。

巨大な斧と盾は遥か遠くの海岸線からでも見えるほど大きく、仮に世界が平面であったなら大陸の北端からでも見えたのではないかと言われる程だ。
もし巨人が実在していたのとしたら、この世界はさぞ狭くて居心地が悪かったことだろう。

「今だけ巨人になって、タイタラスまで辿り着きたいね……」
「話しかけないで……喋る余力なんて残ってないから……」

私の隣で髪の毛を汗でぐっしょりと濡らした天才美少女魔道士のファウスト・グレムナードが、普段のかわいらしさを一切感じさせない程に疲労を含んだ声質で、呪術の類のように言葉を吐き出す。絞り出された言葉は空しく地面へと墜落して、その上に降り注ぐ汗と混ざり合って地の底へと吸い込まれていく。

漂着した海岸から歩き続けて1週間、私たちは歩けども歩けども一向に近づいている気がしない巨大な斧と盾を目指している。


私の名前はウルフリード・ブランシェット。16歳、狩狼官。失踪した母と実家から持ち出された狩狼道具を探している。
そして今にも歩き疲れて倒れそうになっている。



歩き続けること更に数時間、私たちは広大な岩場に無数の武器が突き捨てられた岩石地帯、通称【剣の墓場】へと辿り着いた。
この地は古の戦場であったといわれ、戦争、決闘、修練、様々な経緯で刃が欠け、砕け、折れた武器たちが、古の伝説に従って、打ち捨てられるのではなく地面に突き立てられて、文字通り突き捨てられる形で眠っている。
墓場の中心には巨大な岩に刺さった剣が一振り、柄を動物の尾のように突き出している。
剣の近くには立札が建てられていて『求む、剣を抜ける勇者! 抜けた者には聖剣エクスカリバーを贈呈する! なお挑戦代として1回100ハンパート払うこと。騎士ダイン・ジャールート』と殴り書きがしてあり、その隣には作業着姿の中老の男が椅子に腰かけている。

なるほど、いわゆる物語でよく出てくる、血統で選ばれし由緒正しき者しか抜けない魔法の剣というものだろうか。
ご都合主義的に主人公が何故か抜けて、何故かそこら辺の武器よりも遥かに強力であることが多い、都合のよさと願望の塊のような存在、それが岩に刺さった剣だ。
ちなみに喫茶店の1杯の珈琲代、店によっては一口大のチョコレートもついてくる、それが100ハンパートだ。

「どうする、ファウスト? 挑んでみる?」
「剣なんて荷物にしかならないけど、欲しかったらやってみれば?」
確かに荷物が増えるのは困る。13歳の中でも小柄な部類のファウストには、長すぎる剣は持て余す代物だし、狩狼道具という戦闘用の機械を扱う私には、剣はあっても無くてもどちらでもいいものではある。
しかし100ハンパートという価格で剣が手に入るかもしれないという期待と、私の中のギャンブル好きが挑むべきだ、と悪魔のように囁くのだ。


「お嬢さん、挑戦するにも順番は守ろうぜ」

剣の柄に触れようと近づく私を、特にこれといった特徴のない大柄の男が、その身を割り込ませて制してくる。
どうやら私たち以外にも挑戦者がいるようで、周囲を見渡すと老若男女の入り混じった蛇のような行列が出来ていて、その尾の部分の一番後ろでは『最後尾』と書かれた柄のついた看板を掲げている。
もちろん列に混じっていない見物人や、私のような事情を把握していない人たちもいて、すごすごと蛇の尾に向かい、最後尾の看板を受け取っている。

この中でも特に目立つのが、小柄な私よりも更に背が低い、細部に銀色の装飾が施されたダボッとした黒いローブの少女。年の頃は私と同じくらいだろうか、ヘリオトロープの落ち着いた髪色とは対照的に、顔や仕草からは落ち着きが感じられない。
その傍らには黒髪を肩より少し上で揃えた黒の、これといった装飾もない地味なローブを纏った女。背は高めで立ち姿はしっかりと力強く、ローブの上からでも張り出しているところがわかる、いわゆる豊かな女だ。見たところ年は私よりも10歳は上で、腰には柄の長い太めの鎚を携えている。

この大陸で黒いローブを纏うのは一般的には魔道士、もしくは恰好だけでも魔道士を気取りたい変人だ。


魔道士――自分のエネルギーを餌に悪魔や自然に宿る精霊の力を借りて、様々な魔法へと変換する戦闘者。
ファウストの養父で魔道士のカール・エフライム・グレムナードが言うには、稀有な素質を持ちながら膨大なエネルギーを内包している前提条件の上に、極小の針穴に糸を何時間も一回で通し続ける精度と集中力があって、ようやく火炎瓶程度の火球ひとつ飛ばせる程度の魔法を行使できるらしい。
そのため魔道士たちは銃を含めた武器術を一通り習得し、自分の身体操作と魔法に合った技術を徹底的に鍛え上げる。

養父の方のグレムナードはナイフ術と体術を鍛え上げていたし、娘の方はフンガムンガという投擲向きな卍型のナイフと銃の技能を習得している。


当然体格に優れた者であれば、長剣や槍を扱うだろうし、それが聖剣であれば挑戦しに来ても不思議ではない。
目の前の岩に埋まっている剣が、本物の聖剣であればだけど。

「カナンちゃん、見て見て! 本当に剣が埋まってるよ!」
「先生、順番を守らないと怒られますよ。最後尾に回りましょう」

関係性はよくわからないけど、小さい方が先生、背の高い黒髪の女はカナンと呼ばれているようだ。
年齢的にも普通は反対だと思うけど、ファウストも天才ゆえに教師に教えたりしていたので、魔道士の世界というのは徹底された実力主義の世界なのだろう。
しかしここは魔道士の世界ではない、実力よりも秩序と平等が重んじられる。当然順番は守らなければならないし、そこは私たちも例外ではない。

私とファウスト、それに魔道士ふたりは蛇の尾の後ろに回されて、小柄な少女が最後尾の看板を持たされた。

「カナンちゃん、美少女がふたりもいるぞ。懐かしいなあ、カナンちゃんにもこのくらいの時期があったのに……いろいろ成長し過ぎなんじゃないか?」
「先生が成長しなさ過ぎなんです」
ふたりはどうやら、私たちが20代後半になるくらいには長い付き合いらしい。ということは、小柄な方はいったい何歳なんだ? 20代? とてもそうには見えないけれど。
「わざわざ成長を止めることもなかったのに、不便じゃないですか?」
魔道士になると、そういうことも出来るのか。ファウストに目を向けると、ぷるぷると首を横に振っている。どうやら誰でも出来るようなことではないらしい。
だとしたら、そんな高度な魔法――魔法なのかどうかもわからないけど、とりあえず高度な魔法の類によるものとしておく――そんな高度な技を、一体どういう理由で行使しているのか。なにか深い事情でもあるのだろうか。

「便利だよ。鉄道も学生料金で乗れるし、昼間からぐうたらしてても白い目で見られないのだよ」
思った以上にしょうもない理由だった。
「そもそも先生は普段外に出ないじゃないですか」
「たまに旅をしたくなるものなのだよ。カナンちゃんにはまだわからないかもしれないけど、ボクはカナンちゃんよりだいぶババアだからな。ババアの趣味は盆栽か日向ぼっこか気まぐれ旅行と相場が決まっているだろう」
少女の言葉が本当なら、どうやら相当に年嵩の女らしい。ただの嘘であれば、人前で妄想話を垂れ流す頭のおかしい少女と、それに付き合うかわいそうな境遇の女ということになるけれど。
不思議そうに後ろを振り返ると、小柄な少女とうっかり目が合ってしまう。

「なんだい? ボクの顔に何かついてるか?」
少女は不思議そう返しをするような表情で目をやや細めて、小首を傾げている。
素直に質問をぶつけるべきなのだろうけど、それだと盗み聞きをしていたみたいでどうにも格好が悪い。けれどそもそもの話、はっきり聞こえるような大声で喋っているのはあちらなのだから、そんなことは気にしなくてもいいのか。
頭の中でぐるぐると逡巡していると、少女がなにかを察したような明るい顔をする。

「カナンちゃん、これはアレだよ。きっと一目惚れられたのだよ。仕方ないなあ、ボクは魅力的だからなあ」
いや、全然違うけど。
「いや、全然違うけど」
「違うのかよ」
思わず本音と建前が同じように重なる。露骨にがっかりしてるところ申し訳ないけど、違うのだから仕方ない。色々と気にはなる存在ではあるけれど。
「あんたたち、魔道士なの? さっきの話って本当?」
さっきから人見知っていたファウストが、私の後ろから猫のようにひょいっと顔を覗かせて、代わりに聞きたいことを問いかけてくれる。

「先生」
「いいんじゃないか? 別に隠すことでもないだろ」
少女に促されて、カナンが胸元から斧と盾が重なった紋章の描かれた銀の首飾りを取り出す。斧と盾はタイタラスを示すものだろう。すなわち彼女たちはタイタラスお抱えの魔道士ということになる。
「私たちはタイタラスに出向している魔道士です。こちらは師匠のノア、私は弟子のカナンと申します」
「ボクはこう見えても、それなりの魔道士なのだよ」
ノアも同じ紋章の金の首飾りを掲げて、その立場の高さを示してくる。正直あまり魔道士のことは詳しくないので、銀よりも金が高価だから上だろうな、くらいの印象しかないけど。


「ボクたちはジウスドゥラ大陸からやってきた魔道士だ」
「先生、それは秘密にしておく約束ですよ」
「別に守る必要もないだろ。王族だかなんだか知らないけど、どんな人間でも突き詰めるとたったひとりの個だ。所詮は1対1の人間なんだから、ボクを黙らせられると思ったら大間違いだ」

ジウスドゥラ大陸。王族以外の外洋への渡航を禁止され、外洋航海術そのものが失われて久しいこの大陸で、その名を知っている者がいったい何人いるだろう。少なくとも私もファウストも、一度として聞いたこともない名前だ。
カナンが補足するには、その名の記された文献は数百年前に全て処分されたそうだ。
狼の巣と外世界で呼ばれるこの大陸の遥か南に位置し、蛇の目の箱庭と称される広大な大地がジウスドゥラ大陸。そこからやってきたというのだ。

ノアとカナンはまず王都に赴き、やんごとなき立場の者との謁見を果たし、その魔力の素養でジウスドゥラ大陸と同じ待遇を許可させた。
同じ待遇というのは自由を意味する。誰も自分の邪魔はさせない、家にいるのと同じように振る舞い、依頼を受けるも断るも自分とカナン以外の第三者の介入を許さない、そういうことだ。

この大陸ではそうでもないが、ジウスドゥラ大陸では魔道士は個人とみなされない。魔法は国家の共有財産と法的に見なされ、魔道士は国家財産の管理者に分類される。
魔法の規模や脅威度が人間の埒外にまで到達していれば軍事力に直結するし、その恩恵が万人の富を支えるとなればその立場は各地の領主を優に凌ぐ。
何か頼みごとをするとなれば、役場に陳情し、議会を通して判断を下し、国の承認を得て初めて依頼を認められる。
ノアは普段その窮屈な世界を嫌い、山奥に建てられた館で誰の介入も許さないし、軽々と自分の力を利用させない隠遁生活を送り、気まぐれで人助けをして最低限の生活費を得ているというのだ。


「ボクも暴君じゃないから、飯代くらいは働くけどな」
そして普段の暮らしと同じように、気が向いた時にタイタラスの魔術院で授業をして、滞在中の旅費と生活費を賄っているというわけだ。

「信じがたい話ではあるけど」
「そこは信じていただく以外にありませんね。先生はジウスドゥラ大陸のとある方々の依頼で、この大陸に来たのです。で、今日は魔術院の講義の日だったのですが……」
カナンが溜息を吐きながら、最後尾の看板に寄り掛かっているノアに目を向ける。
「だって、ボクは他人に教えるのが苦手なんだ」
ノアが両手をバタバタと振り回して、弟子に弁明のような動きを繰り返す。

「飽きたから外に出ようと先生が言い出して、折角だから私に良い剣を持たせたいということで、ここに来たわけです」
「なんとカナンちゃんは剣の腕前も中々のものなのだよ。私も師匠として鼻が高いな」
ちなみにあっちの大陸では、魔道士は必ずしも武器術を習得しているわけではないらしい。土地の性質が違うのか、この大陸では精霊や悪魔の干渉力が弱く、現象として形に現しにくいそうだ。
その代わりあちらでは、魔法の力そのものが平均して大きいために制御が難しく、術者への跳ね返りや揺れ戻しも強い。
また魔道士の行使できる力が大きいせいか、機械技術の発展が停滞しがちで文明としては数世代前止まりだという。

「だったら私みたいな機械使いはいないかもね」
「かもしれないな。少なくともボクは見たことがないな」

などと立ち話をしている間に、蛇の尾にいたはずの私たちはいつの間にか蛇の頭になっていた。
つまりこの場にいる誰一人として剣を抜くことは出来なかったわけだ。

「お嬢さん方、自らの血統に自信がおありかな」
作業着姿の男が問うてくる。

「あるわ! 私は天才美少女魔道士ファウスト・グレムナードだもの!」
ファウストが胸を張って言い返す。確かに魔道士の素質自体が希少なものだ。さらに悪魔を召喚して使役する天才ともなれば、特別な血統があっても不思議ではない。
「ウル、見てなさい! 私が天才だって改めて思い知らせてあげるから!」
当初は別に乗り気ではなかったファウストだけど、待っている間に次々と挑戦者が脱落する様子を見て、なにか火がつくものがあったみたいだ。どうせ100ハンパートだし、本人が乗り気なら構わないか。

ファウストが剣の柄に手を添えて、小さな手でぐっと握り、上へと引っ張り上げようとする。
が、剣は僅かに震える仕草すら見せず、ただ黙って岩に突き刺さったままだ。

「はぁ、がっかりだ。天才魔導士だかなんだか知らんが、まあこちらも端から期待しておらんがな。もうひとりのお嬢さん、あんたも試してみるかね?」
作業員姿の男――もしかして彼がダイン・ジャールートだろうか。確かめる必要もないので、とりあえずダイン・ジャールート本人だとしておく――ダイン・ジャールートが、明らかに落胆した様子で私たちに視線を投げかけてくる。
彼の態度にファウストは怒りに震えているけど、悪魔を使って吹き飛ばすのは少し待って欲しい。せっかくだから私も試してみたいから。

「試してみるか」
私の実家、ブランシェット家は300年前に狼の呪いを受けた血筋ではあるが、特段ご都合主義的なご利益のある血統とは思わない。けれど万が一、億が一、もしかしたらそういう可能性も少しだけあるかもしれない。
人は誰しも自分が何者かでありたいものなのだ。私は内心で少しだけ期待をしつつ、剣の柄を両手で握り力を込める。

「お嬢さん、名前は?」
「ウルフリード・ブランシェット」
「ほほう、狼に呪われた狩狼官の末裔か。そういう魔女の家系があると噂には聞いたことがあったが……なるほど、面白い」
魔女の家系ね。確かに歴代の当主はその異名に魔女の名前を冠した者が多い。母は剣の魔女、ばあさんは深雪の魔女と呼ばれていた。私がもしここで聖剣を抜いたら、聖剣の魔女になるに違いない。

両手と腰を同時に上方向へと持ち上げて、大根の収穫のような形で引っ張ってみる。
びくともしない。雑に刺さっているのだから少しくらいは動いてくれてもよさそうなものだけど、剣はまるで自分の意志で岩の中に留まるかのように、わずかな動きすら見せてくれない。
対照的にダイン・ジャールートは、数歳老けたような落胆した様子を全身で見せてくる。首と背を項垂れて、両手を腰に当てて、地面に向かって大きく痰を吐き捨てる。

「魔女と聞いて少しは期待したが、なんだこの胸板まな板小娘は」
おまけに体型の侮辱までしてくるではないか。ここまで言われては、私もすごすごと引っ込むわけにはいかない。
どんな手段を用いてでも、聖剣を抜いてやろうじゃないか。

「アビス、起動!」
私は小さなスコップの形のスプーンほどに収納された狩狼道具に力を注ぎ、私の背丈ほどの大きさの動力機付きの穴掘り機を展開する。
母の弟子が譲り受けた柄の長い剣スコップで、人間の頭部くらいの穴であれば瞬時に掘ることが出来る。

岩に刺さっているからなんだというのだ。だったら周りの岩を掘って、そのまま削り出してしまえばいいじゃないか。

「ちょっと待った! まだカナンちゃんが試してないぞ!」

私を手で制するノアの傍らで、カナンが柄を握り、一瞬だけ力を込めてすぐに諦める。
「あ、駄目ですね。先生、どうぞ」
「ボクが引き抜いても仕方ないだろ。あ、全然駄目だな、これ」
ノアも柄を握って全身の力を振り絞って持ち上げようとしたが、やはり剣は微動だにしないままだ。

やはりここは、どんな手段を用いてでも抜くべきだ。
私は改めて3人の顔を見渡し、周囲も含めてなんとなく頷いたのを確かめて、アビスを地面に突き立てた。



掘り起こされたそれは奇妙な剣であった。
岩に刺さっていると思われていた部分は下に向かって卵型に膨らみ、まるで茄子や林檎に短剣を突き刺したような形状をした金属の塊そのものだった。
それは剣というにはあまりにも太く、丸く、重く、そして非常識すぎた。
それはまさに鉄球だった。

なるほど、道理で今まで誰も抜けなかったわけだ。球体上の聖剣の上に乗って、どれだけ力を込めて引っ張っても動くわけがない。
「おじさん、剣って見たことある?」
私は重たい鉄の塊を引きずりながら、ダイン・ジャールートに嫌味に満ちた言葉を投げつける。

「いや、違う。わしもこんな形とは知らなかったのだ」
ダイン・ジャールートの目がきょろきょろと上下左右に羽虫のように動き回っている。嘘を吐くと目が無意識に上を向くって聞いたことがあるけど、嘘も度を超すと虫のように動くようだ。

「本物の聖剣用意して出直してこい!」

この聖剣は当然偽物だ。
しかし威力に関しては聖剣の名にふさわしいようで、全身の力と遠心力を使って振り回した大雑把な一撃で、遥か彼方へと吹き飛ばしてしまった。


「帰るか。そうだ、タイタラスに行くんだったら、ボクの馬車についでに乗っていくといい。これもなにかの縁だからな」

「あ、うん。ありがとう」


こうして私たちは幌付きの馬車の荷台に寝転がり、新たな同行者と共に、タイタラスまでの道中を夢見心地で一気に駆け抜けたのであった。


ちなみに偽物の聖剣だけど、重すぎるので満場一致で捨てていこうという結論に至ったのは語るまでもない話だ。



今回の回収物
・エクスカリバー(偽)
偽物の聖剣。引っ張っても抜けないように刀身が途中から球体状の鉄塊になっている。非常に重いので捨てた。
途中まで白銀、あとは鉄色。
威力:C 射程:D 速度:E 防御:― 弾数:∞ 追加:疲労


(続く)


(U'ᄌ')U'ᄌ')U'ᄌ')

狩狼官の少女のお話、第20話です。
なんだこの話って読み直して思いましたが、なんだこの話って思ったのでそのまま載せるのです。

ノアとカナンちゃんは、前に書いた短編小説
「竜と葡萄酒と世界の終わり」(ここから読めるよ → 
からのゲストキャラクターです。
この師弟コンビは好きなので、いつかまた出そうと思ってました。数話だけの間ですが、頑張ってもらいたいですね。

では次回もお付き合いくださいませませ。