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小説「彼女は狼の腹を撫でる~第11話・少女と奴隷棒と職業訓練~」

私の住む自由都市ノルシュトロムは大陸5大都市のひとつ。
巨大な運河へと結ばれる水門そのものを都市中枢に置いた町は、それそのものが巨大な貿易港としての側面を覗かせる。事実この町は大陸の海路の中枢地点であり、商人や観光客を含めた多数の人々が訪れる。
それゆえに他の中小規模の町よりも仕事は多く、移住してくる人も同様に多い。

コンニチワーク職業紹介所は、そんなノルシュトロムに暮らす労働者たちの窓口のひとつであり、都市の自治組織が運営する公的な就業支援組織だ。
今日も今日とて、仕事を求める人たちが身なりや職歴や性別を問わず、窓のない箱のような建物を出たり入ったりしている。
入ってくる者の顔はおおよそ8割方が『生きていてすみません』という顔をしているし、出ていく者の約半数がテロリスト予備軍のような顔つきに変わっている。

人生は大変だ。
生きていくだけでお金が必要なんて、実はものすごく不便で不自由な気もするけど、お金無しでは生きられない。山奥や海辺で完全自給自足の、隠者のような生活をするなら話は別だけど。

私の名前はウルフリード・ブランシェット。16歳、狩狼官。今時は狩退治なんてする必要もないし、代わりに悪党を捕まえようにもそんなに出番もないので、生活スタイルはほぼほぼ無職。
出来れば喫茶店か映画館で働きたいと思って、今日はコンニチワークまで足を運んでいる。


コンニチワークの建物内は、窓もないせいで基本的に薄暗く、各部屋の中間地点に鉄製の格子とその前後を挟むように机が並べられ、天井からぶら下がった裸電球のオレンジ色の光が、空間の不気味さと陰鬱さを強調している。
職員は一様に瓶底のような分厚い眼鏡と黒いアームカバーを装着し、格子の向こうで山のように積まれた書類を手に取っては、この世の終わりみたいな溜息を漏らし、時折喉に絡んだ痰を床に直に吐き捨てている。

一度も行ったことがないから知らないけど、仮に刑務所とか留置所に入ったら、おおよそこんな光景が広がっていそうだな、そう思わせるには十分な異様な空気が漂っている。

「はい、次の人ぉ……はい、次の人ぉ! 次の人だっつってんだろ、このダボハゼがぁ! ぼけっとしてんじゃねえぞ、間抜け野郎!」
格子の向こうで、職員のひとりが顔も上げずに怒鳴り散らす。机の上に書類に万年筆をコツコツと一定間隔で叩きつけ、少し間を空けて対面に座った中年男に向かって、マグカップに入った飲みかけの水をぶっかける。
時に労働者に人権はないと揶揄されるが、働かざるもの食うべからず、求職者の扱いはそもそも人間ではない。一人前に扱われたければ、まず就職をしろ、そしてこんな場所に来るんじゃない。そんな苛烈なメッセージを言葉ではなく態度で示してくる。

実際はそんな見当違いの気遣いではなく、単に性格が悪いか、世話をする側される側に別れることで、勝手に自分を大きく見積もっているかのどちらかだと思うけど。

「はい、そこの若い女」
私に向かって、年の頃は50代半ば、カバを2足歩行させて人間の衣服を着せて白髪交じりの髪の毛を乗せてみた、そんな風貌の女が手招きしてくる。
その隣の席では、一体何があったらこんなことが起こるのか、求職者の若い痩せた男が髪の毛を鷲掴みにされて、格子をガシャガシャと鳴らしながら頭を叩きつけられている。
もう反対側の隣では、泣きじゃくる求職者の女が、頭の上から湯気立つコーヒーを注がれている。

このことから察するに、単純に逆らったら死だ。
決してまともに取り合ってはいけない。なにを言われても心を凪にして受け流し、さっさと紹介状を書いてもらって帰ろう。

「えーと、あなた、ウルフリード・ブランシェット……女の子らしくない名前ね。ゴミみたいな男の代わりに来ました、なんてことないわよねえ? 結構あるのよ、あなたくらいの若い、脳みそスッカラカンな年頃の子が代わりに来ること。×××の使い方の前に、頭の使い方を学びなさい」
初手から裁判で秒殺されるような物言いをしてくる。
だが偏見の塊に怒ってはいけない、感情的になったらどんな目に遭うかわかったもんじゃない。
隣の席では、コーヒーを注がれていた女が、頭にホットチョコレートをとぐろ巻きで盛られている。

私は黙って市民登録証を見せて、存在しないヒモ男の代理ではないことを証明してみせる。
「あら、本名なの? へぇー、親の顔が見てみたいわね。どーせ汚い顔してるんでしょうけど……あなたもね、今は若いから放っておいても、そんなかわいらしい顔していられるけど、まあ今のうちにせいぜい××××しておきなさい」
自分のことはあまり怒ったりしない、どちらかというと気の長い方だと思うけど、今の感情を一言で言うと、眉間を形が変わるまでぶん殴りたいだ。

「希望の職種は……喫茶店、もしくは映画館? あなたねえ、希望の職種がふたつって人生なめてるの?」
「いや、なめてはないけど」
「敬語使いなさいよ! 敬語!」
目の前で職員が立ち上がり、格子を掴んでガシャガシャと前後に揺らしながら叫ぶ。
格子の間に顔の肉が挟まりそうなほど身を乗り出して、鬼のような形相で私を睨み、敬語が使えない者は人生で余計な苦労を重ねて最終的に地獄に落ちる、なんかそんな内容のことを捲し立てる。
隣の席ではホットチョコレートを乗せられた女が、頭の上に小さなノルシュトロムの都市旗を突き立てられている。
その反対側では、痩せた男が格子の隙間から耳たぶを引っ張られている。

私はつい反射的に目の前の職員の、格子の間から伸ばしてきた指を掴み、本来曲がる向きとは反対方向に引っ張り、パキリポキリと不愉快な音を響かせてしまう。

「なにやってるんだ、貴様ぁ!」
「訓練センター送りだ! お前ら全員、訓練センター送りにしてやる!」

私は思わず掴んでいた指を、先程とは90度違う角度に折り曲げる。急に大声を出すのはよくない。なんていうか、喉を痛めそうだし、脇腹とか攣りそうだし。

だが、今はそんなことを心配している場合ではない。
さっきまで立っていた床が悲鳴のような金属音を響かせながら、速くはない、けれども歩くには躊躇する速度で階下へと落下していった。



コンニチワーク職業訓練センターは、文字通り中々仕事にありつけない求職者や、彼らが言うところの社会から脱落した失業者への職業訓練を施す場所だ。
コンニチワークの真下、つまり地下1階から地下2階がそこにあたり、上階とはまた別種の異様な空気を漂わせている。

地下に降りた求職者たちは職業訓練生として登録され、基本的に名前ではなく番号で呼ばれる。
そして朝から晩まで、地下1階の大部屋の中央に設置された、巨大な回転櫓から突き出した横棒を掴んで押し続ける謎の作業を繰り返し、食事はコップ1杯の水とカチカチに固まった黒いパンのみ。
疲れ果てて脱落したものは電流を流され、それでも起き上がれない者は部屋の脇にある溝に落とされ、階下の蟹のような巨大生物の餌となる。
部屋にふたつあるドアのひとつはトイレで、もうひとつは訓練を終えた者だけが出られる、と聞かされている。

そう語ってくれたじいさんは地下に落とされて7日目。語り終えた後、まさについ先ほど、全てを諦めて地下へと繋がる溝に落ちて、巨大蟹の餌となってしまった。


「訓練生諸君、私が担当官のハロー・ヘイローだ! 諸君らは人間ではない。なぜか? 働いていないからだ。働いていない者は人間にあらず。なぜか? 税金を納めてないからだ。労働に従事し、税金を納める者だけが人間である。すなわち諸君らは人間ではない、人間ではないので人権がない、人権がないので泣くことも笑うことも許されない!」
地下1階の天井のさらに上、1階床面に残された足場から、さっきのカバ女とは打って変わって、貧民街の病気の犬のように痩せた女が見下ろしてくる。

落ちたばかりの私や求職者たちは頭上を見上げ、すでに部屋にいた求職者たちは黙々と棒を押し続けている。

「このコンニチワーク職業訓練センターから出たければ、1秒でも早く正しい労働者となり、社会の一員となることだ!」
ハロー・ヘイローは私たちに向かって、複雑な機構のボウガンを構える。
「おい、そこのお前。右から4番目の中年デブ! この自由都市ノルシュトロムが、どうして大陸5大都市のひとつであるのか、答えてみせろ!」
そして唐突に始まる謎のクイズ大会。

「え? それは水門の上に都市機能があって、町全体が巨大な貿易港に……ぐぁあっ!」
答えが気に入らなかったのか、それとも答えなど最初から存在しないのか、中年男の膝に矢が突き刺さる。
「うあぁ……膝に矢が! 膝に矢がっ!」
それは叫ばれなくてもわかる。

「この自由都市ノルシュトロムが、どうして大陸5大都市のひとつであるのか。それは偏に労働者の質! 能力、知識、技能、質の高い労働者を現場に送り込むことで、社会をよりよく適正に運営させる。それこそが私たちコンニチワークの使命なのだ!」
「いや、労働者をボウガンで撃……ぬあぁっ!」
思わず忠告しようとした善良な求職者の男の膝を、飛んできた矢が射貫く。
どうやら勝手に喋った者は矢で射貫いてもよい、コンニチワーク職業訓練センターはそういう規則らしい。
「ぬぐぅぅ……膝に矢が! 膝に矢がぁ!」

「なんだか思っていたのと違う、給料と労働時間が割りに合ってない、上司に怒鳴られた、そんなことで辞められては豊かな社会など築けるはずもない! 社会奉仕! 労働讃歌! 絶対服従! 自分たちは人間ではない、社会の歯車なのだと自覚することで、そんな甘えた寝言を口にしない24時間働ける労働戦士へと生まれ変わるのだ! ボウガンで撃たれたくらいでなんだ! 社会に出たらもっと苦しいことばかりだぞ!」
ボウガンで撃たれるよりも苦しいことなんて、生きていてもそうそう遭遇しないと思うけど、コンニチワークが提唱する労働はボウガンよりも過酷なようだ。
いや、そんな社会とっとと壊れた方がいいと思うけど。

「では、第2問! そこのお前、左から2番目の細長い女! お前が時間通りに面接に行くと、先方は激怒していた。なぜか?」
「それは、社会人として5分前にはとうちゃ……ぬぐあぁ!」
指名された女の膝に矢が突き刺さる。
「理由などない! 理由など考えるな! 相手が怒っていれば、まず土下座して地面に頭を擦りつけて、次に靴の裏を舐める! 上司がビルの上から飛び降りろと命じれば飛び降りる! お前らに考える脳みそなど不要! それが正しい労働者の姿だ!」
「ああぁ……膝に矢が! 膝に矢がぁ!」
膝に矢が刺さってるのはわかってる。
それよりも問題は他にある。おそらくこれは――

「第3問! そうだな、そこの奴隷棒を回している22番! 上司が残業を命じてきた。お前には前々から決まっていた予定がある、おまけに妻の出産と祖母のお通夜が重なっている、さあ、どうする?」
「えっと、出来る限り残業をして、上司に土下座して帰らせ……ぐぁっ!」
22番と呼ばれた男の膝に矢が突き刺さる。
「違う! まずは謝罪! いいか、残業は我々の業界ではご褒美だ! 自ら申し出て、ただでもいいからやらせてください、そうやって頭を地面に擦りつけ、上司の靴の裏を舐めれる人間が、10年後の成功者なのだ!」
「謝罪します! 謝罪して労働に……うわぁっ!」
22番の残った膝にも矢が突き刺さる。
「無駄口を叩いている暇があったら1秒でも早く働け!」
「ぎゃあぁ……両膝に矢が! 両膝に矢がっ!」

やはりそうだ。正しい答えなど存在しない、それが正解だ。
考えれば考えるなと言い、考えなければ考えろと言う。酷く曖昧な問いかけに、異常に厳しい仕打ち、これは社会に出る前にどんな理不尽にも耐えれるようになれ、という教育だ。もしくは単なる鬱憤晴らしか。

「こんなの無茶苦茶じゃねえか! 俺たちは帰らせてもらう!」

そう吐き捨てて部屋のドアを開けようとした男たちが、バチンと鉄線を切るような音と爆薬のような火花を立てて、体を大きく揺らして地面に転がる。
焼け焦げた肉の臭いを放つ男たちの膝に、次々と矢が突き刺さる。
「部屋から出られないくらいでなんだ! 就職しても家に帰れるなんて甘ったれた考え、今すぐ捨ててしまえ! 寝る時は立ったまま廊下で、もしくは椅子に腰かけて書類の前で! 家に帰って寝たい? 何様のつもりだ? 神にでもなったつもりか?」
「うぐぅ……膝に……矢がっ!」

ドアの向こうには有刺鉄線が張り巡らされていて、触れると電流が流れる電気柵になっている。有刺鉄線の先にはウニのようなトゲトゲの生えた銀色の球体。
改めてハロー・ヘイローを振り返ると、複雑な機構のボウガンにも見覚えがある。矢をセットする溝が複数並んでいて、横方向だけでなく縦方向にも数列、最大で10本ほどの矢を装填できそうだ。


【マンハンター】
弓矢を複数同時に発射する複雑な機構のボウガン。発射角度の調整も出来て、水平方向、垂直方向にも数発、調整次第では全くバラバラな方向に散らすことも出来る。

【ヒステリックグリッデン】
高圧の電流を流す有刺鉄線を展開する棘だらけの球体。罠や防衛として使える他、近距離で有刺鉄線を展開して、奇襲に応用することも可能。


どちらも失踪中の母が実家から持ち出したブランシェット家の狩狼道具だ。
私はノルシュトロムでひとり暮らしをする条件として、母の捜索と狩狼道具の回収を実家のばあさんに頼まれている。
まさか公的な施設に使われているとは思わなかったけど、出会ってしまったからには回収しなければならない。

「いいか、人間未満共! 人間は食べ物がなくても、感動することで生きていける。そして純粋な感動は、労働の中でしか得られない。お前らは感動も得た上に、さらにお金まで得ようとしているのだ。相手を幸せにし、相手から感謝され、そこに感動を覚える。働けることを光栄に思え!」
ハロー・ヘイローは悦に入りながら演説を続けている。

奴は1階の床面に立っている。地下1階は回転櫓を回す空間も含めるとかなり広く、端の8分の1ほどの範囲が吹き抜けになっている。
出口に向かうドアの向こうには有刺鉄線が張り巡らされ、解除しようにも吹き抜け部分にあるから矢に対して全身を晒すことになる。
まさかこんなことになると思ってないから、手持ちの道具は狩狼官の基本装備マスティフ――軽量の盾と一体化した至近距離で噛みつく牙状の武器。先日ばあさんに改造されて3メートルほど伸びる鎖付きのフックを内蔵し、犬よりも大頭な蛇に近い形状になった――手首に腕輪として収納しているマスティフⅡ型オルトロス、それだけだ。
矢との射程距離の差を埋めるような武器はないし、盾も小型で全身を防ぐには心許無い。

それに、さっきから執拗に膝を射抜く奴の技術。正直、職業訓練センターの職員をさせておくには勿体ない腕前だ。
あんなのが町の治安維持組織の警察隊とか自警団にいても困るけど。

「お前らは奴隷だ! 目の前のお客様の、私たちの暮らしを支える社会の、そしてこの世界そのものの! お前らのような無知蒙昧な無能な人間でも、社会を支えることが出来るのだ!」
そんな奴は、引き続き演説を続けている。それにしてもよく喋るし、意味もなく矢で膝を射抜き続けている。
「うわぁっ、膝に矢が!」
「ぎゃああ、膝に矢が!」
「ぎえぇぇ、膝に矢が!」

せめて奴の真下、足場の死角に潜り込めたらと思うけど、仮に真下から垂直に跳んでも、私の身長と3メートルのフックを使って届くか微妙な高さ、しかもぶら下がった瞬間に矢で狙われてしまう。奇襲は現実的ではない。
かといって回転櫓を回し続けても、無駄に時間と体力を――

私は回転櫓を再び眺める。櫓は天井まで伸びていて、横棒も地面から120センチほどの高さに設置されている。
仮に横棒の上に乗って高さを稼げば、フックの尖端を奴の足に引っ掛けて落とすことも出来る。奴の位置、タイミング、様々な条件が噛み合ってくれればだけど。

しかしやってみる価値はある。
そしてやってみる価値があるということは、他にこれといった選択肢がないということだ。

「病気? 怪我? だからどうした? 命があるなら働け! 人間はぁ、働いて働いて働き倒して、気絶して冷水をぶっかけられて目を覚まして、もっと働いて、もっともっと働いて、そこでようやく一人前の労働者になれるのだ!」
幸いにも奴は演説と無駄な膝撃ちに夢中で、視線が完全に私から外れている。
その隙を突いて静かに奥へ奥へと後ろ向きに退き、奴隷棒を回す訓練生たちの輪に混じる。
そのまま回転櫓をよじ登り、展開したマスティフの牙を突き立てて、ちょうど死角になる位置に潜む。

普通はそんな目立つ行動をしたら騒ぎになるものだけど、訓練生たちは思考能力を奪われる程に調教されている。奴は求職者を墓穴に放り込んでいるつもりが、自らの墓穴を掘り続けていたのだ。
回転櫓の側面を掴みながら進み、横棒の上に乗って、足場の陰を斜め上へと跳んだ。

相手の位置は確認してる。
斜め方向、跳躍の頂点からわずかに上向き、そこに鎖付きのフックを放り込むように投げつけ、確かな手応えと共に引き戻す。

足場と床の中空で、落下するハロー・ヘイローと目が合った。
なにがなんだかわからない、そんな顔をしたまま床に落下し、着地の衝撃で腕が奇妙な形に圧し曲がる。
断末魔のような叫び声をあげる奴に、これまで虐げられ続けた訓練生たちが、人間らしい感情を取り戻して群がっていく。
人間らしい感情、そう理不尽に対する怒りだ。

「お前ら、私を助けろ! 助けた者は今すぐ社会に解き放ってやる! おい、聞いているのか!」
奴の始末は訓練生たちに任せて、床に転がるボウガンを回収し、有刺鉄線の先の球体に狙いを定めて射貫く。電流も流れる元を断ってしまえば、恐れることはない。

「待て! 就職率を高めるためだったんだ! 私も上司に命じられてぶへぇ!」
訓練生の蹴りが危険な角度で入ったあたりで、扉の向こうの有刺鉄線は球体へと収納される。どうやら球体を突く、壊すなどの衝撃を与えると、自動的に鉄線を巻き取る仕組みのようだ。

「助けて! 紹介状なら書いてやるから! 膝を刺さないで!」

私は訓練生たちの隙間から、奴のばら撒いた紹介状を1枚拾い、映画館の名前と求人希望者の欄にウルフリード・ブランシェットと記し、にやりと笑みを浮かべて厳しい担当官に無言の別れを告げた。



「ウルフリード・ブランシェット、16歳です。面接に来ました!」

「ああ、うん。勝手に来てくれたところ悪いけど、別に募集してないんだよね」


私は映画館の前で小首を傾げ、そのまますっかり失った労働意欲をどこかに置き忘れたまま、複数の果実を絞ったジュースと炒って爆裂させたトウモロコシの粒を抱えて、よりにもよって失業に嘆く哀れな女がジャガイモひとつ買うのに悩み続けるドキュメンタリーという、最大級の大外れ映画を選んでしまったのだった。


ちなみにコンニチワークの連中だけど、現在も刑務所の中で労働の尊さを説いているらしい。特に改めて語るまでもない話だ。



今回の回収物
・マンハンター
弓矢を複数同時発射するボウガン。発射角度の調整も可能。緑色。
威力:D 射程:A 速度:C 防御:― 弾数:15 追加:―

・ヒステリックグリッデン
高圧の電流を流す有刺鉄線を展開する棘だらけの球体。銀色。
グリッデンは有刺鉄線の開発者の名前。
威力:E 射程:C 速度:E 防御:― 弾数:8 追加:スタン


(続く)


(U'ᄌ')U'ᄌ')U'ᄌ')

狩狼官の少女のお話、第11話です。
前回総集編だったんだから、新展開とかしなさいよってところですが、特に新展開も転職もしませんでした。
職安は怖いところです。

これはマジノンフィクションですが、前に職安に行った時に高齢のおばあさんが年下の職員にこんこんと怒られていて、その辺りが話のもとになっています。だいぶ大げさにしてますけど。

そろそろ人類は無から金塊を生み出す技術を開発すべきですね。