拡散を望む患者のブログが、根拠のない療法に導いてしまう

ブロリコが措置命令を受けました

少し前には、

がん細胞自滅をうたって販売していた

フコイダンの販売業者が逮捕されました。

フコイダンは、夫がスキルス胃がんステージⅣを告げれられた直後

身内を始め、何人かの方から勧められたものです。

フコイダン

寄せられた複数の情報には、共通している内容がありました。

誰もが名前を知る某国立大学の教授の名前が必ず記されており

他にも、勧める医師が名前を連ねていることです。


私は、夫の診断を受けた病院から、『もし、万が一、抗がん剤が効いたら、外科手術ができるかもしれない』と言われました。

それが、今なら、私たちを絶望させないための労りであったことはわかりますが、私は、その言葉に

夫の命への希望を託したのです。

フコイダンには、1カ月10万円近い費用がかかりました。

身内が購入して持参し、さらに

お金が理由でできないのなら、お金は貸す

とも言われました。

その後、次々と、そのような

『免疫力をあげ、がん細胞を自分の身体がやっつけていく』

という触れ込みのものが、いろいろと届きました。

中には、個別に医療相談をする医師に

特別に会わせてあげる 

というものもあり、私は、何人かの医師にも会っています。

食事療法も、夫ががん告知を受けた頃は

多くのメディアで取り上げられていましたから

がん患者家族は、きっと、多くの方が

「あの医師だな」と思い浮かぶと思います。

何が効くかはわからないのだから

とにかく全部やらなくちゃと思ってしまった私は

だぶん、月に30万円以上のお金を、医療費の他に使いました。

命はお金には変えられない。

そう思って、後先考えず、自分の退職金をつぎ込みました。


今回のブロッコリー由来のサプリメントにも、多くの経験者がいると思います。

なぜ、そこに手を出してしまうのか

それは、

ブログで、自分の体験を書いている患者家族が

数多くいるからです。


私たちが、スキルス胃がんの情報を必死で探した時に

自分たちが取り入れやすいことが書いてあるのが

体験者のブログでした。

特に、その人が体調良く過ごしていたり

重いステージだったのに、今はこんなに元気であるという内容だと

その人が何をしたのかが、知りたくて、やりたくなります。


特にステージⅣからの発信は、多くのフォロワーを生みます。

私も夫も、日常の中で自分の気持ちを吐き出す場所がなく

日記のようにブログに気持ちを書いていました。

社会から切り離されたように感じていた状況では

唯一の居場所のようになっていました。

そして、同じ病気の人を必死で探し、

その方のブログが止まっていることから察することに落ち込み、

進行形で投稿している人のブログは欠かさず

追い続けました。


今も、多くの方が、がんに限らず、苦しいことに出会った時に

ブログやSNSに同じ状況の人を求めているのだと思います。


私はそのことは、心の上では、必要なことなのだと思っています。

ただ、実際の体験は、現実味を帯びてしまいます。

過度な希望をうんでしまう危険があります。

ある人の臨床体験に過ぎず、有効性も安全性も不確かなのだと

いうことには、思いが及ばないのです。

一般的には、どのように治療が確立されていくのかを知る人は

少ないと思います。

臨床試験のこともよくわかりません。

ダイエット、アレルギーなどの臨床試験に参加しませんかという

新聞の折り込みで、これが研究に参加することなのかなと思い

無料で治療できるならやってみようかなという認識くらいだと思います。


今、私が、科学を知ることが大切だと発信している理由は

決して、科学を信じろと言っているのではないのです。

個人の体験は、その人の体験でしかないということ。

治療のガイドラインは、時間をかけ、安全性、有効性を示されたもの。

その両方を知り、自分はどう選択していくか

冷静になれないでいるからこそ、冷静な情報も知り、

その上で選択することしか、後悔を減らす方法はないのではと思うに至り

発信しようと思っています。


同時に願っているは

現状での科学の限界をも知ることです

昨年、本庶佑教授が免疫チェックポイント阻害剤の研究で

ノーベル賞を受賞されたとき、私にも、びっくりするくらいの

マスメディアからの電話が鳴り続けました。

異口同音に言われたのが

「オプジーボが効いた人を紹介してください」

ということ。

スキルス胃がんでオプジーボが効いた人を、私は残念ながら知りません。

夫は、まさに、ある免疫チェックポイント阻害剤の治験

第1相で日本人初投与を受けています。

その間、医師、CRCという治験コーディネーターの方と

メリット、デメリットについても何回も説明を受け

夫の状態を傍らで見てきたので

これは、大きな一歩ではあるけれど

過剰な期待をさせる段階ではないと思っていました

それを告げた時に言われたのが

「あなたはこの世紀の祝賀ムードに水を差すのか」

ということでした。

水を差すのではなく、本当のことを知らないと、過度に期待し

オプジーボにさえたどり着けば助かるのだと思わせてしまう。

そのことが、効果の確かでない民間のクリニックに繋げてしまう。

その危険を知っているから、どうか、冷静に、バイアスをかけずに

報道してほしいと願ったのです。


【自分のブログを拡散して応援してほしいという患者たち】

ここからが、私が今、一番、危険に思っていることです

発信をする患者、家族は、私が始めた5年前よりも

ずっと増えています。

その中で、

【拡散が応援になります】

【ランキングがあがることが力になります】

という書き込みをよく目にするようになりました。


ステージが重い人が明るく、前向きに発信していることは

読んでいる人の救いになるのですが

自分は誰かの力になっている

ということを、発信の当事者が生きる糧にしていることが

少なくないのだと思います。

経験した私が読むと、これは厳しい状況だなと思う内容でも

明るく発信し、そのことに

『あなたが力をくれている』というコメントがついていきます。

そうなると、その人も、ますます望まれる姿を発信していきます。


『願っていたら、医師も見捨てた腹膜播種が消えた』とか

『自分にはがんはないのだと思うと消えていく』

という発言に、すがる人が出てきます。

そこに希望を見出した多くの方が、実際にその方に会いに行き

握手をしてもらったとか

エネルギーを分けてもらったなどの発信をしています。

『がんは消えると思えば、消える』という発信は

藁をもすがり、がん封じに足を運ぶような気持ちには

とても魅力的にうつるのです。

このような発信は、

その人の自己承認を満たすものに思えます。

命に、治療に関する発信は、その人の承認欲求を満たすだけに留まらず

大きな影響を生んでしまいます。

なぜ、拡散を望むのか

なぜ、ランキング入りを願うのか。

それは、自分が経験したくなかったことを

形を変えて、受け入れていく力にするためなのではないかと感じています。



やがて、その人にも厳しい状況がやってきます。

その時に、信じていた対象が消えてしまわないように

応援していた人たちはすることは

その人のブログを拡散し、ランキング入りを応援することです

それが、自分に出来ることだと思う善意です。

ブログには、最初に書いたようなサプリメントの記載もあります。

結果、その部分だけが切り取られて広がってしまうがことがあるのです。


がん患者家族には、心の片隅に

自分の生活が病に繋がってしまったのではないかという後悔があり

自分で出来ることはなんでもしたいし

まして、口から入るものが野菜などの天然由来のものであれば

劇薬である抗がん剤より

優しく、易しく

感じられてしまうところがあります。

自分の中の免疫力が高まり、自分の身体ががん細胞を滅していくのなら

治るだけでなく、再発もしないとも思えます。


そこに、このようなサプリメントが受け入れられやすい理由があるのです。


規制をしていくことは大切です。

でも、人には心があります。

藁をもすがる人が愚かだと切り捨てないでほしいです。

騙された人がばかなのだと切り捨てないでほしいのです。


理解をすることしかない。

私が、覚悟をして発信しようと思ったのは

そんな心理に陥り、ぬぐえない後悔をしているからです。

あす、11月3日に、渋谷で

『がん体験者が、あの時に知りたかったこと』を発信する

グリーンルーペプロジェクト2019

を開催します。

今は無関係と思っている人にこそ、届いてほしい。

知ってほしい。

そんな気持ちで挑戦します。

私たちが出来ることを、これからも考えていこうと思っています。


全国胃がんキャラバン、多くの人にがん情報を届けるグリーンルーペアクションに挑戦しています。藁をもすがるからこそ、根拠のある情報が必要なのだと思い、頑張っています。