事実とは異なることを発信する怖さ

患者さんのブログ、配信が日々増えていくと感じていますが、中には、事実を『盛る』『偽る』人がいると知り唖然としました。
アクセス数、高評価などの「自分への関心」を気にし始めたことで起きてしまうことなら、あまりにも残念なことです。
「バズる」ことを目的とした発信が、誤解や偏見に繋がり、誰かを傷つけてしまう可能性も危惧します

私が患者会活動の日々で辛かったのは、事実とは異なる、イメージを膨らませた拡散でした
一番こたえたのは『名刺配り芸人』ですね。

命がついえる前に、夫が実現したかったことが、患者会設立とスキルス胃がんに関する冊子の作成。
『知ることが出来たことが、自分の命とともに消えないように』という夫の想いを実現させたくて
私も必死でした。
変えることができない現実の厳しさを受け止めるには、自分に何ができるかを考え、動くしかなかったとも言えます

希望の会がスタートした年、がん対策基本法改正に際し、難治、希少、小児がん対策への患者団体の要望活動がありました。
行動を共にした他の患者会代表の数名が、私に『タイミングを逃さないコンタクト』と『要点を明確に伝える大切さ』を教えてくれました。
そのためには、学び、知識を持つことが必要であると、外出に負担がある夫のことも考慮し、我が家に来て、臨床試験、標準治療などを一から教えてくれた方もいます。
夫は、もともと研究職で、その後、特許の書類作成の仕事をしていました。スキルス胃がんに関する冊子の原稿は、ガイドラインや専門書を読んで、科学的な内容は夫が書きました。
私は、セカンドオピニオン、インフォームドコンセント、家族に関する原稿と、引用したいガイドラインや書籍の図表の許可を得るやり取りを担当しました。

内容への医学的確認が必要でした。
私は、可能な限りセミナー、厚生労働省の会議に足を運びました。医療や制度を学びつつ、タイミングをみて医療者に挨拶をし、いただいた名刺の連絡先に、冊子への想いを送り続けました
必死な私の姿は、ある人からは「高名な人と繋がりたい」欲求だと感じられたのだと思います。
希望の会の活動を取り上げてくれたメディアがあったことも影響したのか
私のことを『名刺配り芸人』と噂している方々がいることを知りました。
『教えてくれる人』がいるから知るわけで、これはSNSだと「拡散」にあたるかなと思っています。
夫の生きる日々の限りを感じていたので、いちいち傷ついて立ち止まるわけにはいかなかった私は自分の感情に鍵をかけました。

ある日、当時の国立がん研究センター理事長が連絡をくださり、面談を設定してくださいました。
大緊張しながら話す夫の話を聴き終わると、理事長がどこかに連絡をし、間もなく部屋に入ってきたのが、当時は研究所所長であった、現国立がん研究センター理事長です。
ここから複数の医療者から原稿内容の医学的確認を得られることとなり、スキルス胃がんの冊子が実現したのです。

冊子の発行を見届けた後、夫は旅立ちました。
発行時から今も、冊子へのお問い合わせが絶えることはありません。
冊子の【もしかしたらスキルス胃がん】という妙なタイトルに夫が込めたのは
『不調を感じている人がスキルス胃がんを知っていたら、もしかしたら…と医療者にたずねることで、早期発見に繋がるかもしれない』という願いでした。

夫の没後も、「コネを使って委員になった」「目立ちたくてメディアに自分を売り込んでいる」など、事実とは異なる噂話もあるようで、SNS上に書かれたこともあります
この数年で成長したのは、自分を傷つけるものとの距離の取り方だなと思っています

誰もが『自分と同じような立場にいる人の力になること』を願い、発信し、寄り添おうとしているのだと思いますが、そこに、『自分の感情や欲求』が加わったことで、事実に色眼鏡をかけた発信は心からやめてほしいと願います

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全国胃がんキャラバン、多くの人にがん情報を届けるグリーンルーペアクションに挑戦しています。藁をもすがるからこそ、根拠のある情報が必要なのだと思い、頑張っています。