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甘い思い出にかわるとき

二度と同じ失敗をやらかすまいと、なんども繰り返し自分に確認する。

日曜日、人生二度目のいちご狩りにいってきた。いちごは大好きだけどいちご狩りには苦い思い出がある。

こどもの頃にいったいちご狩りのコト。いつ頃だったかは定かではない。一回出たら二度と入れないからね!ミルクのお代わりはできなからね!と強く言われ、やたら緊張しながらビニールハウスの中に入った。

目の前に広がるいちごいちごいちご・・・!ワクワクソワソワした。ミルクをたっぷりつけていちごを食べるのが好きだったわたしは、そのあとの配分を考えずに一個、二個、三個と食べていったところでミルクがもうほとんどない。と、同時にお腹がいたくなってきた。トイレにいきたい。

「おかあさん、トイレ・・・」

「えー!もう!あれだけ言ったじゃない!」

と、案の定怒られた。母もこれから食べるぞー!というところだっただろう、今となってはそのとき母が怒ったときのキモチもセリフも痛いほどよくわかる。

我慢ができないかと聞かれたけどできそうなものではなかったから無理無理!と半べそをかく。そうしたら母は大きなため息をひとつついたあと、トイレに連れて行ってくれた。

スッキリして、さぁ仕切り直し!と「もっかい食べに行こうよ!」と無邪気に言ったら「もう入れないわよ」と黒いオーラをまとった母が言う。

え、トイレもだめなの?なんで?いちおう母は聞いてみてくれたらしいがスタッフにダメと言われたようだった。入り口のところで父と妹もそれならもう帰るか、と名残惜しそうに出てきた。

楽しいいちご狩りが、悲しくて苦いいちご狩りになってしまった思い出。それはミルクが足りなかったことなのか、母に怒られたことなのか、トイレも退場とみなされたことなのか、みんなが不完全燃焼でどんより帰ったことなのかはわからない。その時にいちご狩りはもう二度と行くまいと小さいながらに心に決めた。

・・・

あれから30年ちかく経った。こどもがいちご狩りにいきたいと言ったのでいちご狩りに行ってきた。

フラッといけたわけではない。前日からこどもらに水分をとりすぎるなとピリピリ。当日も朝から冷たいものは飲むなだの、行く前にもなんども全員のトイレと体調を確認。

わたしもなんども自分を確認する。大丈夫だよね?と。水分は控え、お腹なんていたくもないのに正露丸を勢いよく飲む。夫はお腹の強いわたしが正露丸飲む姿をみたのは初めてだったようで「どうしたの・・・」と逆に不安がる。わたしは「これで整った」と静かに伝えた。

今回はうまくいく。大丈夫。車の中でなんどもそう唱えながら会場について真っ先にトイレにいった。やっぱり緊張する。いちご狩りってこんなに緊張するものかというくらい緊張する。

入場料を払い、一人無言でビニールハウスの入り口にむかう。

入り口でミルクの入った容器を受け取り、スタッフの方に「時間無制限、ミルクのお代わり自由だからね〜」と優しく声をかけてもらう。よし、これでミルク問題はクリア。

そしてやっぱり目の前にひろがるいちごを見てワクワクソワソワする。あの頃と同じキモチ。

と、同時にお腹もソワソワしてきた。これか。あのとき催したのも、いわゆるうれしょんみたいなかんじだったのかと納得した。ちょっとお腹のかんじが落ち着くまでハウス内をフラフラ。

赤くなるまえのいちごをみて興奮を沈ませる


ハチさんもよう働きます


娘はでかいの専門。ミルク、たっぷりつけてたべようね


さて、そろそろ始動。というところでおなかいっぱい!という声が聞こえてきた。こまる。わたしのいちご狩りはこれからはじまるところなのに!時間は無制限。気にせずたべることにした。

まずは目の前の小さな小さないちごを食べた。大丈夫・・・だよね?大きいいちごにも手を伸ばし、一個、二個、三個とミルクをたっぷりつけて食べる。


わたしのお腹、どうですか。またハウス内をフラフラして様子をうかがう。

・・・大丈夫そう。クリアしたみたい。そこからはあの頃食べられなかった分を取り返すかのごとく食べていく。ちょっとお腹を気にしながら。ミルクもなんどもおかわりした。

しばらく経った時に振り返ってみたらカップも返却し、一生分のいちごは食べたと言わんばかりの顔をした家族が大名行列のごとくただただ無言でついてくる。

それから「おかあさん、これもおおきい!これもまっかだよ!」って自分ペースではないいちごの食べ方が始まってあっという間におなかいっぱいになったし、一生分食べたキモチになった。心から満足してビニールハウスをあとにした。

車中は楽しかったね!美味しかったね!また行きたいね!と、言いながら口の中が甘すぎてみんなでお茶をかぶかぶ飲んだ。いちご狩りは甘い思い出に変わった。

そうしたら嬉しくなって母にいちご狩りに行ってきたと連絡をしてみた。母もあれ以来いちご狩りには行っていない。

もうそろそろいっても大丈夫よね、と母は言った。

そろそろというのは孫の年齢のことなのか、自分のことなのかよくわからなかったけど、母もあの時のいちご狩りが心に引っかかっているのは伝わってくる。

春休みにみんなで行こうよと提案したら、「みんなちゃんとトイレに行っておかなきゃね」と母が言ったのに笑ってしまった。次、いちご狩りを乗り越えるのは母の番。春休みが楽しみだなぁ。おしまい。

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