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すすがないイギリス。

わたしがイギリスで、イギリス人と暮らすようになって驚いたのが、
食器を洗ったあとに、イギリスの人たちはその食器を水ですすがずに、
泡のついたまま水切りラックに置いていたこと。
 
最初は「イギリス人は環境のことを考えて、水を無駄遣いしないために、
最小限のすすぎで抑えようとしているのかしら?」とか、
「洗ったあと、必ずティータオル(日本でいう手ぬぐい、
食器用布巾のようなもの)で食器を拭くからかしら?」(←もちろん、
洗ったあとに水分を拭き取る場合もありますが、実際には、
そのままラックに放っておきっぱなしも多いです)などと、
なんとか、その行動を理解しようと試みたのですが、
どうやら、どちらもあたっておらず......
彼らはただ習慣的にそうしているよう。

「でも、それって、たとえば、
次にカップに紅茶やコーヒーをそそいだら、
すすぎきれていない洗剤成分まで、
一緒に溶け出してくるのでは?」

「お皿に料理を盛りつけても、石けんの味がしそうだし、
なにより、体に悪そう」

疑問はつぎつぎわき起こりますが、
イギリス人に質問しても
「なぜそうしているか」についての正確な答えはない模様。

ただ、こうした「習慣」というものは、
家庭で伝えられる要素が多いこともあるせいか、
親がそうしていたから自分もそうしている……というのが、
大多数の意見でした。

ちなみにわが家では、食器洗いはだいたいが夫の担当です。(イギリスの家庭では、食事を作らなかった人が洗い物をする、というのが一般的。
わたしは料理を作るのは大好きですが、洗い物はできれば避けたい派。なのでこの分業制には大賛成!)

結婚してすぐの頃、夫が泡のついたままの食器を水切りラックに入れているのを見て、言おうかどうかさんざん迷った挙げ句(それが、相手の文化を否定することになったり、相手を傷つけてしまったら困る、と思ってなかなか言い出せなかったのです)、
「どうしてイギリスの人は食器を洗ったあと、
水ですすがないの?」と聞いてみました。

夫はきょとんとした顔で
「どうしてすすがないといけないの?」と
ひとこと。

結局、彼にとっては深い理由があるわけではなく、
ただ習慣としてそうしているだけとのことだったので、
「では、これからは洗ったあとは水ですすいでね。」とお願いしました。
以来、わが家では水でのすすぎが行われています。
 
ところで、お風呂に入ったあともすすがないのがイギリス人……というのも、結構知られていることで、
これは、梨木香歩さんの『春になったら莓を摘みに』の中でも、
登場するお話。

ゲテモノ嫌いのウェスト夫人が悲鳴をあげるのを、愉快そうに笑い、追い打ちをかけるようにイギリス人の皿の洗い方、シャワーの浴び方、なんと文明的でないことかと、日本人たちと一緒になってまたウェスト夫人をからかう。(ちなみにイギリス人は皿を洗っても濯ぐことはない。泡がついたまま拭き取るのである。体を洗うときも同じ) 『春になったら莓を摘みに』梨木香歩(新潮社)

確かに、わたしの知る範囲でも、イギリス人はあわあわのお風呂に入ったあと、体をすすいだりはしないよう。泡のついた体をそのままバスタオルで拭き取り、上からドレッシング・ガウンを羽織って一丁上がりです。

イギリス人が「すすがない」人たちだ、というのは
いろいろな人を見て感じたことですが(もちろん、
イギリス人全員がそうだというわけではありません。多分。)
なぜそうなのか……については、
長年住んでいても、まだ明快な答えを得られていません。

(今日のエッセイは2009年発行のメルマガで発表した記事に加筆・修正を加えたものです。)

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