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第2回「サービス化以前の思いやり」

「障害があっても学びたいことが学べる」ように障害学生をサポートするサービスを立ち上げ、展開している人をゲストに迎え、主力サービスである「要約筆記者派遣」を中心に、新しく事業を立ち上げ、展開していくしんどさや苦悩、嬉しさややりがいをありのままに伝えるようなトークを参加者に提供するイベントをしたことがあります。

ゲストトークを終えた後、参加者数人からゲストに対して質問がありましたが、1つの質問に違和感を覚えました。質問者は、中学生の車椅子ユーザー。彼は「学校の授業で、黒板の文字が見えない。これを解消するサービスはありませんか」と質問しました。僕は頭の中が「?」でいっぱいになりました。

まず、黒板が見えないのであれば、見えない理由を考え、見えない理由を解消するために環境を変えたり、整えたりし、黒板が見えるようにします。これらを行い、学べる環境をつくることで、授業に参加している状態になっていると「はじめて」捉えることができます。

例えば、耳が聞こえない学生は、先生が何を話しているのか分かりません。このバリアを解消する1つの手段が「要約筆記」。要約筆記を使用することで、先生が何を話しているのかを文字として伝わり、授業に参加できることができます。目が見えない学生は、教科書を読むことができません。このバリアを解消する1つの手段が「点字の教科書」。点字の教科書を使用することで、教科書を読むことができ、授業に参加することができます。

例にも挙げた通り、「できない」を「できる」に変える環境をつくり、環境を維持していくのにヒトやモノが必要である場合、サービスやプロダクトが生まれます。しかし、中学生の彼が伝えてくれた質問の内容はサービス化以前の段階です。学校の先生や友達が彼のことを考え、「見えない」をつくってしまっているバリアに向き合い、どのようなことに配慮したらバリアを解消し、黒板の文字が見えることができるかを考え、そのアイディアを実行すれば、彼が困っている「黒板の文字が見えない」を「黒板の文字が見える」に変え、授業に参加することができます。例えば、彼が座る席を前にしたり、見える位置にしたりし、文字が見えるよう配慮したら、バリアはすぐに解消し、彼は問題なく授業に参加することができます。

今回はサービス化以前の思いやりの段階です。サービスにする事象ではなく、少しの思いやりが解消できることです。

今回は「サービス化以前の思いやり」を感じた体験談を紹介します。

数年前、電動車イスに乗る脳性マヒの人と一緒に、日本を代表するフォークシンガー友部正人のライブを観に、東京へ行きました。会場となるライブハウスに「こういう障害があり、電動車イスに乗っているが、入店可能でしょうか」と事前に連絡を入れ、入店可能と確認をしていました。しかし、ライブハウスへ到着してみると、ライブハウスはバリアフル。ライブハウスに入るには、急勾配な数十段の階段を下りなければいけません。エレベーターはない。彼は怒りを通り越したあきれた表情を浮かべながら、事前に入店可能と確認した旨をスタッフに説明しました。

「僕らが持ち上げるから車イスでも入れますよ。だから入店可能と電話で伝えました」とスタッフは返答し、総重量300kgに達する電動車イスに乗った彼をスタッフ6人掛かりで持ち上げ、1段1段ゆっくりと階段を下り、無事にライブハウスに入ることができました。

東京までライブを観に行ったのにライブを見ることができないというピンチを救ってくれたのは、ライブハウススタッフの「サービス化以前の思いやり」でした。

ライブハウスに入ってからも、車イススペースを作ってくれたり、ドリンクを頼んだら「ストローいるよね」と言ってくれたり、「彼にはどういうことに配慮したらいいのか」と想像し、その配慮が必要と決めつけて提供するのではなく、その配慮が必要かどうかを提案してくれました。でも障害があるからといって、普通のサービスが享受できるようにする配慮以外は特別なサービスはなく、特別な客として接するのではなく、あくまでも普通の客として接してくれました。

彼らの意識のなかに福祉の考えが無意識に溶け込んでいました。サービスを受けている側が福祉っぽさを感じないくらい、彼らはごく自然にサービスのなかに福祉を取り入れていました。福祉が自然に溶け込んでいるサービスこそ「サービス化以前の思いやり」ではないでしょうか。

ライブを見るようにするには何をしたらいいのか/黒板が見えるようにするにはどうしたらいいのかを想像し、提案。そして提供。車イスを持ち上げ、階段を降りたからライブを見ることができた/黒板が見える位置に席を移動したから黒板の文字が見ることができた。

障害があるからできないだろうと考えることは、社会が障害をつくっていると置き換えることができます。その考えをぶち壊すのが「サービス化以前の思いやり」。障害があるから「できない」を障害があっても「できる」に変えていくべきで、社会が障害をつくるのではなく、社会が障害をなくす存在に変化していかなければいけません。私たち1人ひとりが「サービス化以前の思いやり」を持つことが、その変化をもたらすきっかけとなるでしょう。

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