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詩集・小瓶の蝙蝠

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どこかの戦争

どこかの戦争

青年がその弾丸を胸に受ける時
彼は愛を感じたであろうか
その弾は敵の故郷の人々の 愛であふれていた

収集された鉄くずに込められた 愛
ゴム製品に込められた 愛
ベーコンの油に込められた 愛
国の為に戦う愛しい人々へ 向けて込められた
ただ単に 純粋な 愛
それらを使って造られた
愛にあふれた弾丸は
同じように人を愛する青年を貫いた
その愛は戦争という名の殺人行為により
脆く 滅びた
それを愛と呼

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鈍い感触の 直感的な愛情

鈍い感触の 直感的な愛情

道化の心の闇の深さは はかり知れない不気味さを併せ持っている
わたしが体中を煮えたぎる血のようにして欲すとき
あなたは幾分か離れた場所に突っ立って 傍観者になる
その心理戦みたいな距離感がいたたまれなく嫌で 嫌で 嫌で
躍起になってそれを抉ってやろうと思う
痛めつければ痛めつけるほど あなたは美しさを増して
心持たぬビスクドールのように 虚ろなまなざしで
わたしを見透かす
わたしをこぼす
わたしを

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雨垂れ

雨垂れ

私はなんと暴力的なやり方で
あなたの愛情を 求めてきたのでしょう

美しい殻の中には 醜い内臓が詰まっています
私はその汚れたあなたの内臓を 愛でたいのです

苦しみのその先にある 楽園なら
少しだけ覗いてみたいと思いました

甘く美しい幻のような苦しみは
尊いあなたの眼差しのように
澄んでいて ぞくぞくします

その深淵のような瞳で 覗き込んで
私の息の根を半分ばかり 潰してはくれないでしょう

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迷路

迷路

うつろに閉じたその瞳の奥は 空っぽ
からっぽの死体は私をそっと抱きしめた
そういう風にあなたは笑う
だから そこに私はいない
存在だけがただ悲しい 曖昧な響きで突き刺した
あなたを欲し もっと知りたいと願うも
その肉体と魂はどこかへ 散歩
もう永遠にあなたを知ることもできないし
互いに迷路に迷い込める人たちに
真摯な嫉妬をおぼえる
私には迷い込む場所もない
ゴールのない 永遠の漂流者
閉鎖され

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循環

循環

実感よりも 瞬間のきらめきの中で
あなたは笑って空を見上げる
心地よい静寂の傍らにある 攻撃的な距離感
寂しさはいつだって 堕落への扉
最近の物事が うるさすぎて 死んだように眠った
繰り返される歴史の中で 忘れ去られたあの子が泣いている
人間の手によって産み出された まやかしの宗教の海
絶対的な讃美歌の嘶き はみ出そうともがけば押し潰される
わたし 不安なんだ
不安過ぎて わたし 狂ってしまいそ

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手が欲しい

手が欲しい

わたしは手が欲しい
この世に中指をたてて
のんきに平和を語るやつらを ピス オフさせる
でっかい手が欲しい

わたしは未だに血を流すことでしか
世界を変えられないこの世の中を
ひっくり返すような 手が欲しい

サハラ砂漠の地獄で息絶える
おんなやこども達が 今夜
安心して眠れるように
ずっとさすってあげれる
あたたかい手が欲しい

誰も越えられない 結局は誰のものでもなかった星

壁を作ろう

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墓標

墓標

優しかった父はどういう顔をして 祖母に金を無心したのだろう
笑顔の絶えなかった祖父はどういう気分で 祖母を殴ったんだろう
鬼の形相で私を叱る母は どんな仕草で男に欲情したのか
雨の日傘もささずに川面に佇む女は どうやって父を虜にしたのだろう
手袋を淑女のように握る祖母は 何を思い子を置きざりに男と逃げたのか
あの日わたしはどこにも存在しなかった
わたし不在の世界ですべてが周り
面白いように混沌とし

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さくら、散る

さくら、散る

きみの事を考えていたんだ
あの日 手紙をくれた きみの事を
意外と達筆で その文面すら優しくて
ほのかに香る まだ見ぬその地の微かな気配を
ぼくはそっと吸い込んだ

きみの事を考えていたんだ
すい星のように現れて
花火のように散っていった きみの事を
名も知らぬ きみの事を
画面越しの きみの事を

ハンドルネームに託された 春への思いは一緒で 寂しく
桜の季節になると 散るまで感傷に浸ってた

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小さな宇宙が終わるとき

小さな宇宙が終わるとき

私にとって 誰かの死は
小さな宇宙が終わるとき
小さな宇宙の終末は 角砂糖が溶けていくように
すうっと消え入るかのよう
そこにあった 星々の輝きは
永久に消滅する
それはまるであらかじめ存在を消された
パラダイスのような
掴めない 想像もできない 奇妙な空間
確かにあったのに 曖昧で 悲しい
小さな宇宙を そっと手に取る
でもそれは想像上の小さな宇宙で
本物ではない
その偶像を 人々は信じ 崇

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不純な溜息

不純な溜息

証拠不十分な期待と蠢き
おまじないのようにそこで呟く
すき?きらい?すき?
きらい
渦巻の中でめまいがするの
そしたらわたし
飛んでしまう
遥か 彼方 世界の端っこの場所に
蹲って自分を抱いて
かわいそうって なみだを流すの
自分が好きなんでしょう?
壊れそうなくらいに
自分がかわいそうだって
認めてみる事が
怖いんでしょう?
砂糖菓子のような
しつこく粘っこい
あなたの愛情は
べたべたで
気味

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愛みたいなもの

愛みたいなもの

合成香料の安っぽい風にのって
彼女はやってきた
3つだけ数えるから消えないで待っていて
寂しかったあの日 昨日の夢の中の曖昧さで
二度と触れられる事の無い 痛みを知った
想像だけで悲しみは表現できると思っていた
でも本当の悲しみは容赦なく 私を打ちのめす
あなたがいない
あなたは もういない
それがどんなに永遠に感じられるか あなたは知らない
あなたは 私の事さえ知らないのに
あなたがいない
愛み

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黄昏は迷路

黄昏は迷路

ケロイドを這う その得体のしれない指先
目の前にいる女が 申し訳程度についた私の傷跡を
そんなに優しい目で見つめるもんだから
私は悲しくて 切なくなった
その女の腕は 茶色く変化してでこぼこで
一種の彫刻のようだった
出来損ないの 斬新な 彫刻作品
あなたの傷は 私には背負いきれない
背負おうなんて思わないで
女はそう言って 優しく包み込む
一緒に来て欲しい
そう囁くと 私は落ちていった

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あいたい

あいたい

そういう脱力感のある女の子によく惹かれた
白い肌の透明感だとか 優しいまなざしの先だとか
そういう自分にない 特徴やしぐさに ときめきを感じた
あれは はつこいだった
そう断言してしまうには曖昧で
わたしは空中分解してしまいそうだ
幼い頃の記憶だけ独り歩きして
時を経て出会ったあなたは もう別人で
わたしは自分の進歩の無さに
恥ずかしさを感じて 脳みそが縮れた
できるなら ふたたびその手に

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未来心中

未来心中

白い靄に包まれて 彼女は帰らなかった
無残に滅びた そのお母さんは あなたのお母さん
ねえ そういう時 どういう風に私を見てた?
そこから反対方向に 歩き出した 私達は
過呼吸の痛みの中で お互いを離したくはないと
必死に 縋りついて 痛みを舐めあって 死を恐れた
お母さんは弱かった あなたも弱かった
でももっと わたしは 弱かった
紐をほどいても あなたは蘇らなかった
冷たくなった あなたの裸体

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