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魔法のアイテムを手に入れた

母親の鏡台の引き出しには魔法のアイテムがそろっていた。小さなコンパクトに収められた様々な色のプレスされた粉はただ眺めているだけでよかった。コンパクト自体がもうすでに魔法のアイテムのようで、それが自分の側にあるだけで特別な存在に感じられた。
母もまた、決まった化粧をする割に使わない化粧品を持っている人であった。ずっと使っている眉墨、ずっと同じ色のアイシャドウ、真っ赤な口紅、それが母だった。ファンデーションも念入りに塗り、髪の毛はアイロンカーラーでくるくるとさせ、身だしなみはきっちりと整える人間であった。小学校高学年になると身だしなみをもっときちんとしなさい、と叱られた。お洒落には結構無頓着であったし、当時はかっこいいが好きだったので、よく男の子の格好をしていた。Jリーグが流行り出したころで、サッカーをやってみたくて仕方なかった。それまで主流だった半ズボンの男の子たちは姿を消して、ハーフパンツの男の子たちが増えてきた。それがかっこよくて、ハーフパンツばかり買ってもらった。勿論かわいい物やきれいなものも好きだったし、好きなものには男女の区別なんて無かった。

そんな頃だったと思う。近所に素敵なお姉さんが引っ越してきたのだ。お姉さんと言っても4つくらいしか年齢は違わないのだけれど、その頃の4つ年上はすごくお姉さんに見えた。たまに見かける彼女はすらりとしており、着ているものは少しロマンチックであって都会的、小物やアクセサリー、鞄に至るまで何故だか洗練されている感じで、私は一種の憧れを抱いた。彼女を見かけるたびに、身に着けている物を観察してノートに書き留めた。そして少しずつお洒落に興味を持っていった。ある日近所の本屋で彼女を見かけたとき何を読んでいるのだろうと覗いてみたら、ファッション雑誌を読んでいた。それからは漫画雑誌をやめて、ファッション誌を買ってもらうようになった。ファッション誌には魔法のアイテムがあふれていた。あのお姉さんもこういう本を見て魔法のアイテムを手に入れているのだなと解釈し、私は自分なりにお洒落の道を切り開いていった。

大分の片田舎である。当時は郊外型モールなんて影も形もなく、服を買うのは近所のスーパーにある服売り場や、小さな量販店だった。おしゃれな物は”街”に行かなければ売っていない。当時”街”にはパルコとトキハ、ダイエーがあり、その後フォーラスが出来た。フォーラスの出現は結構衝撃的で、あれは本当に夢のようであった。タワーレコードやボディショップ、マライカやハチャメチャクラブ、雑誌の中でしかお目にかかれなかった商品たちが手にとれた。少ないお小遣いを貯めて、どれにしようか散々迷って手に入れた小物や洋服は今になっても思い出す事が出来る。当時ダイエーには何でも100円の食堂があり、300円でお腹いっぱい食べれた。私は大抵お好み焼き、クレープ、飲み物かアイスクリームと決まっていた。

トキハでは叔父と叔母が働いていたので会いに行くついでに試食品をつまんで、全フロアを何となく見てまわり、何も買わない事が殆どだった。百貨店の高級化粧品の香りは少し緊張した。その点フォーラスはちょっと砕けた親しみやすい香りだ。当時入り口を入ってすぐの所にボディショップがあった。ボディオイルの香りを全部試して、シャンプーの香りを嗅いで、香水コーナーでも色んな香りを嗅いだ。今でもデューベリーのオイルはお気に入りだし、グレープフルーツのボディーソープとカモミールのシャンプーは空になってもずっと大切にとっておいた。そしてエスニックな雑貨を売っているお店では常に異国の香がたちこめており、ラガハウスやレゲエが流れ、それも新鮮だった。その後地下のタワーレコードへ行き片っ端から試聴する。海外の雑誌も沢山売られており、まさに宝の山だった。音楽にのめりこんだ頃は古レコード屋などにも行き物色した。パルコではフリーペーパーのゴメスをもらい、ブックセンターで立ち読みをした。たまに古本市や古レコード市のような催し物があり、ボウイのドーナツ盤やシシリー・M・パーカーの絵本を手に入れた。

高校を卒業し、私は”街”にある美容室で働き始めたので、キラキラが身近になった。仕事が早く終わると先輩や同僚に連れられおしゃれな店を物色した。様々な個人経営の居酒屋や飲み屋、ライブハウスなんかも教わって、ちょっと違った世界を知る事が出来た。私はたぶん根っからの貧乏性なので同僚や先輩が大量にブランド品を買うのをひやひやしながら見つめていた。私はどうしても欲しい物があると散々悩んだ挙句に買う、という風だった。だから思い入れが強いせいか、ワンシーズンだけという着方はせずずっと手元にあった。思い入れも強かったがこだわりも強いので、着たい服が売っていないと自分で作ったりもした。
郊外型モールが進出したせいなのか、今はもうパルコやフォーラスは閉店し、ダイエーは結構前に無くなった。

ちょっと思い出したら止まらなくなったので、長い前置きだったが、今更お気に入りの魔法のアイテムの紹介をしようと思う。
私は化粧は嫌いだが、化粧品は大好きだ。持っているだけでわくわくするし、モチベーションになる。化粧品の中にも好みのアイテムがあって、ファンデーションは嫌いだがルースパウダーは好きだ。口紅はあまり好きではないがリップバームやリップオイル、リップステインは大好きだ。あとグリッターやマイカ等の無駄にキラキラの入ったアイテムも大好物である。アイライナーは命だがマスカラは大嫌いであるし、眉毛の手入れはほとんどしないがチークにはこだわりがある。髪形を変えるのはあまり好きではないが、髪の毛の色を変えるのは頻繁に行っている。ネイルポリッシュを塗るのは嫌いだが、たまにはまってしまいどんどん集まっていくのだが、こだわっている時期は毎日色を買えたりする。

アイライナーは毎日大量に使うのでどうしても安いものを選んでしまうのだが、今のところはelfというブランドのものを三種類使っておる。全部黒だ。前に一度ミッドナイトブルーとかいう色が安売りされていたのだが、あれは大変だ。化粧を落とした後でも肌の上に色が残り二日くらいそのままなのだ。このブランドに限らず紺とか深い青はお勧めしない。目の下のラインにゴールドや青みがかったシルバーを入れることが多い。

最近手に入れた魔法のアイテムは、stilaのグリッタークリームシャドー三色セット。私はアイライナー以外化粧品を使い切るという事が殆ど無い為、この三色セットは色々試せて小さいサイズなのでいいなと思ったのだ。写真に写っているほかのアイテムはセフォラの定期購買ボックスに入っていたサンプルだ。特にcover FXのグリッターがほんの少しですごくキラキラになるので重宝しておる。NARSのはアイシャドウ用のプライマーなんだが、私は一重なのでアイシャドウをほとんど使わない。前にビビッドなピンク・黄色・緑なんかの三色を目に乗せるのが流行ったころ、どうあがいてもそれが映えなかったので泣く泣く諦めアイライナー一筋だ。美容師時代の先輩はそれが映える美しい二重だったのだが、羨ましいと思っておった。Marc・Jacobsのはマスカラだが、私は乾かぬうちに瞬きをするのですぐ皮膚に付き面倒なので全く使わない。マスカラとか、つけまつげとか目の周りが重くなる(重量的に)アイテムは疲れるのでめったに使わない。カラーアイシャドウはブレンディングとか難しいので嫌いだが、グリッターなら乗せて伸ばすだけとかなので失敗とかない。そういう面では一重の私にも映えるアイテムなので魔法のアイテムだ。

私は一重を悲観などしていない。むしろ大好きだ。母は整形するならお金を出してあげるわよ、何て言ったけれど当時沢山のモデルさんが切れ長の美しい一重で世界中を駆けまわり始めていたので、これでいいんだ、素敵なポイントじゃないかと思っていた。それに加え美容師の先輩からアイライナー映えする目を褒められたりしたので、ポジティブになれた。余談なんだが私の本名は”まみ”で、漢字では”真実”と書く。美しいではなく実るだ。母が出てきた私があまりにも不細工だったので、美しいと付けるのは気の毒だと思い実るにしたそうだ。ひでーな。まあ、私も美しいとか名前に無くてよかった、実るで良かったと思うが。そういえば森鴎外が子供たちに外国人のような斬新な名前を付けておったが、うちの父もエミリだとかジュリを候補に挙げていたらしく、そっちでなく本当に良かった。名前が違っていたら、人生もやはり少し違うものになっていたのであろうか?幼稚園の頃同姓同名の子がいて、同じ名前だねと一度話したきりだったが、あの子は一体どんな人生を歩んでいるのであろうか?

上の二つのアイテムは結構使えるアイテムで重宝しておる。左側のアイテムは顔の上でコロコロすると産毛を取ってくれる原始的なアイテムで、慣れるまで痛すぎるが慣れてしまえば病みつきになる。産毛級の細い毛しかとってくれないので、足や腕のムダ毛には使えないが顔そりをするのが面倒な人やカミソリ負けする人にはお勧めだ。右のアイテムはフェイスブラシなんだが、触り心地が良くお気に入りだ。チークを塗るときに使っている。

チークは結構好きで、若い頃はオカメインコみたいに塗ってカワイイ!とかやっておったが最近はうっすら付ける程度だ。でもかわいい色とかを見ると同じような色なのに何個も買ってしまい、溜まっていく一方だ。写真右端のカバーガールのチークは何と高校生の頃初めて買った物なんだが使いきれていないのと、留学中の思い出なので捨てれずにとってしまっておる。NARSのチークはULTAという化粧品量販店の誕生日プレゼントだった。すごくかわいいピンクだ。最近気になっているのはクリームチークやステイン。母の持っていたシャネルのチークが素敵なローズ色で少しだけマイカか何かのキラキラが入っており、香りも他の化粧品と違いとても良かったのを憶えている。

定期購買ボックスをしていると使わないものがどんどん溜まっていき、そろそろやめようかなと思っているが小さなサイズの口紅がすごくかわいいので躊躇してしまう。若い頃はコーラルピンクの口紅だとか好きだったんだが、年を取るにつれて肌の色や唇の色がくすみピンクや明るい色の口紅が映えず悩んでいたのだが、美白用品に手を出し始め肌の色がワントーン上がったというか透明感が出てきたので、そんなに気にならなくなった。唇の手入れもこまめにしているとくすみがなくなるので明るい色の口紅も映えるのだ。しかし私はグロスとか口紅のすぐ取れるのが嫌いなので、リップクリームやリップステインが好きなんだが。
最近気になるのはオレンジ色。オレンジ色や柿色の口紅が気になり色々物色しているところだ。
サンプルでもらったUrban DecayのHI-FI Shineというリップグロス、ミントが入っておりスースーして良い。マットの口紅やグロスはあまり好きではないが、口紅を少しだけ乗せ伸ばし、リップクリームを塗る、という事はよくやる。ゴスメイクゴリゴリにはまっておった頃は黒やプラムカラーの口紅をよく使っておったがあれは肌が明るく見えるし歯も白く見えるので結構お勧めだ。しかし歯につくと目立つので、それが恐ろしいのでもあるが。

ゴールドの入ったリップカラーも最近少しだが使ったりしておる。イギリス人のマダムたちが年齢に関わらず自分の好きなものを着、好きなメイクアップをし、自分の思うように生きているのが素敵だなあと思う。おしゃれとは結局誰の為でもなく、自分の為にやるもんだな、なんて思う。決まりなんてない、無限の可能性だけはある。誰も押し潰されてはいけない。

香りも相変わらず色々嗅いでは違う、これじゃない、とピンとくるものが殆どないのだが、これはずっと着けたいという香りが出てきたのだ。Miu Miuのパフュームなんだが配合されておるすずらんの香りとアキガラウッドが何とも言えず、爽やかで一生嗅いでいたい香りなのだ。アキガラウッドはヒノキのような香りでかつ胡椒のようなピリッとさがある。甘くなくすっきりとした軽い香りなので、媚びないし酔わない。毎日のように嗅いでおる。出かける時は腹の上に控えめにワンプッシュ。他にも三種類ほどあるが全てにアキガラウッドが配合されておる。しかし私はこのオリジナルの青いボトルの香りが一番好きなのだ。(新作はまだ嗅いでおらんが)

気になっておったJo・Maloneの香りも運よくサンプルを二種類貰え嗅いでみたのだが、期待しておったラズベリーベイが思いっきりマリン系の香りだったのでショックだった。もう一つのレザー何とかもあまりぱっとせず、他の種類も嗅いでみたいのだが近くに売っておる店がない。トップノートはすごくいいのだが、ミドルノートやボトムがくさくてがっかりする香りが最近多くて、試着は大切だな、衝動買いはいけないな、なんて身に染みる。

季節が変わり始めてちょっとおしゃれに関心が戻る時期。自分の好きを最大限生かし、自信をもって魔法アイテムを駆使すべきだ。

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