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「寛容の精神が醸成される社会へ」 立花高等学校 齋藤眞人校長

福岡市東区にある不登校生徒の自立を支援する学校法人立花学園 立花高等学校。「できないことを嘆くより、できていることを認め合う」というモットーを大切に、学校と生徒たちの新しい可能性を広げ、講演でもご活躍中の齋藤眞人校長先生へお話を伺いました。

齋藤眞人さんプロフィール
出身地:宮崎県
活動地域:福岡市を中心に九州各地
経歴:昭和 42 年 宮崎県生まれ。平成 2 年 宮崎大学教育部卒業
   平成 3 年 宮崎県内の中学校教諭として勤務
   平成 16 年 学校法人立花学園 立花高等学校に教頭として赴任
   平成 19 年 同校 校長に就任 

不登校自立支援の教育方針が注目を集めるに従い、 心のよりどころを求める保護者や生徒たちから大きく支持されている。現在多くの自治体や教育関係者等の講演依頼にこたえ「いいんだよ」の共感的理解の大切さを 精力的に説いて回っており、その数は年間100を超える。

現在の職業および活動:学校法人立花学園 立花高等学校 校長
福岡県私学協会副会長。文部科学省「不登校に関する調査研究協力者会議」委員

ー相手の存在を認めることがものすごく大事ー

記者 現在、齋藤先生は学校の外へも精力的に講演活動をされていますが、どんな夢やVISIONをお持ちですか?

齋藤先生(以下、敬称略) すごく矛盾した2つになるんですが、組織の責任者なので夢を語る前の現実は大事にしないといけないと思っています。その上でうちの学校の社会的な意義をどう捉えるか、一言でまとめるとしたら「寛容の精神が醸成される社会」にしていきたいというのがものすごく大きくあります。

記者 具体的に言うとどんなイメージですか?

齋藤 子供に限った話ではないですが、生きとし生きるもの全て、自分たちが今頑張っていることに気付いてほしいと思うんですよ。

 ただ、「頑張る」って人それぞれの基準で変わりますよね。褒めるとか叱るとかはその人の基準で動くので、究極でいくと「認めること」だと思うんですよ。自分の尺度に当てはめて何かを評価するんではなく、そんなのも取っ払って認める。相手の存在を認めることがものすごく大事だと思っています。

記者 齋藤先生は教育の現場を目指す若い人達も育成していきたいとおっしゃられてましたが、どんな教育者を育てていきたいですか?

齋藤 いろんなタイプの生徒のそれぞれの現状を、無条件に受容できる心の広い教員に育ってほしいと思います。それを寛容の精神というのかもしれません。

記者  「寛容の精神が醸成される社会」を目指して、具体的にどんな活動や取り組みをされていますか?

齋藤 直接的には講演が大きいですね。講演を聞いて下さった方が「あの話がよかった」と紹介して下さって繋がっていく。「We are the World」が世界に出た時にメイキングDVDの中で「一人ひとり心を掴んでいくしかない。それだけだ」って語ってるんですが、同じ気持ちです。それが今でもモチベーションになっています。

 でも私は運んでるだけなんですね。生徒たちがどれだけ苦しんで乗り越えてきたか、彼らの過去が誰かの役に立ってるわけです。ある生徒が「一生思い出したくない過去だと思ってたけど、校長ちゃんが話してくれることで誰かの役に立っとるんよね」って言われた一言が大きくて。

 私は話し家じゃないので、生徒と学校で触れ合うことが本当の仕事です。本来の職席を離れて話して周ることは絶対邪道なんです。でもあの生徒の発言とかを思うと話すことも必要だと思えるんですよね。最近は社員教育で一般企業からの依頼も増えています。時代が変わり始めてるなと感じます。

記者 学校でも色々とユニークな取り組みをされていますが、いくつか教えて頂けますか?

齋藤 はい。まず「全日制と単位制」という大変珍しい組み合わせを実施しています。また、学校へ登校することが難しい生徒のために、家庭から学校へのステップの場として、先生方が公民館などに出向いて授業をする「学校外教室」も行なっています。加えて、卒業生のための就労支援の場として、学内カフェを就労継続支援A型の施設として運営し、現在9名の卒業生がここで働いています。

 地域の方々とは「お互い様コミュニティ会議」と称して毎月1回情報交換をします。お互い様というのがいいですね。うちの学校がある地域は高齢者増加率が福岡で2番目の地域ですが、人生経験豊かな方々がたくさんいらっしゃるのでその方々に来て頂き、生徒の力も地域に生かす。
高齢者の方々も生徒たちとの交流を楽しみにされて、以前ならお叱りの言葉を頂いていたような事案でも、今ではお褒めの言葉に変わっています。

ーその子の優しさが生きる、寛容な社会でありたいー

記者 「寛容の精神が醸成される社会」を創りたいと思うようになられた、きっかけや気付きは何かありますか?

齋藤 はい。これはもう明らかにあの瞬間目覚めたというきっかけがあります。ある中学校の男の子が「立花高校のよさこい(踊り)がかっこいいので教えに来てください」とメールをくれたんですね。うれしくて、よさこい部のメンバーを連れて行きました。

 そこで中学校の先生が感動してシュークリームを買ってきて下さって、皆で喜んで食べてたら、うちの2年生の女の子が私の袖口を引っ張って「校長ちゃん、ティッシュ持っとる?このシュークリームを弟に持って帰ってあげるけん」って。
あまりにその様子が愛らしくて、ティッシュと私の分のシュークリームもあげたんです。そしたら一口食べて「おいしいー!私シュークリーム初めて食べたー!」って叫んだんです。
自分も食べたことがないシュークリームを弟に持って帰ってあげようとしたんですね。帰りにその子に「優しいね」って言ったら「でもうち、中学の時に『優しいだけじゃ社会に通用せん』って言われた」と。ショックでした。

 こんな心優しい子に育ってもらうことがみんなの願いのはずなのに、無意識のうちに大人は「それだけじゃ駄目だ」って子供の可能性を潰してしまいますよね。「それだけじゃ駄目だ」と言うとこの子の優しさが生きないじゃないですか。だから「あなた優しいね」って言ってあげられる、その子の優しさが生きる寛容な社会でありたいと思います。

 もちろん厳しい生徒指導の学校があっていいし、そこを選んで伸びる子達があればそれを否定しちゃいけないと思います。ただそれは義務教育に当てはめることではないと思うんです。受けなくちゃいけない教育は子供たちは選べないわけですから。もっと多様な選択肢があっていいと思うんですね。学校教育が狭い気がします。

 「こうあるべき」という中に皆を入れようとすること自体は否定しようとは思いませんが、入りたがらない子や漏れていく子にいくつもオプションがあっていいはずなのにそこを切ってしまう。
「よかよー」っていうのはすごく覚悟のいることです。「何しよるかー」って枠にはめる方が大人は楽ですよ。だからこそ、うちの方針は大人の覚悟が試されている教育だと思います。

 西洋医学と東洋医学の考え方と同じですね。手術してその幹部を排除する考えと、病気は自分の一部として食べ物やいろんなことを工夫して中から治していく考え方と、両方融合できたらいいですね。

記者 なるほど。では、今までの教育と今からの教育の違いは何だと思われますか?

齋藤 選択肢が増えると思います。学校を取り巻く環境も柔らかくなってきてますね。例えば今まで良しとされなかったフリースクールに行くという手段が学校サイドで認められるようになっています。
うちの学校のやっていることは、限界値を広げることだと思っています。「学校はここまでしかやっちゃいかん」と思われていることをぐいぐい広げていくことです。

記者 可能性をどんどん広げていくような学校なんですね。

齋藤 はい。でもそれを「立花だからできるんですよね」という言葉が一番嫌です。立花だからできるんじゃない。自分たちでちゃんと必要性を感じてやろうとしたから起きた変化であって、そういう言い方をし続ける以上、その人達の周りでは何の変化も起きないと思うんですね。

「立花だからできるんですよね」の裏返しは「公立だからできないんですよ」ってことですが「いや、できるったい!」って思います。もちろん現実はあるでしょうけど、遠因の一つであって原因の全てではない。できることをできなくしている。それは甘いと思います。

記者 齋藤先生ご自身はどんな教育を受けて育ちましたか?お母様がすごくほめて育てた方だったんですか?

齋藤 いやぁ人並みに厳しかったですよ。昭和一桁のすごく古いタイプの人だったので。ただ慈しみや慈愛に満ちたものを私に注いでくれたのは間違いないです。この人に大事にされているっていうのは常にわかっていたので、やかましかったですけど励ます思いっていうのは常に伝わっていました。

成績はずっと1と2ばかりで悪かったんですけど、音楽だけは5で。それを両親も先生も一歩間違えば「お前は音楽しかない」となるところをそうではなく「お前には音楽がある」って言ってくれてました。「贅沢言わんでいいぞー。音楽がこれだけ出来たらよかよか」って(笑)
だから最後の最後は自分の意志で頑張ることができました。

記者 それが今の齋藤先生の原点になっていらっしゃるんですね。
これができたら〇できないから×という条件付けではなく、無条件に認めあえる「尊厳」が土台にある社会を創っていこうとされてるんですね。

齋藤 その通りです。綺麗にまとめて頂いてありがとうございます。
出会った方々のおかげで、今、自分がここに辿り着いてそう言えます。

記者 本当にそんな社会を創りたいですね。本日は素晴らしいお話をありがとうございました。

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【編集後記】
インタビューを担当させて頂いた塚崎と澤田です。「寛容の精神が醸成される社会」といっても共有が難しい世界を、一人ひとりの心に届けたいと各地に出向いていらっしゃる齋藤先生の原動力に触れさせて頂きました。
学校では生徒や先生方から慕われ、常に生徒や先生方に声をかけていらっしゃる姿が印象的でした。本当にご多忙の中、お時間をつくって下さりありがとうございました。

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この記事は、リライズ・ニュースマガジン〝美しい時代を創る人達” にも掲載されています。

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