エセンシャル・ビバレッジ・クールメロン、クールチェリー

エセンシャル・ビバレッジ・クールメロン、クールチェリー


 こんにちは、場面耕太郎です。

 迷宮とか魔窟とかと呼ばれる中野区の商業施設、中野ブロードAの奥地に、おれと奥さんのとりふ丸の働く書店ウーララはあります。四階の、番地でいえばいちおう正式な住所「455」なんですけど、「460のA」「460のB」「463のBのハの♪」など、住人が自分の店をかってに間仕切りして又貸しする「番外地」こと分割番地エリアもけっこう近いです。

 そんな奥地のウーララにもありがたいことにマニアックなファンはいて、夫婦ふたりが食べられるくらいには、なんとかやっていけてます。おれに店を任せて宇宙を放浪して久しい店長――那須正義氏、現在はジャスティス那須なんて別名で、ほかの星のめずらしいものを仕入れては売る仕事に夢中らしいです――が、愛される人だったんですよね、いまも熱心に通ってくれるのは那須店長時代からのお客さんたちです。本らしい体裁をしていれば、縁を感じるものならなんでもあつかう店なんですけど、いちおう精神世界系に強いってことが売りです、っていうか売りでした。おれもともとそっちはそれほどでもなくて、お客さん詳しい人ばっかりなんで勉強させてもらってます。番外地にはスピリチュアル系やオカルト・アイテムのショップもいくつかあるみたいで、その手のお客さんの巡回ルートのひとつに、うちも入ってるみたいです。

 公開中の魔法体感映画「ファイナルチャーマーZ・見えないお友だちの逆襲」が人気なのもあって、イメージの力で霊体の友人――自分だけが見ることのできる人間を作る技術のハウツー本や、人工霊体づくりを奥義とする密教についての本なんかが、さいきんはよく出てます。近ぢかこれは来るよ、場面くんしっかり仕入れておくんだよ、と、劇場版ファイナルチャーマーZ制作開始のニュースが流れたときに常連の南西さんがアドバイスしてくれてたのが、現実になりました。おたくの人ってすごいアンテナですよね。

 で、きょうも在庫の山からファイナルチャーマー本、人工霊体やイマジナリーフレンド関連の本を抱えて店に降りていきますと、レジにいたとりふ丸が、店の端末のモニターを見て笑っています。とりふ丸、なんて名前ですけど女の子です。ウルフカットの無口な子です。

「どうしたの」と、モニターをのぞきこむと、例の南西さんからのメッセージが二通来ていました。「南西さん? 注文?」

「スターバックスくれた」と、とりふ丸は謎なことをいいます。

 南西さんからのメッセージはそれぞれとりふ丸宛て、おれ宛ての、 Starbucks eGift なるものでした。きょうはとりふ丸の誕生日です。とりふ丸へのギフトには、「おめでとう。いつも笑顔の接客ありがとう、仕事帰りに一杯、甘いものでも」なんてメッセージが添えられています。おれのほうには、「ついでに場面くんも一杯どうぞ」だって。

 とりふ丸は甘いものが大すきで――といっても、若い女の人はたいていそうでしょうけど、とりふ丸のはちょっとなみはずれています。以前は食事も三食、ケーキやらアイスやらで疲れやすくて虫歯だらけ、おれは気をもんだものでした。まあその歯を治そうとしたのが縁で、いろいろあって結婚できたんで、まあいい……というか、いまとなっては虫歯さまさまというか。あ、もちろんぜんぶ治療しましたよ。

 閉店ご、とりふ丸とおれは生ぬるい真夏の夜のアーケードを抜け、スターバックスに向かいました。とりふ丸はエセンシャル・ビバレッジ・クールメロン、おれはおなじくエセンシャル・ビバレッジのクールチェリーをテイクアウトしました。キラキラした細かな氷をストローでカシャカシャとかきまぜてひと口飲んだとりふ丸は、「しみない。おいしい」といいました。長年虫歯だったんで、しみないことがまずうれしいらしいです。


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あとがき

(あとがきは「ワイルドファンシー・オブ・マロンラテ」と同内容です)

TOKYOWISEさんに、誕生日にまつわる「Birthday Stories」シリーズのショートショート、「ムーンライト・ジンジャー・フォーミュラ」が掲載されました。掲載日の1月18日は、ちょうど東京では大雪が降ってとても寒い一日となり、このお話にもぴったりだなーと、掲載ページを改めて読み返してみたところです。

このシリーズには、登場人物が Starbucks eGift というギフトを贈りあう場面が出てきます。私はそのシーンを書くのがあまりにも愉しくて、勢い余って、雪舟学級の緑と楯で「ワイルドファンシー・オブ・マロンラテ」、とりふ丸と耕太郎で「エセンシャル・ビバレッジ・クールメロン、クールチェリー」も書きました。飲食物の名前を考えるのが大すきなので、もうほんと、寿命が延びる気がするほど面白かったです。

この2作は、スターバックスと本シリーズへの愛をこめた、二次創作だと思ってお読みいただけたらうれしいです。出てくるメニューは、創作上のもので、実際の店舗にはありません。

で、その Starbucks eGift、私も掲載まえに身内やお友だちに実際に贈ってみました。私はtwitterのメッセージ経由で送ったのですけど、手軽で、相手もよろこんでくれてとてもよかった。あまりに手軽なんで、あの人も、あの人も、と際限なく贈りそうになってしまった。また贈りたい!


2016年1月18日現在、スターバックスのない小樽にて 雪舟えま

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