見出し画像

RDRのオリジナルMVに見る、オフィシャルMVとの共存とミームの可能性とは?(オススメMV #131)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の131回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回は、アーティストがリリースしているオフィシャルMVではなく、YouTubeに投稿されているオリジナルMVよりオススメを紹介します。
また、MVの解説の中で、オリジナルMVが抱える2つの課題に対して考察します。(結構マジメな内容になりそうです)

通常MV(MusicVideo)は、その楽曲のアーティストや所属するレーベルあるいはプロダクションがコスト(お金)を掛けて制作しリリースすることがほとんどで、中にはアーティスト自身がMVを制作する場合もありますが、いずれも制作主体は楽曲のアーティストにあります。(アーティストがリリースするMVを、ここでは「オフィシャルMV」と呼びます)
しかし昨今、特殊な機器や高価なソフトが無くても動画制作ができるようになり、それに伴って楽曲のアーティストとは関係のない、いわば一般人がアーティストの楽曲にあわせた映像を制作し、オリジナルMVとしてYouTubeなどに投稿するケースが増えています。

私がこの現象に気付いたのは、コロナ禍の在宅勤務によりYouTubeによるMV視聴がメインとなったタイミングです。
それ以前のMTV等の音楽専門チャンネルでオフィシャルMVを視聴していた時には全く気付いていなかったのですが、それも当たり前で、ほとんどのオリジナルMVは楽曲のアーティストの承諾なく制作しているため音楽専門チャンネルでは放送できず、私が視聴する機会もなかったワケです。

そして、そのコロナ禍のYouTubeによるMV視聴がメインになった際に、素晴らしいオリジナルMVとの出会いがありました。
そのオリジナルMVこそ、今回メインで紹介するオススメMV。
람다람 RAMDARAM&Tim Legendの「Soda City Funk」です。どうぞ!

「エモい」という表現がピッタリの、独自の映像かつ世界観のMVです。
作りが粗い部分もありますが、それが味わいにもなっており、まさしく唯一無二とも言える作品に仕上がっています。

ここでいつもならアーティストの紹介をするのですが、今回の主役はアーティストではなくMV制作者、つまりこのMVを作った方になります。
その方は、「람다람 RAMDARAM」という韓国のイラストレーターでありアニメーターで、通称「RDR」とクレジットに記載されています。

RDRさんとの出会いはこの「Soda City Funk」のMVで、YouTubeでMVを視聴する中でレコメンドで表示された動画のひとつだったのですが、サムネイルの画像を見てクリックしたところ、「な、なんだこのMVは?!」と驚き、慌てて他のMVも視聴しまくったところ、すっかり虜(とりこ)になってしまった...という具合です。

ちなみに、楽曲はティム・レジェンド(Tim Legend)というUSのプロデューサーが2016年にリリースしたものですすが、どことなく懐かしいというか既視感(既聴感?)があり調べたところ、シェリル・リン( Cheryl Lynn)の「Got to Be Real」をがっつりサンプリングしていました。
この「Got to Be Real」は数多くの楽曲にサンプリングされているのですが、洋楽では「そのまんまやん!」という楽曲が多いものの、邦楽ではDREAMS COME TRUEの「決戦は金曜日」などイイ感じにサンプリングしている楽曲が多いように思います。

では、MVの話に参りましょう。
この「Soda City Funk」の楽曲は2016年リリースで、MVのリリースは2019年と3年もずれています。
それもそのはずで、このMVは楽曲のリリースとは全く関係なく、MV制作者のRDRさんがティム・レジェンドの楽曲「Soda City Funk」に映像を付けてMVとしてリリースしたものなのです。
通常のMV(ここでは「オフィシャルMV」と呼びます)は楽曲のアーティスト側が映像作家やディレクターに依頼してMVを制作しますが、このMVはアーティスト側は関係なく、勝手に好きな楽曲を使ってMVを制作してYouTubeなどのSNSに投稿しているワケですね。(独自に作成するMVという意味で、ここでは「オリジナルMV」と呼びます)
お金をもらって作っていないのですが、逆にその楽曲への思い入れや映像制作に関するこだわりを持って作っておられるので、ハマるときはその楽曲にドはまりしたMVが出来上がるのです。
そして、そのドはまりしたオリジナルMVの中のひとつが、RDRさんが作られた「Soda City Funk」となります。

なぜオリジナルMVで良質な作品が生まれているのか?
その理由は上に書いた「その楽曲への思い入れや映像制作への自身のこだわり」ゆえですが、MV制作側が楽曲を選ぶからこそ実現できると言えます。
オフィシャルMVの制作では、MV制作側は楽曲を選ぶことはできず、それゆえ楽曲への特別な思い入れはなく、かつ投入できる工数も有限ですから、オリジナルMVと比較するのは酷(こく)と言えば酷ですね。

となると、良質なオリジナルMVが生まれるのは素晴らしいことのように思いますが、そこには大きな課題があり、それが楽曲の権利問題となります。
アーティストのリリースした楽曲を無断で使用してMVを作り、それをネットに公開するのは権利侵害、つまり違法な行為なのです。
ちなみに、RDRさんは楽曲のアーティストに許可をもらったMVやフリーの楽曲を使ったMVしかネットにアップされていないため、この連載で堂々と紹介させていただけますが、そうでないオリジナルMVはいかに優れた作品であっても残念ながら紹介できません。

優れているものの違法な作品がアップされている現状は、誰も幸せにならないため、早急な改善が必要と考えています。
難しい問題ではありますが、解決策のひとつとしては、YouTubeなどで得られる収益がある場合はその一部を楽曲のアーティストに分配する仕組みを用意し、そのルールを承諾したアーティストから提供された楽曲を使ってオリジナルMVを制作すれば、楽曲のアーティスト、MVの制作者、視聴者の3者が幸せになる構図ができるのではないでしょうか。
アーティスト側が制作するMVと、ネットユーザーが制作するオリジナルMVとが共存し、切磋琢磨する未来を作っていければと切に願っています。

では、次のオススメのオリジナルMVをご覧いただきましょう。
람다람 RAMDARAM&Jack Stauberの「Two time - meme」です。

これまた独特の映像で、繰り返し見てしまうこと確実のMVですね。
やはり粗さが目立つものの、それを補って余りあるオリジナリティが逆に個性として際立たせているという珍しいMVでもあります。

「Two time - meme」は2018年のリリース(というか投稿)なので、上で紹介した「Soda City Funk」の1年前の作品となります。
映像に共通点も多いのですが、「Two time - meme」の映像構成や映像効果を更にブラッシュアップして「Soda City Funk」で使用しているため、後発の「Soda City Funk」のほうが作品自体の品質が良いのは否めません。

本当は上の「Soda City Funk」や、この「Two time - meme」のMV自体についてたくさん語りたいのですが、今回はオリジナルMVについての考察を中心にお送りしたいので、グッと我慢することにします。

オリジナルMVと言いながらも、この「Two time - meme」は実はオリジナルではないのです。
完全なオリジナルのMV(というか動画)はコチラとなります。
ジャック・スタウバーの「Two Time」です。

ジャック・スタウバー(Jack Stauber)はUSのアーティストで、シンガーソングライター兼クリエイターとでも呼ぶしかないようなひとりで何役もこなして作品を制作されるチョット変わったお方となります。
そして、そのジャック・スタウバーが2018年4月にYouTubeに投稿した動画が、完全オリジナルのこの「Two Time」なのです。
楽曲から映像からすべてジャック・スタウバーひとりで制作されているというから本当にマルチな方(古い表現...)ですね。

この「Two Time」は42秒と短いのですが、2分19秒と長尺の楽曲だけバージョンも2018年6月にYouTubeに投稿されているので、コチラも紹介しましょう。

42秒の「Two Time」は楽曲に映像を付けたというよりも、楽曲と映像がセットに制作されているようですが、この2分19秒の動画は楽曲のみのリリースとなり、ここで楽曲として独立した「Two Time」が出来上がるワケです。
上で紹介したRDRさんの「Two time - meme」は、この長尺の楽曲のみのバージョンに映像を付けたものなのですが、タイトルの「Two time」のうしろについている「meme」がポイントです。

この「meme」は「ミーム」と発音するのですが、ネット(主にSNS)の世界で、他の方の発言や映像などを流用するというかパクッて新たに発言したり作品を制作して投稿することを「meme(ミーム)」と呼ぶようです。
明確な定義がなく、そんな感じというか雰囲気で皆さんミームという表現を使っているのが実態のようです。

つまり、RDRさんが制作して投稿された「Two time - meme」は、「Two timeを流用してつくった作品ですよ」という意思表明なのです。
そして、ここからが重要なのですが、「Two time」のミームは多数存在しており、RDRさんの「Two time - meme」はその多数あるミームの中のひとつであり、かつその制作プロセスがポイントなのです。
以下がRDRさんの「Two time - meme」が投稿されるまでのプロセスになります。(YouTubeに投稿されている「Two time」のミームは多数あり、かつ途中で削除された動画も相当数あると思われるため、あくまで現在投稿されている動画をベースにピックアップしたものです)

2018年4月21日:オリジナル動画(42秒)
4月27日:ミーム版動画(42秒)ヒトが真ん中で上下に動く
4月29日:ミーム版動画(42秒)ヒトの左右にマークや拍手
5月12日:ミーム版動画(42秒)ヒトが左右に揺れる+映像エフェクト
6月3日:オリジナル楽曲(2分19秒)
10月11日:ミーム版MV(2分22秒)様々な映像が付加 ※RDR制作

オリジナル動画が投稿された6日後にはミームの動画が投稿されており、その動画に新たな要素が加えられた動画が複数投稿され、いわば完成度の高い動画に進化しています。
そして、6月3日にオリジナルの楽曲が投稿されたのち、今までのmeme動画の要素を踏襲しつつ様々な映像が付加されたオリジナルMVがRDRさんの手によって作成され投稿されたのです。
なお、上に記載した以外にも多数の動画やMVが投稿されており、かつ削除された動画もあると思われるため、実態の把握が難しいのが正直なところです。(RDRさんのオリジナルMVも、一度YouTubeに投稿されたのち削除され、ジャック・スタウバーさんに楽曲使用の承諾を得たあと10月11日に再アップされたもののようです)

つまり、オリジナルの動画やMVを流用してミーム動画やMVを制作するという一次利用に加えて、ミーム動画やMVにオリジナルの要素を付加して更なるミーム動画やMVを制作する...というミームによる動画やMVの進化がおこなわれているのです。
ITの世界では、オープンソースという開発手法があり、企業が商用でソフトウェアを開発するのではなく、有志の方々がいわば趣味の取り組みとしてソフトウェアを開発し、商用のソフトウェアに並ぶ、あるいは超えるソフトウェアを開発するケースがあるのですが、それに似ているとも言えます。
このミーム動画やMVについても、オリジナル動画やMVの著作権をどうするか?という問題があるのですが、現状ではミームを使う人々の間では自分が作った作品をミームとして利用されてもOKの代わりに他の人のミームも使ってよい...という暗黙の了解があるようです。
しかし、これはあくまで暗黙の了解であって法的な根拠はなく、ミームについても何らかのルール策定が必要かと思われます。
決められたルールの中で、クリエイターの方々は腕を振るって作品を作り、視聴者はその作品を観て楽しみ、著作権者は少ないかもしれませんが収益を得るような仕組みが望まれます。
ちょっとマジメすぎる話になってしまいました...

話を最初の「Soda City Funk」に戻しますが、実はこのオリジナルMVはミーム化して拡散しているのです!
しかし、RDRさんの「Soda City Funk」のオリジナルMVは完成度が高く、更に要素を付加した進化したミームMVは(私の調べたところでは)ひとつもなく、そのすべてがパロディーや流用と呼べる内容でした。
とはいえ、その作品の中にはクオリティが高いものもあり、私のお気に入りのミームMVのいくつかを紹介しましょう。

■テーマ:アベンジャーズ エンドゲーム(映画)
投稿者:Benedique
動画タイトル:Soda City Funk - Avengers Endgame
表示タイトル:SODA GAUNTLET FUNK

■テーマ:バットマン(映画)
投稿者:lemonchips
動画タイトル:Soda City Funk - The Batman (2022)
表示タイトル:GOTHAM CITY FUNK

■テーマ:ホームスタック(マンガ)
投稿者:Camyosh
動画タイトル:[S] SODA STUCK FUNK (Homestuck Animation)
表示タイトル:SODA STUCK FUNK

■テーマ:ペルソナ(アニメ)
投稿者:Foozhochii
動画タイトル:Soda City Funk - Persona Parody
表示タイトル:PERSONA CITY FUNK

■テーマ:にじさんじ(ネットコミュニティ)※カテゴリーが難しい...
投稿者:ミコンスキー
動画タイトル:【手描き】Soda City Funk-Nijisanji Edition 【にじさんじ】【トレス】
表示タイトル:SODA NIJI FUNK

どうでしょうか?
RDRさんのオリジナルの「Soda City Funk」のMVを超えはしないものの、クオリティは高く、どのミームMVも楽しんで観ることができます。
(昔のビデオテープを再生したようなノイズや映像の乱れの掛け方にも個性があり、それを比べながら観るだけでもお腹が一杯になります)
ちなみに、数あるミームMVの中でも、一番最後にあるミコンスキーさんのミームMVがお気に入りです。

今回のRDRさんのオリジナルMVとミームMVはいかがでしたでしょうか。
特にRDRさんの「Soda City Funk」のオリジナルMVは必見の名作MVです。未見の方はぜひご覧ください。

ではまた次回に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?