見出し画像

アニメと実写、TikTokとMV、その連携は音楽と映像の可能性を指し示しているのか?(オススメMV #128)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の128回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回は結構難しいテーマでお送りします。
というのも、2つの関係性を2つの楽曲を基に考察していくからです。
1つは実写とアニメの関係性、もう1つはMVとTikTokの関係性です。

TikTokは皆さんご存じ短い動画を投稿し共有するSNSですが、そのTikTokとMVがつながることで良質なMVがリリースされ、かつアニメと実写が連動することで更に優れたMVが制作されるという実例を基に、その2つの関係性を考察してみたいと思います。

まず最初に、イケてるアニメ系MVをご覧ください。
クロマンスの「Wrap Me In Plastic」です。どうぞ!

チャーミングでチョット緩い感じがいい味出しているアニメMVですね。
海外制作ですがジャパニメーションそのものので、違和感なく楽曲とマッチングしているのが不思議でもあり、うれしくもあります。

クロマンス(CHROMANCE)は、ドイツのEDMアーティストというぐらいしか分からず、ネットにもほとんど情報がないため謎な方です。
プロデュース業がメインのようで、ご自身でリリースされている楽曲はそれほど多くなく、代表曲がこの「Wrap Me In Plastic」となります。

「Wrap Me In Plastic」との出会いはMVで、YouTubeでレコメンドされて何気なく観たところドはまりし、いつものようにアーティストや楽曲の源流を遡ったところTikTokで爆発的なヒットとなっていたことが分かりました。
そして、その背景を知ったうえでMVを観てみると様々な気付きがあり、更にMVを深く楽しむことができたのです。

では、詳しくMVを観てみましょう。
まずメインとなっているのが「TikTok」そのもので、TikTokを中心にMVの内容が進んでいきます。
TikTokに様々な服装で投稿する女の子という要素と、その投稿の視聴者であり女の子に好意を寄せる男の子の関係という2軸が基本になっています。
MVがリリースされるまでを時系列に見ていくと、2019年に「Wrap Me In Plastic」がリリースされたと同時にTikTokで流行し、その流行を受け翌年の2020年にこのMVがリリースされています。
そのため、MVでは「Wrap Me In Plastic」の楽曲に乗ってTikTok上で踊る女の子の映像が多用されており、まさしくTikTokの流行をMVに取り込んだ形で製作されています。
このMVのウマいところは、それをアニメで表現し、かつ発信者の女の子と視聴者の男の子の関係を加えて描いたところですね。

以上が、TikTokからMVにうまく展開した事例となりますが、「Wrap Me In Plastic」では実写のMVも存在します。
モモランド(MOMOLAND)という韓国のガールズグループがクロマンスとコラボしたバージョンで、楽曲だけでなくMVもリリースされています。
時間軸としてはアニメMVの更に翌年の2021年リリースで、結構メディアでも取り上げられました。

その実写版のMVがコチラ。
モモランド X クロマンスの「Wrap Me In Plastic」です。

楽曲の良さを更に引き立てる、華やかで楽しいMVですね。
クロマンス本人も出てきているのがアクセントになっています。

モモランド(MOMOLAND)は、2016年に結成された韓国の6人組ガールズグループで、昨年2023年に活動休止されたようです。
実はモモランドとは、この「Wrap Me In Plastic」のMVだけのお付き合いで、しかもそれほど繰り返し視聴していないため、あまりご縁がないというのが正直なところです。

MVの内容は、前出のアニメ版のMVより更にTikTokとの連携が強調されており、それに加えてモモランドのそれぞれのメンバーが前面に出ながら展開されています。
カラフルな色調で華やかで楽しいMVとして仕上がっているのですが、後半になると多少単調さが出てきてしまいます。
モモランドのファンの皆さんであれば、メンバーそれぞれが登場するため変化を感じることができると思うのですが、ファンではない私にとってはあまり変化を感じることができず、その結果、単調さを覚えてしまうのではないかと推測しています。(MVって、本当に難しいですね)

ここで、アニメ版のMVと実写版のMV、それぞれにTikTokとの関係性について見てみると、以下のようになっています。
・楽曲 ⇒ TikTokの流行 ⇒ TikTokを題材としたオリジナルアニメのMV
・楽曲 ⇒ TikTokの流行 ⇒ TikTokを組み込んだガールズグループの実写MV
つまり、TikTokを題材にしているものの、「TikTokを題材にしたよくできたMV」という範疇にとどまっています。

しかし、その枠を大きくぶち破ったMVが存在するのです。
まず、最終形となるMVをご覧ください。
Pháoの「2 Phút Hơn (KAIZ Remix) 」です。

様々なアニメのキャラクターのコスプレをしたキャストが踊り、それを効果的に印象付ける最小公倍数的な映像効果が加えられ、アニメの世界と現実世界が一体となり、たぐいまれなるMVとして完成されています。
こんなMV、なかなかありません!

しかし、MVを観るだけではこのMVの偉大さは理解できません。
このMVの偉大さを理解するには、MVが生まれるまでの経緯を紐解く必要があります。
0)GIFアニメの投稿(オリジナルアニメ ⇒ 二次利用のGIFアニメ)
1)楽曲のリリース
2)MVのリリース(二次利用のGIFアニメ+二次利用アニメ ⇒ アニメMV)
3)TikTokでの爆発的な拡散(二次アニメTikTok ⇒ 実写TikTok)
4)MVのリリース(アニメTikTok+実写TikTok ⇒ 実写+アニメMV)
そして、上のYouTubeのMVは最終形となるMVであり、4)となります。

詳細なMVの解説に入る前に、楽曲とアーティストを紹介しましょう。
この「2 Phút Hơn」は2020年にリリースされた楽曲で、タイトルの意味は「2分以上」というようですが、アーティストのPháoはベトナムの女性で、名前の読み方は「パオ」や「ファオ」ではなく「フエン」た正しいようです。(つまり、フエンさんですね)
「2 Phút Hơn」は、リリースされた直後にネットユーザー(いわるゆ「ネット民」)の皆さんがアニメのキャラクターをベースに動画を作成し、そのアニメベースの動画を有名なTikToker達がコスプレをした投稿がバスったことで、一気に全世界に拡散しました。

詳細な情報がなかなか無いのですが、元々はPháoさんともう1名の方のお二人がオリジナルの「2 Phút Hơn」をネットに上げたのが2020年2月で、今巷(ちまた)で多く聴かれているリミックス版の「2 Phút Hơn (KAIZ Remix)」がリリースされたのが同年11月なのですが、ここから怒涛の進撃というか拡散が始まります。
すぐさまリミックス版をベースにしたアニメMVがネット民によりYouTubeに投稿され評判を呼び、そのアニメMVをTikToker達がコスプレで踊りTikTokで拡散したのが同年の年末から年始にかけて、そしてなんと2021年1月にはSpotifyのワールドチャートにチャートインしたのです!
そして、3月にはSpotifyで最も再生されたベトナムのアーティストの楽曲になったと発表されているので、ベトナムの(失礼ですが)無名のアーティストが1つの楽曲をリリースして4ヶ月で世界的なビッグヒットを飛ばすことになりました。

なぜこの奇跡のような事象が起きたのか?
それは、上の0~3のプロセスを紐解けば分かるのですが、メチャクチャ複雑で、様々な要素が絡み合っています。
詳しく解説しましょう。

本来であれば、楽曲のヒットのきっかけとなった2)のアニメMVをまず皆さんにご覧いただきたいのですが、このアニメMVはYouTubeに様々なバージョンがアップされているものの著作権的にグレーなものばかりで、紹介したくても紹介できないのです。
このアニメMVにはメインとなる登場人物がおり、それが「ダーリン・イン・ザ・フランキス」という日本のアニメの「ゼロツー」というヒロイン役で、彼女が両手を頭の後ろに組んで腰を振りながら踊るというシンプルかつインパクトのある映像がアニメMVの中心となっており、このダンスを「ゼロツーダンス」(ZeroTwoDance)と呼ぶようです。
上のYouTubeのMVで一番最初に登場する赤い服を着た女性がその「ゼロツー」というヒロイン役で、冒頭から50秒のところでその女性が両手を頭の後ろで組んで腰を振って踊るシーンがあり、それが「ゼロツーダンス」となります。
このMVの中でセーラームーンのコスプレをした女性も同様のダンスをしていますが、踊る人物は問わずこの踊りそのものを「ゼロツーダンス」と称していますが、実は最初にこの踊りを踊ったのはゼロツーではなく、他のキャラクターなのです。

そこで時間を楽曲リリース前に遡(さかのぼ)ります。
「2 Phút Hơn」の楽曲がリリースされる6年前の2014年、1つのブッ飛んだアニメがリリースされました。
その名も「ME!ME!ME!」。

タイトルは「めめめ」と呼ぶのですが、ちょっと(いや、だいぶ)エロチックで、グロさもあるものの美しく素晴らしいアニメなのです。
そして、そこに登場する女の子のダンスが「ゼロツーダンス」の原型になっていると推察されます。
ちなみに、「ME!ME!ME!」はリリース当時はネットで公開されていたのですがすぐに非公開になり、別の作品のオマケとしてブルーレイで販売されたもののその価格は何と2万円オーバーという激高で、「うまくやられた!」と思いながらもしぶしぶ購入してしまった思い出があります。
しかし、映画やアニメをほとんど購入しない私が購入するということだけでも、この作品のスゴさを認識いただければと思います。
話がそれたので元に戻しましょう。

この「ME!ME!ME!」のダンスを「ダーリン・イン・ザ・フランキス」のヒロイン「ゼロツー」が踊るGIFアニメをネット民が作ったことが「ゼロツーダンス」の起源でもあり、「2 Phút Hơn」の大ヒットの源流ともなっているのです。(上の「0)GIFアニメの投稿」がここです)

そして、楽曲がリリースされた直後、ネット民が2つのアニメの要素を組み合わせたゼロツーダンスのGIF動画に加えて様々なアニメやゲームのキャラクターを加工して組み合わせて作成したのが、2)のアニメMVなのです。
この2)のアニメMVは、驚くほど多くのバージョンが存在しており、もちろんチープなものもありますが、商業作品としても十分通用しかつクオリティがメチャクチャ高い素晴らしいアニメMVも複数存在しているのです。

ここで話が少し飛ぶのですが、皆さん「MAD動画」ってご存じですか?
「MAD動画」とは、アニメやゲームや楽曲など様々なコンテンツを加工し組み合わせて作る動画で「著作権なんてガン無視だ!」という感じなのですが、まさしく2)のアニメMVはMAD動画の集合体というかMAD動画をMVに昇華させたような作品となっています。
著作権的にはNGですが、作品そのものは素晴らしく、本来は2)のアニメMVも皆さんにぜひご覧いただきたいのですが、本当に残念です。(ネットで検索すれば出てくるのですが...)

そして、そのアニメMVを切り取ってTikTokに投稿したゼロツーダンスを見たTikTokerがコスプレしてTikTokに投稿したところ大バズリした...というのが3)となります。
最後に、それらの集大成として様々なTikTokの投稿にあるコスプレでのダンスを組み合わせつつ、アニメの効果を付加して完成したのが上で紹介した4)のMVとなるのです。

4)のMV(上のYouTubeの動画)については、オリジナルアニメを加工したアニメではなく、そのコスプレをしたキャストが踊るだけなので、著作権的にはOKと判断し今回リンクを掲載させていただいています。

このアニメ等のコンテンツの二次利用による新たな創作の流れは加速しており、著作権的にはNGであるもののネット民の皆さんのアイデアと技術とスピードは驚愕すべきものがあります。
この創作パターンは、通常の企業やクローズドのチームでの創作では太刀打ちできない、つまりメチャクチャ素晴らしい作品が出来上がる可能性が高いのですが、先に書いた通り著作権の問題があるのが悩ましいところです。

商業目的以外の二次利用をフリーとしてゲームやアニメをリリースし、その代わり二次利用して創作した作品をうまくオリジナル作品の商業ベースに還流できるような仕組みがあればいいんですが...

今回もだいぶ話が長くなったので、そろそろ締めに入りましょう。

実は、「2 Phút Hơn」にはオフィシャルMVが存在しています。
最後にこのオフィシャルMVをご覧ください。
Phao x Tygaの「2 Phút Hơn (Make It Hot) [KAIZ Remix]」です。

超メジャーなTygaとコラボすることだけでもスゴイのですが、このお金がかかったであろうMVを観て、皆さんどう思われたでしょうか?

同じ楽曲でありながらMVとしての印象が全く違いますが、このMVを観て「すごいなー」とは思いましたが、わたし個人的にはゼロツーダンスのMVのほうが断然楽曲に合っていると思いました。
もちろん、個人の好みがあるので一概(いちがい)には言えませんし、オフィシャルMVもうまく作ってあるとは思いますが、多くの方は私と同じ感想を持たれたであろうことは容易に推測できます。

可能であれば、「2 Phút Hơn」の実写版のオフィシャルMVとして上に紹介した4)に相当するMVをリリースし、アニメ版のオフィシャルMVとして2)のアニメMVをベースに制作したMVをリリースできれば、アーティスト側はより素晴らしいMVを提供でき、視聴者は素晴らしいMVを視聴しやすくなり、その制作のプロセスにかかわったネット民の皆さんも喜ぶという「三方(さんぼう)よし」になるのではないかと思っています。(チョット本来の使い方ではありませんが...)

さて、今回のTilTokに絡めたMVはいかがでしたでしょうか。
最初のTikTokを題材にしたアニメMVも素晴らしいですが、アニメの二次利用から創作されたアニメMVと、更にTikTokで生み出された多様な表現を使ったコスプレ実写MVは、今後のMVの発展を垣間見ることができます。
まだまだMVの進化は止まりそうになく、楽しみでなりません。

ではまた次回に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?