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女性が鼻血を出すMVってアリ?新世代のビリーアイリッシュに白目のキャノンズの2連発(オススメMV #92)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の92回目です。(連載のマガジンはこちら)

今回はチョット変わったMVとして、女性が鼻血を出すというインパクトのあるMVを2つお届けします。
もちろん、鼻血のインパクトだけでなく楽曲やMV自体もオススメなのですが、実は私にとって不思議なアーティストの紹介という意味もあります。

では、まず今回のメインとなる不思議なアーティストのMVです。
ビリー・アイリッシュの「bad guy」です。どうぞ!

ダークな楽曲と不思議な映像のMVです。
最後に観る側を突き放すような映像構成もあり、なかなか無いテイストのMVとも言えます。

ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)は、2016年にデビューというかネットで曲とMVを配信し、同年にメジャーデビューも果たしたアーティストですが、2019年のファーストアルバム「When We All Fall Asleep, Where Do We Go?」ではUS、UK含めて多くの国で1位を獲得し、翌年のグラミー賞では最年少で4冠達成という快挙もなしとげています。
つまり、めちゃくちゃスゴイ女性アーティストと言えます。

この「bad guy」は、そのファーストアルバムに収録された楽曲で、アルバムと同時に5thシングルとしてリリースされたのですが、爆発的にヒットし、アルバム同様に全世界で多くの1位を獲得しています。

実はビリー・アイリッシュと私との相性はイマイチで、リリースされた楽曲やMVはひと通り視聴していますが、ほとんどリピートはない状況でした。
この「bad guy」についても同様で、「不思議なMVだな」とは思いましたが初めて観たあとはほとんどスルーしていたところ、たまたま再見した際になぜか虜(とりこ)になってしまったのです。

では、話をMVに移すと、この「bad guy」は映像はコミカルなテイストではあるものの、ディープというかエッチさ満載の内容となっています。
開始早々28秒で今回のテーマである「鼻血」の映像が出てきますが、鼻血にはそれほど意味はないようで、重要な意味を持つのは開始45秒の映像で表現される「膝」なのです。
その重要性に気づいたのは、YouTubeで和訳された歌詞を表示した際にコミカルな映像の裏に隠されたディーブな意味を知ったときです。
膝をついて行う行為を表現するためにあざの付いた膝の映像を表示させており、また「bad guy」は彼氏のことではなく自分自身のことでもあることが、和訳された歌詞を見て初めて分かりました。

また、歌詞から彼氏は彼女を支配していると思っているが、実はあえて支配されていながら支配しているのは彼女のほうだ、ということも分かります。
少し話が飛びますが、この関係をみて、昔「百魔」を執筆された杉山茂丸さんを思い出されます。
相対する相手は杉山さんを利用していると思っているが、実は杉山さんもその相手をうまく使って目的を達成する策士だった...という話です。
杉山茂丸さんのご子息が「ドグラ・マグラ」で有名な夢野久作さんで、夢野久作さん作品の挿絵を描かれていたのが私のあこがれる竹中労さんのご尊父の竹中英太郎さん...というのも不思議なつながりを感じます。
ちなみに、竹中英太郎さんの話は、別に連載している「レコードジャケットの楽しみ」で書いていますので、ご興味ある方はご覧ください。(記事はコチラ→「きみは竹中英太郎という画家を知っているか?」

話が大脱線してしまったので、「bad guy」のMVに話を戻しましょう。
全面イエローの映像から始まり、談笑している声はするものの映像は全面黄色のまま14秒が過ぎたとき、いきなり画面中央の黄色の紙が蹴破られて出てくる女性がビリー・アイリッシュその人です。
まずは、この14秒という長さが絶妙で、これ以上長ければ飽きてきますし、逆に短ければ引き付ける効果が薄くなるため、まずオープニングから一本取られた感じがしますが、それに加えて黄色の背景に全身黄色の服というのも過度なインパクトはないものの印象付けがされており、これまた技ありな感じです。
このあと画面が切り替わり、最初の黄色の映像とあわせて8つの場面が入れ替わり出てきます。

①黄色の紙を背景に全身黄色のビリーが踊る
②薄青の部屋で白の服を着た鼻血を流すビリー+膝の映像
③屋外で太った男たちと一緒にいる黒い服を着たビリー
④屋外で三輪車の男たちを引き連れ玩具の車に乗る赤い服を着たビリー
⑤屋外でハトに餌をやる青い服のビリー
⑥赤い砂漠でシリアルを口に入れた男性に牛乳を流し込む黒い服のビリー
⑦黄色と赤の模様の床の上を背面で歩行し転がる柄物の服を着たビリー
⑧男性の生首がぶら下がる薄黄色の部屋にいる黄色の服を着たビリー

この8つの場面が切り替わりながら流れるのですが、4つが屋内で4つが屋外というバランスの良さ、そしてそれぞれ色のテイストが違っているところに工夫が感じられます。
また、特徴として言えるのが、総じて明るい映像であることが共通点です。

しかし、この明るい映像はこのMVおよび楽曲の本質ではないのです。
開始後2分45秒と全長3分26秒あるこのMVの80%まで来たところで、それまで明るい映像が続いていた画面が突然暗くなります。
暗い部屋にぼんやりと浮かぶビリーの顔が上下しています。
映像が引いていくと、なんと上半身裸で腕立て伏せをする男性の背中の上にビリーが乗っているのです。
ビリー(もしくはビリー演じるMV中の女性)の本質は、この最後の暗い映像に表現されているのではないでしょうか。
つまり、このMVおよび楽曲でビリーが伝えたいのはこの映像ではないかと思われるのです。(YouTubeのサムネイルに最初の映像ではなく最後の映像が使われていることも、そのメッセージかもしれません)

私の好きな小説家のひとりであるカート・ヴォネガットは、小説で伝えたいことは前半で書ききっていると言っていましたが、この「bad guy」は逆に一番最後に伝えたいことを持ってきているんですね。

さて、ビリー・アイリッシュは奥が深く私も考察がまだまだ浅いのでこれぐらいにし、次の「女性の鼻血のMV」の紹介と参ります。
とはいえ、普通の女性シンガーのMVを並べてしまうとビリー・アイリッシュの存在感が強すぎるため、全く違うテイストのアーティストにします。
もちろん「女性の鼻血」という条件は外せません。

「そんなMVあるのか?」と思いきや、あるのです。
それが、キャノンズの「Hurricane」です。

妖艶な女性が登場するムーディーなMVのようにも見えますが、実はコミカルで味わい深い面白MVであることが分かります。
懐かしいようなアコースティックっぽい楽曲とのマッチングも絶妙です。

キャノンズ(Cannons)は2013年にアメリカのロスで結成された男性2名と女性1名からなるインディポップバンドで、3枚のアルバムをリリースしており、この「Hurricane」は今年3月にリリースされた3rdアルバム「Fever Dream」からのリードシングルとしてリリースされた楽曲になります。
キャノンズは、上のビリー・アイリッシュも出演した有望な新人の登竜門ともいえるVevo DSCVRにも出演したことからも分かる通り、今後の飛躍が期待されているバンドです。

MVに目を向けると、ムーディーな楽曲とは反して、コミカルというかヘンテコな映像で、そのミスマッチが面白いMVとして仕上がっています。
真っ赤な際どい衣装で登場するボーカルのミシェル・ジョイが、不思議な能力を使ってスタジオのスタッフを次々と気絶させていくのですが、能力を使いすぎたのか、今回のテーマである鼻血を流し倒れてしまいいます。
ちなみに、鼻血を流すのは中盤に差し掛かる1分14秒と、ビリー・アイリッシュの「bad guy」の28秒とは対照的です。
「bad guy」では鼻血の持つ意味合いが強く、この「Hurricane」ではストーリーの中の1要素にしか過ぎないことが推察されます。
「Hurricane」のMVに話を戻すと、金色の衣装を着たバックダンサーたちのヘンテコさ加減もいい味だしつつ、最後の全員が消えてしまうというオチもチープですが、そのチープさ含めてこのMVの持ち味となっています。

なお、途中(2分47秒あたりから)、片手をあげて白目をむくミシェルの姿を見るたびに、お笑いコンビ「レギュラー」のツッコミ担当の西川くんの白目をむくポーズと重なってしまいます。
もしかしたら西川くんのギャグを知っていて、そこから取り入れたのかもしれないと思うぐらい似ていると思うのは私だけでしょうか?
一度記憶に刻まれてしまうと抜けだすことができず、毎回西川くんが重なって見えてしまうのは困ったものです...

さて、今回の「鼻血を流す女性のMV」はいかがでしたでしょうか?
テイストが違う2つのMVですが、どちらもオススメのMVですので、比較しながら観てみてください。

ではまた次回に。

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