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スキャットマンジョン、貴方の歌声と生き様は忘れない。オリジナルとサンプリングMVをご紹介(オススメMV #134)

こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の134回目です。(連載のマガジンはこちら)

皆さんは「スキャットマン・ジョン」という方をご存じですか?
1990年代半ばに一世を風靡したアーティストで、没後も幾度となくサンプリングされている「SCATMAN」という名曲を世に出された方です。
「没後」と書きましたが、1999年に鬼籍に入られたため没後25年、つまり四半世紀も経っているものの、その歌声は今もなお新鮮です。
詳しくはのちほど紹介するとして、まずはメインとなるMVをご覧ください。

スキャットマン・ジョンの「Scatman (ski-ba-bop-ba-dop-bop)」です。

人柄が良さそうな風貌の初老の紳士が、独特な歌い方で緩急織り交ぜながらパワフルに歌うというインパクト満点のMVです。
リズミカルな楽曲に組み合わされる映像は、コミカルさもある特徴的なコマ割りの映像であり、楽しみながら最後まで一気に観させてくれます。

スキャットマン・ジョン(Scatman John)は、1942年にUSで生まれたアーティストで、この名前は本名からとった「ジョン」と代名詞でもある「スキャット」を組み合わせた芸名となります。
1986年に本名でアルバムを1枚リリースしていますが、本格的なデビューはスキャットマン・ジョン名義のこの1stシングル「Scatman (Ski Ba Bop Ba Dop Bop)」(以下、Scatmanと略します)での1984年で、翌年1985年には1stアルバム「Scatman's World」をリリースしています。
つまり、52歳でデビューした遅咲きのアーティストなのですが、1stシングルと1stアルバムとも世界中でヒットし、多くの国でNo.1となっています。
特に日本では爆発的なヒットとなり、オリコンの洋楽チャートでのNo.1はもちろん、複数のCMやTV番組にも出演するなど、私も記憶に残っています。

しかし、特徴的な歌声と人懐っこそうな初老の紳士というイメージはあるものの、彼の人生と歌にこめられた意味を知り、衝撃を受けたのはつい最近のこととなります。

ジョンは、幼いころから重度の吃音(きつおん、昔でいう「どもり」 )で人とのコミュニケーションが取れず、悩んでいたころにピアノと出会ったことが音楽の道に入ったきっかけとなります。
しかし、吃音による学校でのいじめなどによる精神的なストレスからアルコールやドラッグにはまってしまったのですが、音楽仲間や奥さんの支援で立ち直り、音楽的に試行錯誤する中でスキャットソングに出会います。
スキャットとは、意味のない音を歌う歌唱法で、日本では由紀さおりさんが歌われた「夜明けのスキャット」などが有名です。
吃音でもスキャットなら歌えるのではないか?と考えたジョンは、ジャズの中にスキャットを取り入れたスキャットソングに取り組み始めます。
そして、その頃に転機が訪れます。
元々USで生まれ育ち、カリフォルニアでジャズピアニストとして生計を送っていたジョンですが、不況で仕事が少なくなったこともあり奥さんと一緒にドイツに移住したのが1990年、彼が48歳の時です。
ドイツではステージでスキャットソングを披露し喝さいを浴び始めたジョンでしたが、そのスキャットソングが入ったデモテープを奥さんがレコード会社のエージェントに渡したことが転機となるのです。
レコード会社のエージェントのアイデアでジョンのスキャットソングに電子音楽やHIPHOPの要素を取り入れ、そして奥さんのアイデアで歌詞にジョンの想いを込めることで誕生したのが名曲「Scatman 」なのです。

そして皆さん、ぜひ「Scatman」の歌詞をネットで検索してみてください。
吃音をトラウマとして抱えて過ごした人生やそれをスキャットソングでプラスに転化した今の自分自身をさらけ出し、吃音で悩む方々にエールを送る素晴らしい歌詞となっています。(しかも、それが押しつけがましくなく、ちゃんとエンターテイメントとして成立させているところが、更に素晴らしいですね!)
また、ジョンは吃音の方々を支援する団体に様々な援助や活動を行い、自身でも「the Scatland Foundation(スキャットランド基金)」を設立しており、日本でも日本ゴールドディスク大賞を受賞した際の賞金を全額「全国言友会連絡協議会」(日本の吃音者支援団体)に寄付しています。

これらの事実を知るまでは「Scatman」をただ単に明るくノリのいい楽曲でありMVと思い何気なく視聴していましたが、その歌詞にこめられた意味やジョンの苦悩とチャレンジの事実を知ってからは、深い味わいを感じつつ視聴することができています。
「Scatman」が一世を風靡していた当時、日本の多くの方が私と同じように人懐っこい初老の方が歌っているただ単にノリがいい楽曲というイメージを持たれていたのではないでしょうか?
今であればメディアもジョンの吃音に対する悩みやチャレンジを含めたプロモーションをしていたと思うのですが、当時の風潮ではそのようなことは全くなく、ある種うわべだけを取り上げていたことが原因のように思います。

そんな中、この「Scatman」は様々な楽曲にサンプリングされているのですが、それがジョンの吃音に対する想いが伝わるきっかけになればいいなと思っています。

詳しい話に入る前に、「Scatman」がサンプリングされた楽曲の中で、私が一番お気に入りのMVを紹介しましょう。
スキャットマン・ジョン&ルー・ベガの「Scatman & Hatman」です。

朗らかで明るく、かつジョンへの敬愛にあふれたMVですね。
天国のジョンも、このMVに出演している自分の映像を見て喜んでいるのではないでしょうか?
歌詞にはジョンのメッセージもしっかり残っており、最高です!

ルー・ベガ(Lou Bega)はドイツのアーティストで、かの有名な「Mambo No. 5」(マンボNo.5)をサンプリングした同名の楽曲を1stシングルとして1999年にリリースし、その楽曲がヨーロッパのほとんどの国でNo.1となるビックヒットを飛ばした方なのですが、実はほとんど存じ上げず、このMVだけのお付き合いとなっているのが正直なところです。

しかし、この「Scatman & Hatman」のMVはいいですね!
サンプリングとしても「Scatman」の楽曲の良さを引き出し、歌詞のメッセージも損なうことなく組み合わせています。
そして、楽曲だけでなくMVの映像も「Scatman」のMVの映像をサンプリング(流用)して使っており、ジョンが生き生きと歌う映像とルー・ベガの朗らかな表情やしぐさ、そしてダンサーの皆さんのダンスが融合し、極上のMVとして仕上がっています。

ちなみに、オリジナルの「Scatman」のMVも良くできています。
ジョンを前面に出しながらも、バンドメンバーやダンサーの皆さんそれぞれも際立つような映像構成となっています。
特にダンサーの皆さんは、多くの方を登場させず、ある程度メンバーを絞って登用し、かつひとりひとりの登場時間が長いことも特徴です。
しかも、年齢や性別、ダンスの種類も様々で(バレエダンスもあります)、今でいう多様性そのものですが、当時はその概念もまだない頃でしょうから、ジョンの多様な人々を尊重する姿勢がMVにも出ているように思えてなりません。

さて、話を「Scatman」をサンプリングした楽曲に戻しましょう。
「Scatman」をサンプリングした中で有名な楽曲は、ドイツのDJであるマーク・オー(Mark 'Oh)が2009年にリリースした「Scatman」で、MVについてもオリジナルの「Scatman」の映像をうまくサンプリングしており、しかも最後には「In Loving Memory of Scatman John」(スキャットマン・ジョンの愛すべき思い出に)と表示され、ジーンときます。
YouTubeにもあがっているのですが、権利的にOKかどうか分からないため、残念ながらリンクは割愛させていただきます。

そして、今回紹介する最後のMVは、私の大好きなブラック・アイド・ピーズがダディー・ヤンキーと組んでリリースした楽曲となります。
ブラック・アイド・ピーズ&ダディー・ヤンキーの「BAILAR CONTIGO」です。どうそ!

アニメ顔っぽいCGの面々がヘンテコな感じもしますが、サンプリングした「Scatman」とダディー・ヤンキーのラップがいい具合でミックスされ、さすがブラック・アイド・ピーズ!というMVに仕上がっています。

ブラック・アイド・ピーズ(The Black Eyed Peas)は私の好きなアーティストの中のひと組みで、この連載にも何度も登場している常連です。
過去に特集も組んでいるので、ご興味ある方はご覧ください。(過去の特集回はコチラ⇒「ブラックアイドピーズの特集だ!」

この「BAILAR CONTIGO」は、2022年リリースの9thアルバム「ELEVATION」からの3rdシングルとして2023年にリリースされた楽曲で、MVがアップされた直後に視聴したのですが何故かリピートすることなく放置していました。
しかし、「BAILAR CONTIGO」の次にアップされた「GUARANTEE」のMVがあまりに私の好みからかけ離れていたため(悪い意味で)衝撃を受け、ひとつ前の「BAILAR CONTIGO」のMVを見返したところ映像もさることながら「Scatman」のサンプリングの良さにあらためて気づいたのです。
そして、オリジナルの「Scatman」や他のサンプリングした楽曲にも興味を持ち、それらを視聴する中でスキャットマン・ジョン自身にも興味が沸き、調べたところその歌詞の意味や彼の人生に心を打たれた...という次第です。
つまり、ブラック・アイド・ピーズとダディー・ヤンキーが「Scatman」をサンプリングした「BAILAR CONTIGO」をリリースしたことによって、「Scatman」の楽曲やMVの本当の深い味わいを体験することができたのです。

今後も「Scatman」をサンプリングした楽曲やMVがたくさんリリースされ、多くの方がオリジナルの「Scatman」を聴き、更にはスキャットマン・ジョンの生き様に興味を持っていただければと切に願う今日この頃です。

今回のスキャットマン・ジョンの「Scatman」と、サンプリングした2つのMVはいかがでしたでしょうか。
皆さんも、スキャットマン・ジョンを少しでも調べて知っていただき、そのうえで再度「Scatman」や「Scatman & Hatman」のMVを視聴してもらえればと思います。
より深くMVを味わっていただけること確実です。

ではまた次回に。

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