中空麻奈(BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部 副会長)

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最近の記事

世界の中銀総裁を悩ませるインフレ統計

ユーロ圏の総合インフレ率は2月の2.6%から3月には2.4%に低下し、2021年7月以来の低さとなったことからも、ディスインフレ傾向がしっかり定着していることを裏付けていると言えるであろう。食品価格上昇率、エネルギー価格上昇率、コア・インフレ率のすべてが予想を若干下回り、インフレ圧力は全般的に低下した。また、進展は広範な国に及んでおり、ドイツ、フランス、イタリア、スペインで総合インフレ率がコンセンサス予想を下回った。コア統合消費者物価指数(HICP)上昇率(国レベルではまだ発

    • 英国予算:難題は先送り

      ハント財務相が発表した予算にサプライズはなかった。大部分については、メディアで伝えられていた通りで、秋季声明と比べ財政が若干拡大されるといった程度。 選挙が近いこともあり、限定的だがばらまき財政の様相である。臨時的な財政収入をすべて支出に回し、労働党との差を詰めるために、国民保険料NICを2025年度から2%引き下げると発表した他、燃料税の引き上げを26年度まで1年間先送りした。その代わり、目立たないように増税策も混ぜてある。26年度から非定住者の税制上の扱いを変更、たばこ

      • インフレ基調の鈍化スピードが利下げ時期を決める鍵

        ECBの2024年第4四半期の妥結賃金指標がユーロ圏の賃金伸び率のピークアウトを示唆した後で、今後数か月に物価上昇圧力がさらに改善すれば、ECBに「ユーロ圏のインフレ率は2%に向けた軌道に乗っている」という十分な自信を与え、利下げに道を開くことになるはずだ。ECBはその金融政策の変更に関し、経済指標次第の姿勢を変えておらず、2月の改善の度合いによっては措置を早めるか遅らせるかを判断する可能性が大きかった。 コアインフレ率が3%を割り込めば基調的な圧力がECBスタッフの12月

        • 欧州の“財政リスク後退”を信じていいか

          欧州議会とEU加盟国は気候変動やデジタル化などの分野への公共投資を一定程度容認しつつ、4-7年間で財政赤字を緩やかに削減する目標について合意した、ばかりである。これ自体は柔軟性を高めるという意味では良いこととして受け止められる。 そもそも、欧州は頑強な財政ルールがあり、それこそが信用の礎になっている。GDP対比で財政赤字が3%を超えない、債務が同60%を超えない、といった水準を遵守しなければならないルールになっており、日本のGDP対比で見た債務が260%と比較すれば、欧州の

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          金融政策変更には労働市場の動向が一つの鍵

          消費者物価指数を見る限り、インフレ動向は沈静化しつつある。金融政策の変更のタイミングは早まるのであろうか。おそらくは金融政策委員会(MPC)が気にしているのは、労働市場データに示された労働需給のひっ迫ではなかろうか。 労働力需要がここ数か月鈍化している状況に変わりはない。求人は引き続き減少し、雇用意図の指標や雇用者数の伸びは鈍化している。だが、2月5日に発表されたデータを見ると、労働供給は回復から若干逆戻りしているようであり、その分だけでもこれまで考えられていたより、ややひ

          2月以降が問題だ!

          金融政策委員会MPCのタカ派メンバーであるジョナサン・ハスケル委員とミーガン・グリーン委員の二人が利上げから据置にシフトすることが想定される中、2月1日の会合で政策金利を据え置くのはほぼ見えてきたと言える。しかし、難しいのはその後どうするか、という点である。ハト派的なトーンを打ち出しつつも、利下げを示唆することはしたくない、ように見えるため、そのコントロールは難しそうである。 12月のシグナルにほぼ変化はなかったため、BOEがガイダンスを具体的にいかに変更するかは不確かであ

          ECBの利下げは”やはり”4月

          向こう数ヶ月間で食品とコア財のディスインフレが急ピッチで進み、欧州の総合インフレ率が徐々に改善する可能性は大きい。特に、電力料金とガス料金は依然として卸売価格ほど下落しておらず、今後、卸売価格の下落に追い着く余地が残っていることを考えると、ユーロ圏の総合インフレ率が2024年第3四半期にECBの目標である2%を一時的に下回ると考えられる。BNPパリバの基本シナリオでは、2024年の平均コアインフレ率が2.2%、2025年には2.1%になると見込んでいる。 インフレが抑制的に

          人のふり見て我がふり直せ

          EUでは、域内で事業展開するアパレル事業者に売れ残った服や靴などの衣料品を破棄するのを禁じる法案に大筋合意し、2年後から施行することが決まった。さすがルールメイキングの得意な欧州、という感じだ。極めて正しい。地球環境のためのみならず、そもそも新品のものを破棄するのは無駄だしもったいないのは確かだからだ。 こうした動きは世界中に何らかの影響を与えることになる。欧州での事業展開がない場合でも、アパレル事業者から見れば、リサイクルに目が行かないはずがない。 但し当たり前のことだ

          ECB会合を読む

          ECBが12月14日明日の理事会会合で再び金利の据え置きを決定することはほぼ織り込み済みと思われるが、市場はまだ最新の経済予測とECBのコミュニケーションから、多くのことを読み、かつ消化する必要がある。 市場はすでに利下げが実施されるのではと読み始め、2024年中にはECBは大幅な利下げを実施するのではないかと織り込んでいる。こうした市場の期待や読みに対し、ECBはこれに対抗しようとするか否か。その意味では、ECBは明日の会合において何らかの形で市場のプライシングを押し戻す

          ドイツの閉塞感とネガティブプレッシャー

          2021年12月末に、新たに発足した政権はパンデミック関連の600億ユーロの信用枠を、当時エネルギー・気候基金EKFと呼ばれた基金に移管する決定を下した。これはデジタル化や脱炭素化の推進に充てる特別基金であり、後に「気候・変革基金(KTF)」に改称された。だが移管された信用枠は、パンデミックの影響に対処するために当初設立された「経済安定化基金(WSF)」という、別目的の基金をベースとしていた。この移管は論争の的となった。その信用枠は予算外扱いされただけでなく、ドイツの債務ブレ

          EUが財政を弛緩させてはいけない!

          11月の経済・財務相理事会ECOFIN会合で提示されたEUの財政ルールについての着地点と各国財務相の姿勢が楽観的に見えることを踏まえると、改革に関する合意は成立することにはなるであろう。しかし、法案が成立するとしても、懸念が残る。 妥協点を見出さなければならない点は、例えば次のようなものである。第一に除外される支出項目をどうするか。国防支出や返済が必要なEUの支援金によって賄われる事業の基準を一段と緩和することが必要になる項目である。第二に、財政の監視体制をどうするか。加盟

          金利は据え置きの公算大

          英国9月の総合インフレ率は8月と同じ前年同月比6.7%、コアインフレ率は前月よりも0.1ポイント低下の6.1%。食品価格の上昇率が一段と減速する一方、燃料価格は上昇したことで相殺するなど過度なブレとならなかったことがわかる。 BOEがコアインフレの中でも中心的指標として重視しているサービス価格については、前月から0.1ポイント増加の6.9%増となったものの、宿泊代金は宿泊日の直前にデータが集計されるため誤差が大きくなってしまうことや、教育費は学校が再開する9月に上昇しがちで

          変調の兆し:英国総選挙

          英国では2025年1月までのタイミングで総選挙が行われる。これらの見通しにつき、今月以降、より情報が集まることになる。 政府が具体的な投票日を確認、発表するのはしばらく先と見られるが、我々は来年5-6月か10-11月のどちらかのタイミングが濃厚であると考えている。一部メディアでは政府が春の実施に傾いていると報じているが、経済環境の悪化を考えるとむしろ来年後半が妥当ではなかろうか。 世論調査によると労働党の過半数獲得が最有力シナリオであり、記事の通りである。この人気度合いが

          「過度な悲観論は行きすぎと考える5つの理由」

          ここ数か月のマクロ経済の下振れと公的機関による成長率予測の引き下げを背景に、ユーロ圏に関する投資家のセンチメントは急速に悪化しており、年初の天然ガス価格の下落を受けた楽観的な見方の大半が反転したように見える。 多くの投資家はユーロ圏が循環的要因と構造的要因の両方から圧力を受けることを懸念していると思われる。借入コストの上昇や景気後退予想を踏まえた需要や投資見通しの弱さ、不透明なエネルギー見通し、中国のトレンド成長率の低下、米国の補助金や中国の電気自動車を背景とする域外との競

          「過度な悲観論は行きすぎと考える5つの理由」

          「今必要な金融危機対応とは何か」

          現在、米国でも金融システム不安を起こさせないための措置が考慮されているところである。7月27日には銀行に求める自己資本要件を厳格化する規制案を発表した。大銀行のみならず資産規模1000億ドル以上の金融機関にも自己資本要件の適用を求めること、G-SIBSに対してはより厳しい規制をかける(自己資本の上積み)ことなどを規制強化案として11月30日まで意見を募集、2028年7月1日の完全施行を目指す。また8月29日には、長期債務の保有に関する規制案も発表し、捕捉できるリスクの幅を広げ

          沈静化する中、気になる“燻る火種”

          総合インフレ率は6月の前年同月比7.9%から同6.8%へと大幅に低下した。この低下は主に家計の光熱費の大幅下落を反映したもの、である。これはコンセンサス通りであったが、コア財価格上昇率が2か月連続で低下した(6月の前年同月比6.4%から7月同5.9%へ)のはインフレが抑制されつつある動向を読みたい中央銀行BoEにとっては良い傾向と言える。 生産者物価上昇率の急低下をもたらしたサプライチェーンの緩和が、ようやく消費者物価上昇率にもあらわれ初めたことを示唆しているとすれば、確か