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東京の休日 #3 〜『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』展〜

 仕事終わりの金曜日、六本木へと向かう。数年ぶりの再会に心躍る。

 グスタフ・クリムトの作品を初めてみたのは、ウィーンのベルヴェデーレ宮殿を訪れたとき。あの有名な『接吻』だ。男性が女性にキスをしているということ以外は、何だか奇妙な絵だなという印象が残っている。二人を包む金色のオーラと断がい絶壁ではあるけれどもお花畑のようなロケーション。

 そんなクリムトの作品が国立新美術館にやってきているのだ。『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』展。

 出迎えてくれるのは、壁いっぱいの高さのマリア・テレジアの肖像画。マリー・アントワネットの母であり、オーストリアの女帝としても知られる彼女。絵そのもののインパクトもさることながら、金の額縁の立体的な装飾がマリア・テレジアの威厳を引き立てる。その中央上部には、幼いヨーゼフ2世の肖像画が描かれている。目力の強さと王冠が光る。

 そこからヨーゼフ2世が皇帝となり、シューベルトの時代からウィーンが芸術都市として発展する様子が絵画や展示物で表されていく。

 そして、クリムトの登場だ。『愛』という作品は、『接吻』の原型となっているらしい。でももっと写実的で、真夜中のような暗い印象を受ける。縦長のその絵画は縦に三等分されていて、日本の琳派を思わせる金色の背景にピンクの薔薇が描かれた枠の間に、男女の絵がある。さらに、二人を上から見ている人たちも登場する。『愛』から『接吻』までは13年。くっきりと陰と陽、みる者とみられる者で別れていた世界が、一枚の絵画になったのかと『接吻』を振り返ると、感慨深い。真理を悟ったクリムトが描いた『接吻』は力強くて、美しくて、人々を魅了してやまない理由が少しだけわかったような気がした。ウィーンから遠く離れた六本木でこんなことに気づくなんて。

 日本・オーストリア外交樹立150周年記念の展覧会『ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道』。8月5日まで開催されているそう。

 会場の外に出るとロビーに何やらすごい人だかりが。なんと、ウィーン少年合唱団のコンサートが始まるところでした。紅茶を飲みながら待っていると、あの制服を着た少年たちが真横を通って行って驚いたのです。こんな奇跡みたいな日があるのですね。”天使の歌声”と絵画に酔いしれた国立新美術館での夜でした。

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