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ニュースは教材たり得るのか?


 NIEをご存知でしょうか。Newspaper In Educationの略語で、「教育に新聞を」とも訳されています。
 私は、日本NIE研究会と日本NIE学会に所属して、これに取り組んできました。

 元々、大学時代に慶應義塾大学新聞研究所(現メディア・コミュニケーション研究所)に所属して、二つのゼミで学びました。伊藤陽一先生と岩男寿美子先生です。
 そうしたこともあり、最初に就いた教科書の編集の仕事で、「新聞を活用した教育」を意識するようにもなりました。
 特に、平成元年版の学習指導要領より、小学校社会科の5年生に「我が国の放送、新聞、電信電話などの産業」が位置付いたことで、学校現場での関心が高くなりました。
 そうしてみると新聞は非常にすぐれた教材でした。社会科の教科書の編集をしておりましたが、教科書は4年に1度の改訂です。どうしても資料等が古くなります。世界遺産などもどんどん増えました。そうしたところを補うための教材としての価値がありました。加えて、子どもたちが切り抜き、保存できるところなどの扱いやすさもありました。

 とある附属小学校の社会科の公開授業で沖縄の基地問題をあつかったとき、子どもたちが家の新聞をもちより、必要な部分を切り抜き、それを根拠にクラスで対話を重ねていました。教師が一方的に説明するより、何百倍もよい授業です。これは教科書だけではできません。

 ところが、現在ではNIEも注目されなくなり、各新聞社のNIEを扱っていたホームページが、ほとんどなくなりました。理由はいろいろと考えられていますが、新聞をとっている家庭が少なくなり、授業で「家から新聞をもってきて」ということができなくなったことも大きいでしょう。
 今は、紙の新聞より、ネットのニュースです。今年のNIE全国大会松山大会のスローガンは「ICTでひらくNIE新時代」でした。これからのNIEはネットが中心になるでしょう。

 そこでの大きなポイントは、タイトルにもしました「ニュースは教材たり得るのか?」です。
 以前も、ニュースには誤報があることから教材としてどうかと言われたこともありました。ただ、NIEに取り組む教師たちは、その誤報も重要な教材としていました。ニュースを鵜呑みにするのではなく、クリティカルにとらえることが大切です。そうした観点から見ると誤報も重要な教材です。

 ただ、今のニュースの信頼については、ジャニーズ問題に代表されるようなメディアの「忖度」が大きな問題となります。
 いくつかのメディアがその忖度を認めました。
https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20231004-OYT1T50260/

 メディアによっては、その会社の考え方もあるので、これまでもどこかの政党に忖度をしたり、スポンサーに忖度していたことはありましたし、それを読者もある程度感じていました。
 しかし他の忖度しないメディアが伝えることがあるので、それほど問題にはなりませんでした。
 憲法改正についても、賛成しているメディアもあれば、反対するメディアもあります。それを比べることで、より理解が深まるということもありました。NIEでも比べ読みを推奨しています。
 しかし、今回のジャニーズ問題のように、ほとんどのメディアが忖度していた場合は、どうでしょうか。この問題も、忖度の必要のない海外のメディアのおかげで私たちが知ることとなりました。
 戦前、軍部に忖度をして「大本営発表」を垂れ流したときのメディアと何ら変わりはありません。
 こうしたことがあると、ニュースを信頼して子どもに与えることができなくなります。

 もう一つは「釣り見出し」です。これは、いわゆる大手のメディアではそれほどでもありませんが、その大手のメディアの記事がニュースサイトで転載されるときに、この「釣り見出し」で読者が誘導されます。そして読んだときに、「騙された」と思ってしまうのです。
 NIEの授業でなくても、子どもたちがネットからニュースを集め、プリントし、自分なりのノートをつくるような実践は、非常に多くあります。そのニュースの見出しが「釣り見出し」であったら、それは教材として使えるでしょうか。

 とはいえ、今はSNSやネット上の怪しいメディアも多くあり、フェイクニュースも飛び交っています。そうした社会で生きていくためにも、正しく情報と接する、いわゆるメディアリテラシーが、本当に必要になります。その反面教師にメディアがならないで、子どもたちの適切な教材になることを切に願うのです。

 東日本大震災の時に、壁新聞でニュースを伝え続けた石巻日日新聞。https://hochi.news/articles/20210309-OHT1T50305.html?page=1

 ここには「忖度」も「釣り見出し」もありません。読者を想い、読者ためにニュースを伝える。ここにニュース本来の意味があり、その信頼があるのではないでしょうか。
 ぜひ、ニュースの原点に返って、「子どもたちがニュースを教材として使える」と、自信をもって言えるような報道をお願いしたいです。

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