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再婚=虐待のハイリスクではない。再婚子育て問題から考える、虐待が起きやすい”ある”原因とは。

今月中旬に母親に懲役8年が言い渡された、目黒区虐待死事件

当時5歳の女の子が、母親の再婚相手で、義父となった男性からの酷い体罰・ネグレクトの末に亡くなった事件です。

今年明けに報道された、野田市小4女児虐待事件

学校のいじめアンケートに、「お父さんにぼう力を受けています。」と書いてSOSを出していたにも関わらず、激しい暴力・暴行の末に亡くなりました。

そして、先日埼玉県さいたま市で起こった、埼玉小学生殺人事件。小学校4年生の男の子が、これもまた、母の再婚相手である義父に殺害されました。

次々に起こる痛ましい虐待死事件。そして、その何百、何千、何万倍もある、報道されていない、助けを求める子どもたちの、音もしない”助けて”。

その間にも、虐待の報道は止まらず、増加の一途を辿っています。

報道で虐待を知る人も多く、その内容から、再婚が虐待のハイリスクという認識が広まっています。

わたしはそこで懸念していることは、再婚というイベント=虐待しやすい、という再婚そのものに対するマイナスのイメージがつくことです。

しかしわたしは実際には、再婚をすることで、子育てにおいて不可欠な”あること”が欠如しがちだから、虐待が起こってしまうのだと考えています。

これは、再婚を経験しない家庭にも起こる可能性があり、特に両親共働きで保育園に預ける時間・年数が長くなってきているこの時代に、どの家庭にも起こりがちなことなのです。

1. 再婚は、虐待が起こりやすいと言われる理由とは?

一般に、"再婚”することは、それだけで虐待が起こりやすい、ひとつのきっかけであると言われています。

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内閣府が発表している、警察が検挙した児童虐待事件のグラフ。これを見ると、警察が検挙する程度の激しい身体的虐待(図2)は、全体として養・継父が加害者となっている(図4)ということが分かります。

(※児童相談所が対応する通告はまた別に統計になっているので、詳しくは以下を参照。)

2. なぜ再婚家庭で虐待が起こりやすいのか

家族発達理論では、家族というものにはステップがあって、家族の構成員がそのステップを経験していくことでその家族が発達していくとされています。

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※) https://www.medi-gate.jp/selection/contribution38/

結婚する(家族ができる)→妊娠する(子育てをしていくという自覚を養う)→出産する・育児をしていく(子どもを時間をかけて向き合っていく)という過程を経験する家族が今のところ多数です。

しかし、子連れ再婚となった場合には、その全てが同時に起こきてしまいます。これは、どうしたって不可抗力です。

ともすれば、親になるものにとっても、子どもにとってもストレスがかかりやすくなるのは、避けられない自然なことです。

だって、授乳+夜泣き+イヤイヤ期+やるやる期+反抗期+思春期が一気にやって来るようなものです・・・。

以下は、再婚をしてから、虐待が発生するまでの起こりやすい流れをまとめたものです。

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実のお父さん/お母さんの新しいパートナーに、子どもは違和感や不信感、拒否感を抱きます。

その感情は、子どもの試し行動として表面化されます。いわゆる、反抗的な態度や、赤ちゃん返りです。

多くの場合は、その裏に不安や寂しさ、甘えが隠れていることに気がつかずに、問題行動として注意・叱責してしまうのです。

叱られた子どもは、自分の思いが届かず、怒られてしまったことで、さらに反抗していくようになるのです。

そこで、実のお父さん/お母さんでは対応できず、子どもが悪いことをしているという考えになってしまい、新しいパートナーに子どものしつけを頼ってしまうようになります。

ここで、いわゆる”虐待・体罰”が起こってしまうのです。

3. ”こども”になる準備の時間が必要なこと

成人式をした時のこと、覚えていますか?

わたしは、自分が20歳になった時、成人したという自覚が全くありませんでした。

20歳半ばで仕事を始め、社会人として揉まれて、21歳を過ぎた頃に初めて”ああ、わたしはもう成人したんだ”と感じるようになったのです。

法律上で成人する時と、実際に成人する時のタイミングが同じとは限らない。むしろ、後付けで自覚が出てくることの方が多い。

親子になるのもおんなじ。

再婚をして、戸籍上は”お父さん・お母さん”になっても、役所に届を出した日に”お父さん・お母さん”になれるかって、そうじゃない。

子どもと話して、遊んで、少しずつ、

”自分って、お父さんなんだ。”

”ああ、お母さんになったんだ。”

と感じていくもの。

子どもにも、新しいお父さん・お母さんの”子ども”になる期間が要るんです。

新しいお父さん・お母さんの”子ども”なんだと感じるきっかけを重ねていくうちに、子どもになるんです。

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(当時6歳のわたしと3歳の弟。母は一人でパートを掛け持ちして二人の子どもを養ってくれました。寂しいと感じることも多かったですが、母の”ギュッしよう”で大きな安心感に包まれていました。)

4. 子どもは、親が好きだから言うことを聞くようになる。

子どもが再婚してすぐに言うことを聞かないのは当たり前です。子どもは、
この人はわたしを守ってくれる。””この人はわたしを大切にしてくれている。”という安心感と信頼感があって初めて言うことを聞くようになります。

赤ちゃんが、お母さん以外の人が抱っこすると泣くのは、お母さん=自分の安全安心ゾーンと認識しているからです。

再婚=ゼロからのスタート、ではないのです。

実は、再婚=マイナスからのスタートなんです。子どもの不信感や不安感を取り除き、子どもが新しく親になる人に対して信じることができるようになって初めて、言うことが聞けるようになります。

5. 子どもに好かれようとすることは、甘やかすことにはならない。

再婚をして、子どもに好きになってもらう努力をすることは、決して”子どものご機嫌をとって甘やかす”ことではありません。

子どもに好きになってもらう努力をすることは、欲しいものをなんでも買い与えることや、行きたいところに何処へでも連れていくことではありません。

子どもに好きになってもらう努力に、お金は要りません。

ただ、

子どもの話を聞いて、それにお返事をするというキャッチボールをすること。

子どものちょっとしたことに、”すごいね!”と褒めること。

子どもと笑顔を共有する回数を重ねること。

それだけで、子どもは新しくお父さん・お母さんになる人に安心感と信頼感を持ちます。

それが親子の基礎です。

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積み木の土台をしっかりとおけばぐらぐらしないで積んでいけるように、一番さいしょに子どもに時間をかけて向き合うことで、親子としての土台を作ること。

再婚をすること自体が悪いことでも、再婚をすること=虐待が起きやすいのでは決してないのです。

ただ、再婚がきっかけでできる親子関係は、そうではない親子関係と比べて、この”安心感・信頼感”を作る時間が足りず、その間にも子どもはどんどん成長していくという点にあるのです。

この”安心感・信頼感”は、いわゆる”愛着”と言われてます。

”愛がくっつく”と書く。自分が愛されているんだ。という安心・信頼のことです。

子どもは生まれて、3歳くらいになるまで、お父さんとお母さん、特にお母さんとたくさんの時間を過ごすことで、子どもにこの愛着が形成されます。

この愛着は、相手がいなければ成り立たないものなので、子どもだけでなくお父さん・お母さんにも付いてくるものです。

再婚をしてできる親子関係では、この愛着を育む時間が自然ではなく、意識的に作っていくものであるために、親子での関係が上手く築けず、ストレスがかかりやすくなり、虐待となってしまうのです。

6. 最後に、社会に問うこと

共働きの家庭が増え、子どもは保育所や学童で、親は職場で過ごす時間が長くなり、物理的に愛着形成に必要な時間が、時代とともに減っていってしまう。

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※) https://toyokeizai.net/articles/-/214468

そう考えてみると、虐待←子どもの問題行動←愛着不形成←物理的な親子のミュニケーションの不足であるとすれば、虐待が起こってしまうことは社会にあるのではないか。

キャリアとしての成功が給与や幸福度の指標となるために育児休暇をすり減らし、長時間労働をすることで子どもと過ごす時間が減り、子どもと過ごしたくても生活費を稼いでいかなければならない。

都心に仕事の機会が集中するために核家族化し、子育ての協力が得られず、育児負担が増え、相談相手もおらず、夫婦間不和が起こり、離婚に至る。

そうやってストレスだらけの家庭で育った子どもは自尊心や愛着が薄く、家庭外に依存を求めて交遊に流れ、若くして妊娠し、未熟なまま親となり、経済的にも苦しく、その日暮らしで子どもと向き合えなくなってしまう。

”子どもに暴力を振るう親は普通じゃない”

”なんであんな親がいるのか理解できない”

そのような深刻な事態を作りだしているのは、私たち社会なのではないのだろうか。


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