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『ドント・ウォーリー』

2014年に死去したロビン・ウィリアムズが自身の主演で映画化の構想をあたためていた風刺漫画家ジョン・キャラハンの半生を、ガス・ヴァン・サントがその遺志を継いで脚本を執筆。主演にホアキン・フェニックスを迎え、企画から約20年の時を経て完成させた。オレゴン州ポートランドで酒びたりの毎日を送るキャラハンは自動車事故により胸から下が麻痺し、車いすでの生活を余儀なくされる。これまで以上に酒に溺れるキャラハンは周囲の人びととも衝突し、自暴自棄な日々を送っていたが、あるきっかけにより自分を憐れむことをやめるようになる。持ち前の皮肉と辛辣なユーモアを発揮し、不自由な手で絵を描く風刺漫画家として、キャラハンは第2の人生をスタートさせる。そんな彼の周囲にはいつもキャラハンを見守るかけがえのない人たちの存在があった。フェニックスが主人公のキャラハン役を演じ、ジョナ・ヒル、ジャック・ブラックらが脇を固める。18年・第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。(映画.comより)


新元号になってから一発目の映画館での映画はガス・ヴァン・サント監督×ホアキン・フェニックス主演『ドント・ウォーリー』をヒューマントラスト渋谷にて鑑賞。予告編見る限りは風刺漫画家としてのキャラハンの人生や世界への視線がどう培われたのか、彼を支えた人々によって彼は半身不随の身障者になっても諦めずに日々を楽しく過ごしたのかという感動的な話だろうなと思っていた。ガス・ヴァン・サント監督だし、見ようかなって。

冒頭からアルコール依存症の自助グループでの語り。参加者の自身についての話があり、キャラハンも自分自身について話し始めていく。それが物語のベースとなって、交通事故で身障者になる前から、実はアルコール依存症であり、その原因についてもみんなに話すように、映画では物語が現在から過去へ、過去から現在へと時間軸が語りに合わせて動いていく。


キャラハンは自身が抱えた苦悩を紛らわすために十代からすでにアルコールを飲み始めていて、手放せないものとなっていた。彼は自助グループのスポンサーでもあるドニーに12のステップというものを教えてもらい、依存症から抜け出そうとする。そのひとつに自分が許せなかったものを許すというものがある。彼が抱えてきた苦悩や人生における決定的に損なわれたもの、また、彼が身障者になったことで変わってしまった関係性やそのことで苦悩する人を許すという行為で、彼自身を許していくことになる。


カーター大統領の支持率が、というのがテレビに出てくるので時代背景はその頃だなとわかるぐらい。このアルコール依存症、ほかにもドラッグだったりセックスあったり様々な依存症における自助グループというのはアメリカにはある。

日本では馴染みがあまりないけど、アメリカの映画やドラマにはよく出てくるものだ。『ファイト・クラブ』の冒頭も確か自助グループのようなグループセッションというかトークみたいなものから始まった記憶がある。

キリスト教文化圏というのもあるし、奉仕や手助けをする、また寄付をするという文化があるということ、などが自助グループみたいなものが根付いている理由なんじゃないだろうか。日本だとそのイメージはあまりない。

抱えている問題を他者に話すことで整理したり、精神的に楽になるという作用はあり、それは創作にもつながっているものだろう。同じ境遇にある人たち同士なら、普段は関わりのないような人でも共通項でわかりあえるし、話がしやすいという環境になる。

日本だと「恥」みたいな文化が悪い意味のほうで自分の抱えている問題や、例えば家族間での問題などは外部や他者に話すのはよくないという思い込みがあって、より深刻な問題を生んでしまうという一面もあるのだろう。

西洋文化というのは「個人」主義であり、人権を大事にする。日本はやはり「村」社会であり、世間体を気にする。その違いみたいなものが、自助グループみたいなものなんかの違いなのかもしれない。


映画自体はキャラハンのキャラクターもいいし、ルーニー・マーラ演じるCAであり彼の恋人のアヌーのやさしさと美しさなども見所で、主人公に関わる人々それぞれがいい味を出している。また、風刺漫画家であるので彼が描いた漫画に対して、絶賛するものや町ですれ違いざまに文句を言ってくるおばあさんなどがいて、そういう部分も非常にアメリカだなと思ったりした。

全体的には感動的な作品だ。同時に、語りの度に過去の話になったり、ちょくちょく時系列が変わっていくので、いいなと思っていても感情がうまくスライドしないでぶったぎられるような感じもあって、感動まではたどり着かなかった。おもしろいな、この人っていうのはあるし、日本でいうと乙武さんの実話を映画化したみたいな作品だと思う。

別も感動ポルノを求めているわけではないし、身障者の人ががんばっているから感動とかってそれは嘘とは言わないけど、違う意味での搾取みたいな構造で好きじゃない。

単純に実話を元にした作品で、ストーリー展開というか編集でうまく観客の感情を繋げていっていない気がする。意図的なのか、ミスったのか。だから、すごくいいって勧められるかと言われると違うけど、つまんないわけでもない。そういうモヤモヤは正直観終わってあった。


映画が始まる前に流されていた予告編で気になったのは17日から公開の『アメリカン・アニマルズ』という作品。同じくヒューマントラスト渋谷で公開するので観ようと思った。こちらも実話らしい。


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