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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』試写

「スパイダーマン」がMCU離脱というニュースが流れる中、話題のソニー・ピクチャーズにタランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の試写に。
映画は30日から公開で、26日には主演のレオナルド・ディカプリオ&ブラッド・ピットの来日記者会見がある。ソニー・ピクチャーズの試写は登録してないとダメなのだが、前に登録していたから、その来日会見のご案内と追加試写のメールが来たので観に来た。


タランティーノ監督×レオナルド・ディカプリオ&ブラッド・ピット主演というのも豪華すぎるのだが、この映画はやはり映画オタクのタランティーノ、その愛が炸裂している。1969年が舞台になっており、ラジオからは当時のヒット曲が流れ、テレビドラマや映画作品に関するものや映像がバンバン出てくる。ポップカルチャーが溢れ出している。
かつてはテレビドラマの主役を張っていたリック・ダルトン(ディカプリオ)は映画スターに移行しようとしたが失敗しており、ドラマなどの悪役などをするようになり、今や落ち目のスター。彼の友人であり運転手などもつとめるスタントマン・クリフ・ブース(ブラピ)の二人を中心に物語は展開する。


売れっ子だったが、時代とともに自分の役割や存在が薄れていく中で苦悩しているリック、スタントマンとして影武者のようにリックを助け続けるが日の目を見ることはないクリフ。この光と影のコンビがほぼ一緒に行動していくことで、ハリウッドの栄光と挫折を、映画人たちの栄華と堕落を描いているのだろう。しかし、クリフがいい人すぎて、影が光を覆い尽くそうとするような展開にはならない。ちょっといい人すぎる。
ずっと最前線にいて主役を張ってきたディカプリオとブラピの二人は、幾人もの新しい若手や才能に脅かされ、時には観客にも飽きられかけてきたが、才能と努力と運を伸ばし続け、トップで居続けている。だからこそ、ハリウッドの光と闇を見続けているはずだ。二人ともプロデューサーとしても映画を作っているというのも大事な共通項だろう。こういう役者が日本ではメジャーなところだと山田孝之ぐらいしかいない。もっと、日本でも増えていくといいのだけど。


ハリウッドのリックの家の隣に『ローズマリーの赤ちゃん』をヒットさせ注目されていたロマン・ポランスキーと妻だった女優のシャロン・テート(マーゴット・ロビー)が越してくる。そう、1969年とはチャールズ・マンソン率いるカルト教団がロマン・ポランスキー宅に押し入って妊娠中のシャロン・テートを惨殺された事件が起きた年だった。また、ブルース・リーやスティーブ・マックイーンなども出てくる時代だったりする。


この物語はハリウッドが大きく変わってしまった1969年を舞台にしている。160分と長尺だが、観ているとまったく長さを感じなかった。テンポの良さもあるが、当時の音楽のリズムによってノリノリな気持ちになるというのもあるのだろう。
チャールズ・マンソンのカルト教団の凶行によって、ハリウッドのセレブたちは金持ちを狙った彼らのような存在から自分を守るために豪邸のセキュリティを強化した。ここからおそらくアメリカのセキュリティ関連会社は成長したのだろう。
ヒッピー崩れのカルト教団だが、西海岸の今や超巨大な企業になっているIT関係の会社はそもそもヒッピーたちの思想がベースにあった。カルフォルニアン・イデオロギーはその両者が結びついていた。セキュリティ会社が成長する際には、もちろんIT会社なども関わり成長するのに寄与したのだろう。たぶん、そういう関係性もこの事件以降にあったと思う。思いつきで書いているのできちんと背後関係は調べていないけど。
そして、それまでのいわゆる「古き良き時代」のゆるやかな隣人関係やフレンドリーな付き合いも少しずつ距離を置くようになったのかもしれない。監視社会のようなものの始まりだろうか。
これは日本だと1995年の地下鉄サリン事件以降に監視社会になったのと似ていると思う。カルト教団によるテロが起きてしまったことで、それまでの社会が一変してしまう。隣人も信じられない、自分を守るために監視を許すようになって、より強固な監視社会が現実のものとなっていく、というように。


タランティーノ監督は最後の15分程度か、それまでこの作品にぶちこんできた映画愛をさらに爆発させる。それはありえたかもしれないもう一つの世界を映画の中で展開することだった。
トランプ大統領以降のアメリカは、いや世界は「ポストトゥルース」になってしまったが、タランティーノはカルト教団が犯した凶行を映画的な表現によって、ある意味では歴史を改変する。映画オタクによる歴史修正主義とも言えるのかもしれないが、圧巻のラストを展開される。かなり爆笑した。
きっと、タランティーノ監督は現在のような社会になってしまった一旦は、シャロン・テートが惨殺されてしまったあの年のあの日からだと考えているのではないだろうか。だからこそ、映画の力を使って、違う可能性の未来をなんとか物語の力で作ろうとした。ここではないもうひとつの現実では、監視社会にはなっていないかのような、そんな期待を持って。
最後のレオナルド・ディカプリオ&ブラッド・ピット+αの大活躍を観たらテンションがすごくあがるし、イヤッホー!みたいに声をあげたくなると思う。


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