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『高速スライダー』ゲンバのツボ①

こんにちは、スタッフアナグマです。久しぶりに「ゲンバのツボ」やります!

ゲンバとは?

ゲンバは、制作の過程を公開したり、読者の皆さまから直接ご意見をいただいたりしながらマンガを描くプロジェクトです。
「ゲンバのツボ」では制作の裏話や作品の解説など、ここでしかお見せできない情報をご紹介します。
今回は『高速スライダー 幸運な男・伊藤智仁』を深く掘り下げますよ!

『高速スライダー』のマンガを描いているのは  『ワイルドリーガー』『神様がくれた背番号』でおなじみ、野球漫画といったらこの人!
渡辺保裕先生です。

ゲンバでは
・ネーム(※セリフや構図を決める下書きのようなもの)
 ↓
・作画(※ペン入れ、トーン処理、効果線などを施した完成原稿)
の順でマンガを公開しています。

今回は第5話「異常の正常」を例に、渡辺先生のネームと作画を比較して創作の真髄に触れるぞ!(もしかしたらマンガ家を目指しているあなたにも参考になるかも!?

①.キャラクターの登場

クリーブランド・インディアンスの練習に合流した伊藤選手。
インディアンスのハーシュハイザー選手に声をかけられるシーンです。

ネームだとハーシュハイザー選手の顔がすでに描かれていますね。伊藤選手と横並びのように立っています。これが作画になると…?

ハーシュハイザー選手はよりアップで、後ろから描かれます。シャツの名前でこそ正体はわかりますが、顔は見切れており「この選手は何者なんだ?」という読者の興味を喚起する効果が生まれています。
さらに伊藤選手の視線が右側に向かっているので、読者も自然と右側を注視することになっているんですね〜。

ちょっとした構図の変化でより読みやすく、意図をしっかり持ったコマになっている…!
前のコマで顔が隠れているからこそ、次ページのアップもより際立ちますね!

いい笑顔!

②.見せ場の構図

伊藤選手の復活登板となる巨人戦の場面です。
ネームでは伊藤選手がベンチから立ち上がる様子が真正面から描かれていますね。(2コマ目)

カッコイイなぁと思うわけですが、作画ではこうなってます。

マウンドに向かって歩いていく伊藤選手を斜め方向から捉えたカットに変わりました。一見ネームよりちょっと地味…?なんですけどこれって野球のテレビ中継でよく見る構図ですよね。
実際の球場でもベンチから投手が出てくる様子を真ん前から見ることはなかなか出来ない。ネームの真正面構図もカッコいいですが、普段読者が親しんでいる野球観戦の光景とは少し違うわけです。

この場面はあえて「読者がよく見る角度=ファン目線」で描くことで、「ファンが3年近く見たいと渇望してきた復活の瞬間」が実現したことにリアリティと臨場感を与えているのです。
さらにいうと伊藤選手が左に歩いていくのも、画面の中に方向性を生み出し次に進む/ページをめくる動機づけに繋がっています。

たったひとコマのロングショットではありますが、作品をビシッとシメるいろいろな技術が詰め込まれているんですね〜。

③.キャラクターの表情

復活登板を果たした伊藤選手を見守る野村監督と古田選手のひとコマ。
ネームでは古田選手(2コマ目)に汗の記号が見て取れます。

やっぱり心配なんだ…。ところが作画になると

メガネとキャッチャーマスクで表情は読み取れず、ネームでの同情的な印象はガラッと消えてしまいました。ふたりのメガネの光が鋭い。

伊藤選手を心配することと、彼の調子が悪いことでチームが勝てなくなることは別、という厳しいプロの現実が、マンガ的な汗の表現もなくなったことでより強く表現されたように感じます。
それに合わせて伊藤選手の表情もかなり写実的に調整されています。

オーバーな表現を控えることで重々しい空気を作り出すことに繋がっているんですね〜。

④.「キメ」の1ページ

最後にこの第5話で最も重要と言っていいページを紹介します。
1ページを丸ごと使って伊藤選手の復活を見せたこのカットです。

ネームでは足で土をならし、久しぶりのマウンドを確かめるようすが描かれています。効果音もありますね。
作画はこう。

もうなにも言う必要ないな…。カッコイイ…。マジで…。

土を蹴る様子や、その音など余分な要素を一切排除し、代わりに魂を込める復活の一球を右腕で掲げる。最高。

文字もいいですよね。この「立つ」の存在感。真っ白な背景にバシッとキマってます。
『高速スライダー』の編集はスポーツ特化型マンガ・イラスト投稿サイトを運営している『スポマ』さんにお願いしているのですが、今回も最高の写植をいただきました。スポーツ好きな人は是非サイトに読みに行ってくださいね!

以上、今回の「ゲンバのツボ」ではネームと作画を比べてみました!

完成するギリギリまで作品をより良くする工夫が凝らされていることが伝わったのではないでしょうか?
普段なにげな〜く読んでいるマンガにも、一見しただけでは気付けないマンガ家の細やかな技術が注ぎ込まれているのです!

さぁ『高速スライダー』ももう一度読んでみて!


\作品の感想はこちらまで!/

#マンガ #野球 #伊藤智仁 #マンバ #ゲンバ #高速スライダー #ゲンバのツボ

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