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イカゲームを見終わって

Netflilxで韓国ドラマにはまり、これは単なる韓国ドラマではなく、全世界大ヒット(2021年11月時点で、『ブリジャートン家』を抜き、Netflixで最も視聴されているシリーズとなり、94カ国でランキング1位となった)と聞いて、これは見るしかない!と途中だった中国歴史ドラマをなげうって視聴開始。基本私は一日一話を見るようにしているのだけれど、最後は年末年始のお休みを使ってダダっと9話見終わった。

ドラマが描く経済格差

見終わってまず思い出したのが、留学中アメリカのマスメディアの授業でドラマを題材に社会問題について論文を書く、というクラスを取っていたこと。アメリカのドラマが指定されていて、どれも見たことのなかった私は大学の図書館で必死で見てレポートを書いていた。一番印象深かったのが『The Cosby Show』で、当時のアメリカでアフリカ系アメリカ人の家族が上位中流階級として描かれ、しかもというかやはり登場しているのはほぼ全員アフリカ系アメリカ人、という設定がアメリカの人種問題がいかに経済問題と逆に根深くつながっているかを物語っている、といったことを書いた記憶がある。

これを思い出したのは、もちろん、ドラマの面白さ(ストーリー展開、最後の謎解き、登場人物の魅力、舞台設定のうまさ)はもちろんありつつ、なぜ今このドラマが世界中で流行るのか?ということに思いを馳せざるを得なかったから。『パラサイト』がアカデミー作品賞を受賞した年にも(そしてこの年には『ジョーカー』がノミネートされていたというのもあり)貧富の差の拡大や怒れる貧困層、社会隔絶といったことが話題になり、たしかその時には「韓国は日本よりも格差が大きな社会だから」といった意見も見たが、このドラマが日本ではもちろん、世界で流行る背景には、経済格差や社会の分断が一国の問題ではなく、世界の問題になっているという大きな背景がもちろんあると思う。

日本、韓国の経済格差と社会流動性

では実際に韓国と日本の経済格差って、どのくらいなんだろう?と調べてみるとOECDの2018年のデータで”Income inequality ジニ係数"(0が格差なし、1が格差大アリ)が韓国データのある国の中で11位の0.34、日本14位の0.33で日本と韓国の差はほぼない、ということがわかる。ちなみに最も高いのは南アフリカの0.62(2017年度データ)7位のアメリカは0.40(2019年度データ)となっている。
これ以上に興味深いのが、最近日経も記事として取り上げていたOECD発表の「社会階層のエレベータ(社会的流動性)」 この分析では、所得階層の最下層の 家庭に生まれた子どもが平均所得を得られるようになる までに何世代が必要化を分析しており、日本はOECD平均の4世代、韓国は5世代。ちなみに中国とインドは7世代必要となっている。
昔インド人、中国人の同僚と、まさにこの社会的流動性の話をしたことがあった。日経の記事にも出てくるのだが、7世代必要なインドでは実は一発逆転のチャンスがあって、それは大学の狭き門に入ること。「昔の科挙みたいやね~」とみんなで話したのだが、限りなき狭き門でありながら、トップ大学に入学すれば最高の就職先が保証されており、一気にトップ階層に上り詰めることが可能なのだ。その一方、中国の場合には戸籍制度がきつく、生まれた場所による格差は埋めがたい、ということを同僚は言っていて、同じ7世代の困難さにも違う社会制度があることがわかる。

日本の社会流動性はどうなっていくのか

OECDの記事では、日本の場合教育分野においては社会的流動性が比較的高いが、世代間の所得流動性はそれほど良くなく、平均に近いという指摘がされている。もっとも、「高学歴の親を持ちながら自身は低学歴となる子 どもの割合はわずか4%であり、自身も高等教育(大学 レベル)の学位を取得する人の割合は71%である。この 「粘着力のある天井」というパターンは、日本はOE CD平均(それぞれ7%と63%)よりも顕著である。」という指摘もされており、昨今よく言われている東大生の親は収入が高い、とか、そもそも高学歴というのはそのとおりでもある。

ただ日本の場合、一定以上の学歴(大学院、MBA)などにそこまでの就職メリットが与えられないことと、まだまだ一旦職業についてからの流動性の低さが氷河期の就職といった新卒時のメリット、デメリットを払拭しきれない構造につながっており、正規、非正規、男性、女性の格差をなくしていくことが社会流動性を上げていく上で必要、という指摘がされている。

イカゲームにおいても、最後は願わずして勝者となった主人公が結局賞金を使い切れずまた損な世界に戻ってしまう敗者の因果の深さが描かれているが、「親ガチャ」が話題になる日本でも運命的に抜けられない、変えられない境遇への思いというのは社会をどうしても暗くしてしまう。アメリカンドリームが誰にでもチャンスのあったGo Westに基づいていた時代を引きずりながら、実際には格差が大きく流動性の低い国になってしまったことのいびつさもアメリカの大統領選に色濃くあらわれてきている。

パラサイトもイカゲームも見終わった時に面白かったけれどやりきれない思いがしてしまうのが今の社会なんだろうけれど、もっと前向きなドラマに流行ってほしいなあ。

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