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46 四谷荒木町の美女たち(友達酒場編4)

 第13回で書いたように、1987年からの数年間、ぼくは友人のライターらと薬王寺町のマンションに事務所を開設した。あくまでも事務所なので、基本は、ほとんどそこに住んでもいた。町名で言うと薬王寺町だが、最寄駅は都営新宿線の曙橋で、牛込柳町にも河田町にも市ヶ谷にも四谷三丁目にも歩いていける便利な場所だった。自転車を常備していたので、それをかっ飛ばして新宿歌舞伎町にもよく映画を見に行っていた。
 四谷三丁目のすぐ付近には、荒木町という飲み屋の集中したエリアがある。当時は、荒木町で飲むことはまずなかったが、「一心」というラーメン屋があり、ここのエリマキラーメンが大好きでよく通っていた。
 薬王寺町の事務所を解散し、ゲームフリークのある下北沢へ引っ越してからは、荒木町との縁はパタリと切れ、足を向けることはなくなってしまった。そんなぼくが再び荒木町へ遊びに行くようになるのは、「スナックアーバン」がきっかけだ。

 スナックアーバンというのは、編集者の都築響一さんと臼井悠さんが共同オーナーを務める業界人御用達のカラオケスナックだ。ホステス陣もベッド・インのちゃんまいこと中尊寺まいさんを筆頭に個性的な美女が揃っており、夜な夜な出版関係者や芸人、ミュージシャンなどが飲みに来る。開店何年目だったか忘れたが、ぼくもエキサイトレビューで知り合ったばかりの杉江松恋さんと連れ立って初訪問した。
 ぼくは歌うのは苦手なので、店に行ってもカラオケを歌うことは滅多になく、ひたすら飲むばかり。店で知り合った編集者らと雑談をしたり、そこから仕事につながるなんてこともある。文壇バーなんていうほどお高くとまったものでもなく、ライトな雰囲気が楽しい店だ。

 アーバンでは悠ママのご好意で何度かイベントもやらせてもらっていて、そのうちのひとつが「覆面歌謡祭」。ぼくが集めた覆面歌手のレコードをみんなで聴くってだけの集まりだが、そのときに近所のバー「Retro Cross Future(通称レトロ)」という80's音楽バーのママのさやさんが来てくれた。それがきっかけでさやさんとも仲良くなり、レトロにもちょくちょく顔を出すようになった。ここには二軒目として行くことが多いので、飲むのはたいてい赤ワイン。おもに80年台の邦楽を聴きながら、終電までのんびり酔うのが心地いい。

 荒木町ではもう一軒、「番狂せ」という店にも行く。こちらはこーけママを筆頭に番狂ガールズが取っ替え引っ替えカウンターに立つ。……と書くと、なんだかとみさわはホステスさん目当てで夜の街を徘徊しているように思われるかもしれないが、そんなことはない。ぼくが酒場に行くときは、まず純粋にお酒が飲みたいから行くのであり、その次に、店に行けば会えるおもしろい人たちと話がしたいから行くのである。だからキャバクラのようなところは少しも興味がない。
 番狂せには、いつもワイングラスを片手にニコニコしているにーにょという常連さんがいた。本名は知らない。無口な人なのであんまり会話を交わしたわけではないけど、どんなに心がささくれた日でも、にーにょに会うと気持ちがふわりと軽くなれた。残念ながら亡くなってしまったんだけど、大好きな人だったな。

 ちなみに、荒木町通いをするようになって、昔よく食べた一心のエリマキラーメンが食べたくなり、30年ぶりくらいに食べてみたのだが、経営者が変わったのか、ガラリとスープの味が変わってしまっていて、がっかりした。その昔、大阪の金龍ラーメンにもハマって来阪するたび食べていたのに、やはりある日を境に味が激変してしまい、がっかりしたのを思い出した。歴史は繰り返すね。

 ※写真は番狂せで「サロメの唇」が店内ライブをしたときの写真。間近で見る京子さんの美しさよ。

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