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23 大阪 MOJO HAND

先週、トークイベントの仕事で大阪から神戸をまわってきた。どちらも大好きな街で、大好きな友達がいる。トークを聞きに集まってくれたお客さんたちも暖かく迎えてくださって、とても楽しい時間を過ごすことができた。

初日は大阪のライブハウスでトークライブをし、一泊したのち、翌日は神戸に移動して地元の集会所のような場所でトークライブをした。二泊目を神戸で過ごしたら、そのまま新神戸から新幹線で帰京しても良かったのだが、そうせずに再び大阪へ出た。ふと思い立って、この機会に大阪の“顔”を写真に撮っておこうと思ったからだ。

大阪の風景といって、ぼくが真っ先に思い浮かべるのは、道頓堀周辺に立ち並ぶ飲食店の、デカすぎる立体看板群だ。もっとも有名であろう「グリコ」の看板は、ネオンサインであって立体とは言い難いが、間違いなく大阪の顔だ。

立体看板の元祖とも言えるのは「かに道楽」。しかし、蟹というのはどこまでが顔なのかね。かに道楽の看板になっているあの赤い甲羅部分は、顔というより背中ではないかと思う。正しく顔と言えるのは、目ん玉が付いてる上端の部分だけだろう。知らんけど(大阪風)。

かつて、ゲームセンターの壁からエイリアンが「ぬっ」と身を乗り出している立体看板があって、ぼくはそれを「エイリアン道楽」と名付けていたのだが、まだ現存しているのかいないのか、今回の旅では見つけられなかった。

出会えなかったといえば、くいだおれ人形にも会えなかった。「くいだおれ」という店は2008年に建物の老朽化を理由に閉店しているが、以降はそこから少し離れたところに移設されたそうだが、今回、その場所へ行ってみても見当たらなかったのだ。まあ、そんなこともある。

他にも、立体看板は「金龍ラーメン」「大阪王将」「串かつだるま」など無数にある。今回、とくに現物を拝見したかったのが「元禄寿司」の飛び出す握り寿司だ。

大阪へ行く前の予習としてスズキナオさんの著書『「それから」の大阪』(集英社新書)を読んでいたら、これら大阪の立体看板を制作しているポップ工芸のことが取材されていた。そこで紹介されている看板の中でも群を抜いて狂っていたのが、この「元禄寿司」の飛び出す握り寿司だったのだ。

〈もともとはお皿に2貫ずつ乗ったやつを6種類ぐらい並べるゆう感じで依頼が来たんですけど、「それやったら1個ボーンと大きいの作った方が迫力あるんと違いますか」ゆうことで作ったんですね。そして、それだけやったら面白くないからゆうて、手を後で付け加えたんです。〉(『「それから」の大阪』218頁より)

トップに上げてある写真が「元禄寿司」のものだが、まぐろの握り寿しを掴んだ手が、二階の壁を突き破ってズドーンと出ている。これぞ大阪。隣にチラと見える串かつだるまの巨大な顔もだいぶ狂っているが、個人的にはやはり寿司を握った手が壁から突き出ているというシュールさに、より惹かれてしまう。

飛び出し看板界のライトニン・ホプキンス。これからぼくは元禄寿司のことを「看板界のMOJO HAND」と呼ぶことにしよう。

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